電動キックボードが街中で急増する中、事故や違反も増加しています。「クローズアップ現代」で特集された通り、利便性と安全性のバランスをどう取るかが重要な課題となっています。この記事では、2023年の道路交通法改正後の現状や正しい使い方、先進国ベルギーの取り組みまで詳しく解説。新しいモビリティ革命を安全に進めるためのヒントが見つかります。
- 1. 電動キックボードの急増と事故の現状〜利便性と安全性のジレンマ
- 2. 2023年道路交通法改正で変わった電動キックボードのルール
- 3. 利用者が知らない!電動キックボードの正しい使い方と違反事例
- 4. シェアサービス最大手Luupの安全対策への取り組み
- 5. 専門家・鈴木美緒氏が解説する電動モビリティの課題
- 6. 地方自治体の挑戦〜北九州市の武内和久市長の取り組み
- 7. 警察の対応〜畑英行警視が語る交通ルール徹底の重要性
- 8. ベルギーに学ぶ「安全性と利便性」を両立させる先進的取り組み
- 9. 今後の電動キックボード利用拡大に向けた課題と対策
- 10. まとめ:100年に一度のモビリティ革命を安全に進めるために
1. 電動キックボードの急増と事故の現状〜利便性と安全性のジレンマ
近年、街中で見かける機会が増えている電動キックボード。環境負荷が低く、新たな移動手段として注目されている一方で、事故や交通違反の急増が社会問題となっています。2025年2月19日にNHK「クローズアップ現代」で放送された特集「電動キックボード事故急増 「利用」と「安全」どうはかる?」では、この課題に焦点が当てられました。
電動キックボードのシェアサービスは急速に普及しており、国内最大手の事業者によると、乗り場の数は4年前のわずか200箇所から2025年2月現在では1万1,700箇所にまで急増しています。
しかし、その普及と比例するように増加しているのが事故件数です。過去3年間で事故件数は10倍以上に増加。首都高への侵入、2人乗りや信号無視、さらには死亡事故も発生しています。東京都の調査によれば、38%の人が公道上で危険な運転を目撃したと回答し、実際に接触された、またはされそうになったという人も14%に上ります。
この状況を「100年に1度のモビリティ革命」と位置づけつつ、利便性と安全性のバランスをどう取るかが、社会的な議論となっています。
2. 2023年道路交通法改正で変わった電動キックボードのルール
2023年7月に施行された道路交通法改正により、電動キックボードの規制が大幅に緩和されました。この法改正の背景には、有識者検討会での1年以上にわたる議論がありました。
國學院大學教授の高橋信幸さんは、検討会では「新しい技術を活用することで生活が便利になり、経済も活性化できる」という利便性を重視する意見と、「安全性をしっかり保たなければならない」という意見が対立したと語っています。
改正のポイントは以下の通りです。
- 免許証の要件撤廃:以前は必要だった免許証が不要に
- ヘルメット着用の緩和:義務から努力義務へ変更
- 歩道通行の条件付き許可:時速6km以下(電動車椅子と同等)に制限する条件で歩道通行が可能に
また、電動キックボードは速度によって区分が分けられました。
- 時速20km以下:新設された「特定小型原付」区分(上記の規制緩和が適用)
- 時速20km超:従来通り原付バイクと同じ区分
この法改正により、都市部を中心に電動キックボードの普及が加速し、自転車並みの使いやすさという点で利便性が大きく向上しました。
3. 利用者が知らない!電動キックボードの正しい使い方と違反事例
法改正後も、多くの利用者が正しいルールを理解していないことが問題となっています。特に多い違反は歩道での速度超過です。警察の統計によれば、2023年の法改正後から2024年11月までの交通違反による検挙件数は4万5,536件。そのうち58%が通行区分違反(速度制限のある歩道モードに切り替えずに歩道走行するなど)でした。
