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【クローズアップ現代】被爆80年「思いをつなぐ」被爆者なき時代の継承

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2025年8月4日に放送されたNHKクローズアップ現代「被爆80年 迫る”被爆者なき時代”」は、現在の日本が直面する深刻な現実を浮き彫りにしました。被爆者数が今年初めて10万人を下回り、全国で被爆者団体の解散・休止が相次ぐ中、私たちはどのように被爆者の思いを受け継いでいけばよいのでしょうか。

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被爆者なき時代とは?被爆80年で迫る深刻な現実

被爆者なき時代——この言葉が現実味を帯びてきています。2025年3月末時点で被爆者数は9万9130人となり、初めて10万人を下回りました。かつて全国に37万人を超えていた被爆者は、高齢化とともに急速にその数を減らしています。平均年齢は86.13歳に達し、時の経過は容赦なく被爆体験の記憶を風化させようとしています。

この状況は単なる数字の問題ではありません。被爆者一人ひとりが抱えてきた壮絶な体験と、80年間にわたって核兵器の廃絶を訴え続けてきた尊い活動が、今まさに継承の危機に直面しているのです。

日本被団協の危機〜全国で相次ぐ被爆者団体の解散・休止

2024年にノーベル平和賞を受賞した日本被団協(日本原水爆被害者団体協議会)でさえ、その活動継続は困難に直面しています。かつては全ての都道府県に所属団体がありましたが、現在では12の道県、約4分の1の団体が解散もしくは活動休止に至っています。

この春、65年の歴史を持つ北海道被爆者協会が解散しました。かつては200人以上の被爆者が参加していた同協会も、最終的には28人にまで減少。会長の廣田凱則さんは解散式で「今まで北海道被爆者協会が大変皆様にお世話になりましたこと、厚く御礼申し上げます」と述べ、長い歴史に幕を下ろしました。

被爆者数が初めて10万人を下回る現状

被爆者健康手帳を持つ人の数は、1981年の37万2264人をピークに減り続け、2025年3月末には9万9130人となりました。平均年齢は86.13歳に達し、この数字は被爆者なき時代が単なる将来の話ではなく、今まさに進行している現実であることを示しています。

若い世代の関心の低さとノーベル平和賞の認知度

さらに深刻なのは、若い世代の関心の低さです。2025年にNHKが行った世論調査では、18歳以上の7割以上が日本被団協のノーベル平和賞受賞を知っていた一方で、中学生・高校生では半数以上が知らないと回答しています。

新潟県原爆被害者の会で事務局を務める西澤慶子さん(被爆2世)は、駅前での署名活動で若い人たちの無関心さを実感しています。「去年、ノーベル平和賞、日本が取ったの?」という質問に対して「わからない」と答える若者の姿は、継承の困難さを象徴しています。

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継承の形骸化が招く課題〜小倉康嗣教授が指摘する本質的問題

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慶應義塾大学の小倉康嗣教授                   (引用:「慶應義塾大学」HPより)

慶應義塾大学の小倉康嗣教授は、継承が困難になっている根本的な原因を「継承の形骸化」と指摘します。この問題は、単に被爆者が減っているということではなく、私たち非体験者側の思考停止にあると分析しています。

なぜ被爆体験の継承が困難になっているのか

多くの人が「原爆の話と言えば反核反戦平和でしょう?もう分かってるよ」という固定観念の中で分かった気になっているか、「そんな過去の大きな話、自分には縁遠いアンタッチャブルな話だ」と思い込んでしまっているのです。

小倉教授は「継承が形骸化した結果、なぜ継承するのか、何を継承すべきなのか、私たちは何と向き合うべきなのかといった根本的なところが社会の中で議論されないまま被爆80年になってしまった」と指摘しています。

「思考停止」状態に陥る現代社会

現代は「経験が隔離された時代」と呼ばれています。個人化した社会の中で、特に若い世代ではSNSのフィルターバブルなどにより、自分の感じ方や考え方の枠を超え出た人や物と出会う機会が制限されています。このような社会状況が、継承の形骸化に拍車をかけているのです。

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被爆者の「思いと生き様」を受け継ぐ新たな取り組み

しかし、絶望的な状況の中でも、被爆者の思いと生き様を受け継ごうとする動きが生まれています。その鍵となるのは、単なる事実の伝達ではなく、被爆者の人生そのものと向き合うことです。

川本省三さんの体験を伝える被爆体験伝承者・鎌田真さん

関西学院大学職員の鎌田真さんは、5年前に被爆体験伝承者となり、2022年に亡くなった川本省三さんの体験を語り継いでいます。川本さんは11歳で家族6人を失った原爆孤児で、戦後の壮絶な体験を紙飛行機を配りながら語ってきました。

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被爆者の川本省三さん                      (引用:「ヒロシマの記憶を継ぐ人インタビュー」HPより)

鎌田さんが特に印象深く語るのは、被爆者であることを理由に結婚が破談となり、自ら命を絶とうとした川本さんが、亡くなった母親の「お前はやればできるぞ」という言葉に救われたエピソードです。原爆孤児の生きてきた人生は「なかなかその人に言えないようなことをやっぱりこうしないと生きてこれなかった」という壮絶なものでした。

関西学院大学生に広がる継承の輪

川本さんの生き様は、より若い世代にも影響を与えています。群馬県出身の大学3年生、中島弘貴さんは鎌田さんから川本さんの人生を聞く中で、深い感銘を受けました。

「僕は川本さんとお会いしたことはないんですけど、でもどっか川本さん知ってるすごい身近な存在っていう風に今すごいお話してて感じています」と語る中島さん。元々原爆や平和について高い関心はなかった彼が、今では仲間を募って被爆者の手記や詩を読む活動を始めています。