また、電動キックボードの飲酒運転による事故の割合が、自転車や原付バイクと比較して高いことも指摘されています。これは、夜間の帰宅時に公共交通機関が利用できない際に、シェアサービスを利用するケースが多いためと考えられます。
正しく守るべきルールとして、特に注意が必要なのが以下の2点です。
- 2段階右折:電動キックボードは自転車と同様に2段階右折が必要。違反すると5万円以下の罰則
- 歩道通行時のルール:6kmモードに切り替え、車道寄りを徐行する必要がある
「クローズアップ現代」の取材では、多くの利用者が「自転車と同じように車道の左側を走ればいい」と考えていたり、法改正で歩道走行が条件付きで可能になったことを知らなかったりするケースが見られました。
4. シェアサービス最大手Luupの安全対策への取り組み
電動キックボードのシェアサービス国内最大手のLuupは、安全対策を経営の最優先課題と位置づけています。同社執行役員の山本亮太郎さんは、「会社のリソースすべてを注ぎ込みながら安全対策を進めていく」と語っています。
具体的な取り組みとして、Luupでは、
- 登録時の交通ルールテスト実施:10問全てに正解しなければ利用できない仕組み
- アプリ内での注意喚起:飲酒運転などへの警告
- 違反者への対応強化:悪質な違反者には利用停止措置
しかし、山本さん自身も「一定の効果はあるものの、さらなる強化が必要」と認めており、今後も対策の拡充を進める考えです。
警察とシェアサービス事業者は連携してルール周知活動に力を入れていますが、日々新しい利用者が増える中で、いかに効果的に安全意識を浸透させるかが課題となっています。
5. 専門家・鈴木美緒氏が解説する電動モビリティの課題
東海大学准教授で交通工学が専門の鈴木美緒氏は、電動キックボードを含む電動モビリティの可能性と課題について解説しています。
鈴木氏によれば、電動モビリティは特に環境問題に関心が高いヨーロッパを中心に「車に代わる乗り物」として期待が高まっています。日本でも利便性を重視する形で普及が進んでいますが、利用者の知識が追いついていない状況です。
また、電動キックボードなどの新しい乗り物の利用環境整備について、鈴木氏は「自転車専用レーンの整備」が重要だと指摘しています。日本では限られたスペースの中で、すべての交通参加者が使いやすい道路を作ろうとするあまり、十分な幅の自転車レーンを確保しづらい状況にあります。
しかし、京都市などでは三車線ある道路の一車線を潰して自転車レーンとする取り組みも始まっています。鈴木氏は「既存の道路の活用を工夫することで、まだまだ環境整備の余地がある」と話しています。
また、短距離(2〜3km)の移動に車を使う人が多い日本では、電動キックボードへの乗り換えによって車の交通量を減らせる可能性も指摘しています。
6. 地方自治体の挑戦〜北九州市の武内和久市長の取り組み
電動キックボードの普及は都市部だけでなく、地方の課題解決にも貢献し始めています。北九州市では、インバウンド観光客の増加に伴い、ドライバー不足からバスやタクシーが減少する中、観光客の移動手段の確保が課題となっていました。
この課題解決のため、北九州市の武内和久市長は電動キックボードの導入を後押ししています。市は公共施設の敷地を乗り場として提供するなど、シェアサービスの普及を積極的に支援しています。
武内市長は「海外からのお客様を呼び込む際に、市内を効率的に回る手段として有効。小倉駅前のホテルから電動キックボードを使えば5分程度で移動できる場所もあり、短時間で多くの場所を回れることで、町が潤い、賑わいも生まれる」とメリットを語っています。
このように、電動キックボードは都市部の交通渋滞緩和だけでなく、地方創生や観光振興にも寄与する可能性を秘めています。
7. 警察の対応〜畑英行警視が語る交通ルール徹底の重要性
電動キックボードの普及に伴い、警察も安全対策に力を入れています。大阪府警察本部交通課の畑英行警視は「交通違反が非常に多い」と指摘した上で、「利用者の方に正しいルールを知っていただきたい。ルールの遵守があってこそ事故防止につながる」と訴えています。
警察はシェアサービス事業者と連携し、街頭での啓発活動を実施。「原則、車道の左側を走る」「歩道通行や右側通行の違反が多い」など、基本的なルールの周知に努めています。
特に若年層を中心に、交通ルールの教育が十分でないまま電動キックボードを利用するケースが増えており、効果的な安全教育の仕組みづくりが急務となっています。
8. ベルギーに学ぶ「安全性と利便性」を両立させる先進的取り組み
電動キックボードの安全対策で注目されるのがベルギーの取り組みです。ベルギーでは事故件数が3年前まで増加していましたが、行政と事業者が一体となった安全対策により、翌年から減少に転じました。
ベルギーの主な対策は以下の通りです。
- 2022年の法律改正:
- 電動キックボードは自転車と同じ道路を通行(歩道走行は原則禁止)
- 違反には罰則を設定
- 自治体によるシェアサービス事業者管理:
- 首都ブリュッセルでは事業者をライセンス制に
- 安全性や環境への影響など5項目を100点満点で点数化し審査
- 高得点の企業のみサービス提供を許可
- 事業者によるデジタル技術活用:
- 「初心者モード」の導入(最初の5回は時速15kmに制限)
- 利用時間ではなく距離に応じた料金システム(速度抑制効果)
- 指定区域での自動速度制限システム
交通系シンクタンクの交通安全部門のブノワ・ゴダールさんは「制度の目的は事業者が利益だけでなく安全性も考慮しているかのチェック。ブリュッセルで営業を続けるには交通安全を重視する姿勢が重要」と説明しています。
これらの取り組みにより、シェアサービス事業者のアレクシ・イエルノーさんによれば「100万km当たりの事故率は年々10%ずつ減少し、状況は改善している」とのことです。
9. 今後の電動キックボード利用拡大に向けた課題と対策
電動キックボードをはじめとする電動モビリティの普及は今後も進むと予想されますが、安全面での課題は残されています。鈴木美緒氏によれば、今後取り組むべき課題として以下の点が挙げられます。
- インフラ整備:
- 自転車専用レーンの拡充
- 車の通行量とのバランスを考慮した道路設計
- 行政と民間の連携強化:
- 道路情報と利用者データの統合
- 安全なルート案内システムの開発
- 安全教育の充実:
- 小中学生への実践的なルール教育
- 利用者向け安全講習の拡充
また、世界的には安全性を重視する動きも見られます。フランスのパリ、スペインのマドリード、マルタ、オーストラリアのメルボルンなどでは、事故や違反の続発を受けてシェアサービスを禁止する措置も取られています。
日本においても「危険だから乗ってはダメ」と禁止するのではなく、「工夫して安全に利用できる環境を作る」方向での検討が進められています。
10. まとめ:100年に一度のモビリティ革命を安全に進めるために
電動キックボードは「100年に一度のモビリティ革命」の中心的な役割を果たすとして期待されています。環境負荷の低減、移動の効率化、地方創生など、社会的なメリットは大きいものの、安全面での課題解決が急務です。
2023年の道路交通法改正により利便性は向上したものの、ルールの複雑化や認知不足による事故・違反の増加が問題となっています。
ベルギーの事例に見られるように、行政と事業者の連携、デジタル技術の活用、効果的な安全教育など、総合的なアプローチが必要です。
電動キックボードを含む新しいモビリティが社会に受け入れられ、真に役立つものとなるためには、「乗る人の責任ある行動」と「社会全体での仕組みづくり」の両方が欠かせません。
利便性と安全性のバランスを取りながら、この新しい移動手段を社会に根付かせていくことが、私たちの課題といえるでしょう。
※本記事は、2025年2月19日放送のにNHK「クローズアップ現代」を参照しています。
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