高校生が描く原爆の絵〜事実を超えた「思い」の継承

小倉康嗣教授が15年近く調査研究している取り組みに、広島の高校生たちが描く原爆の絵があります。これは被爆者から体験を聞き取りながら、その場面を高校生たちが絵にするという取り組みです。

高校生たちは半年から1年という時間をかけて、悩みながら葛藤しながら被爆者と何度も対話を重ねて絵を仕上げていきます。この過程で重要なのは、単なる事実の模写ではなく、「事実を背負って生きてきた被爆者の経験や思いを知らないと絵は描けない」ということに気づくことです。

興味深いことに、絵を描いてもらった被爆者の方々に「この場面を正確に写し取った写真があったとしたら絵とどちらが良いですか」と聞くと、皆さんほぼ迷いなく絵が良いと答えます。なぜなら、絵には被爆者の思いが込められているからです。

例えば、実際は戸板に寝かされていたお父さんを、高校生が「このままじゃかわいそう」という被爆者の思いを受けて布団を敷いて描く——写真なら嘘になりますが、「布団を敷かずにはいられないという思いも重要な被爆の実相」なのです。

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北海道被爆者協会解散から見る継承の課題と希望

北海道被爆者協会の解散は、継承の困難さと同時に新たな可能性も示しています。解散にあたって課題となったのは、活動拠点となってきた「北海道ノーモアヒバクシャ会館」をどう存続させていくかでした。

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北海道ノーモアーヒバクシャ会館

65年の歴史に幕を下ろした北海道での取り組み

会館には独自に集めた被爆資料が展示されています。広島で被爆し亡くなった中学生が身につけていた名札、長崎で被爆した男性が北海道まで持ってきたマリア像——これらは亡くなるまで大切に手元に置かれていたものでした。

30年にわたり北海道被爆者協会の会長を務めた越智晴子さんの遺品も展示されています。22歳の時広島で被爆し、医者から助からないと言われる重傷を負った越智さんは、「空から太陽が落ちてきたと思いました。だからね、今でもテレビに太陽が映ると恐ろしくてパッと目をあの伏せてしまうんですね」と語っていました。

ノーモアヒバクシャ会館の譲渡と新たな可能性

札幌市などの自治体への引き受け依頼は良い反応を得られませんでしたが、平和教育に力を入れてきた北星学園が申し出を受け入れました。現在、被爆2世や北星学園などの支援者も参加する後継組織を作り、会館の活用方法を模索しています。

学生がここで実習を兼ねて勉強したり、職員の研修会で平和教育をテーマにしたりといった新しいアイデアが生まれており、被爆者なき時代の継承の新たな形が見えてきています。

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専門家が提言する「能動的に受動する」継承のあり方

小倉康嗣教授は、真の継承とは「関わりの構築」だと提言しています。単なる事実を正確に伝達することに尽きるのではなく、「事実を背負って生きてきた被爆者の経験や思いに関わろうとすること」が重要なのです。

小倉康嗣教授が語る真の継承とは

継承とは、被爆者の思いや生き様に「感染」することだと小倉教授は表現します。原爆孤児だった川本省三さんの思いや生き様があり、その川本さんの思いや生き様に触れ伝承しようと取り組む鎌田さんの思いや生き様があり、そこに学生たちが感染していく——これが真の継承の形です。

原爆の絵を描いた高校生の言葉が印象的です。「証言者さんの思いと自分たちの思いが積み重なっていくことで記憶は希薄化するのではなく濃密化するんだ。それが歴史の重さを増していくんだ」。

固定観念を超えて被爆者と出会う方法

では、私たち一人ひとりは何ができるのでしょうか。小倉教授は「能動的に受動する」姿勢の重要性を説きます。手記を読む、証言映像を見るという日常的にできることでも、自分の固定観念を超え出て被爆者のありのままの声を虚心坦懐に受け止めながら感じ考えることが大切です。

被爆者は本当に多くのものを残してくれています。手記、証言映像、被爆者運動の記録、そしてそれを受け取って伝えてくれる人たちも各地にいます。大切なのは、固定観念で捉えていないかをまず気づくこと。それによって自分の狭い枠を超えて被爆者と出会える第一歩となるのです。

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まとめ

被爆者なき時代が迫る中、私たちに問われているのは単に被爆の事実を知ることではありません。被爆者一人ひとりの思いと生き様を受け止め、それを自分なりに継承していく姿勢です。

川本省三さんから鎌田真さんへ、そして中島弘貴さんへと受け継がれていく思いの連鎖は、被爆者がいなくなったとしても、私たちの姿勢によって継続可能であることを示しています。高校生たちが描く原爆の絵が示すように、「記憶は希薄化するのではなく濃密化する」ことができるのです。

クローズアップ現代が浮き彫りにした現実は確かに厳しいものです。しかし、番組はまた希望も示してくれました。被爆80年の今、私たち一人ひとりがどう能動的に受動し、どう行動していけるのか——その問いかけに応える時が来ています。被爆者の思いを未来へとつなぐ責任は、今を生きる私たちの手に委ねられているのです。

※ 本記事は、2025年8月4日に放送されたNHK「クローズアップ現代」を参照しています。
※ 日本被団協のHPはこちら

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