発達障害のお子さんを持つ親御さんは、適切な支援が受けられるか不安を感じていませんか?NHK「クローズアップ現代」で取り上げられた5歳児健診と発達障害支援について、児童精神科医の神尾陽子医師の見解をご紹介します。「100人いたら100通り」という発達の多様性を理解し、お子さんに合った支援方法を知ることで、より良い未来への道筋が見えてくるでしょう。
神尾陽子医師が語る発達障害支援の現状と課題
2025年4月15日に放送されたNHK「クローズアップ現代」では、児童精神科医の神尾陽子医師が発達障害支援の現状と課題について重要な指摘をしました。神尾医師は発達障害を30年以上診察・研究してきた専門家であり、番組内では特に支援体制の不足について言及しています。
神尾医師によれば、発達障害の支援は「量的にも質的にも理解が不十分」な状況が続いているとのこと。特に医療現場や教育現場におけるマンパワー不足が深刻な問題となっています。文部科学省の全国調査では、通常学級の中で特別な支援が必要な子どもの割合が、20年前の6.5%から令和4年には8.8%に増加していることがわかっています。これは約10人に1人の割合で、支援が必要な子どもがいることを示しています。
神尾医師は「学校の設計をきちんと見直して、どういうお子さんが支援を受けていないのかということも検証すべき」と指摘し、根本的な教育システムの見直しを提案しています。単に支援の依頼をするだけでなく、学級設計や教師の配置など、具体的な施策が必要だと強調しています。
5歳児健診の本格化と保護者の戸惑い〜クローズアップ現代が伝える最新状況
2025年1月から、国は発達障害の早期発見・早期支援を主な目的とした5歳児健診の支援を本格化しました。この健診は1歳6か月や3歳児健診と異なり、自治体の任意で実施されるものです。番組内では、現在の実施率が約13%であることが紹介され、国は補助金を増額して全国での実施を目指しています。
しかし、この5歳児健診の本格化に対して、保護者からは様々な声が上がっています。「発達障害のラベリングにつながるのではないか」「小学校に就学するまでや就学後も適切な支援が受けられるか」などの不安の声が聞かれます。
番組では、10歳の時に当時の診断でアスペルガー症候群と診断された娘を持つ斎藤さんの事例が紹介されました。斎藤さんは「5歳の時に診断がついていれば何か変わっていたんじゃないか」と語り、早期発見・早期支援の重要性を示唆しています。娘さんは小学校で友達ができず、8歳で不登校になった経験があり、卒業文集には「友達が心から欲しい」と苦しみを綴っていました。
一方で、5歳児健診で発達の遅れを指摘された後、適切な医療につながることができない現状も報告されています。番組では、専門医の診察を受けるまでに平均2.6ヶ月、場合によっては半年から1年以上待たなければならないケースもあると紹介されています。
発達障害の早期発見・支援における5歳児健診の役割とは
5歳児健診では、保健師や医師が子どもと遊んだり、親に普段の様子を聞き取ったりしながら発達のチェックを行います。自閉スペクトラム症、注意欠如多動症、学習障害などの発達障害を早期に発見し、支援につなげることが主な目的です。
神尾医師は5歳児健診の役割について、「1歳半や3歳での検診で発達障害の早期発見はある程度可能であり、5歳で新たに発見できるケースは少ない」としながらも、「1歳半から3歳までの支援を振り返り、これまでの支援の効果や今後必要な支援を整理する機会になれば有益」と指摘しています。
5歳児健診の研究を行っている医師の永光信一郎さんは、発達障害が早期に発見されないことで、いじめや不登校につながるケースがあると指摘し、「支援をしていくことによってそれらの問題を未然に防ぐこともできるのではないか」と述べています。
神尾医師は「支援をスタートさせることが大事」と強調し、必ずしも診察を最初に受ける必要はなく、園の先生や心理の専門家に相談しながら、子どもが落ち着いて過ごせる方法を試していくことの重要性を説いています。
医療機関のマンパワー不足が招く支援体制の問題点
番組では、発達障害の診察や医療につながることの難しさが浮き彫りになりました。児童精神科医の矢野瑞季さんは「専門知識を持つ医療現場のマンパワー不足」が原因だと指摘しています。矢野医師の医療機関では、初診の患者が55人待ちという状況で、新たな患者の受け入れができない状態だといいます。
発達障害の診察や検査には時間がかかります。日常生活の丁寧な聞き取りや行動の観察など、問診だけで1時間以上かかることも珍しくありません。矢野医師は「子どもの発達は100人いたら100通り」であり、「診断名だけでは表せないものがある」と指摘し、「適切な支援に結びついていく受け皿が足りていない」と警鐘を鳴らしています。
神尾医師も「診断はチーム」であると強調し、言葉、運動、行動など様々な面を持つ発達障害に対しては、それぞれの専門家がチームとして診察し、支援計画を立てることの重要性を説いています。
このような医療現場の状況について、子供家庭庁は「保健師や心理職等に対する研修費用の補助事業を創設した」と回答していますが、神尾医師は「有効な解決法は学校のサイズや先生の数など投資が必要なもの」であり、「支援でカバーできることには限界がある」と指摘しています。
子どもを支える療育とペアレントトレーニングの効果
発達障害のある子どもを支援する方法として、番組では療育の重要性が取り上げられました。神尾医師は療育について「専門家が行うもので、1人1人のお子さんに必要な目標を立てて、様々な手法がある」と説明しています。
特に注目されたのは、江戸川区の発達相談支援センターで行われているペアレントトレーニングです。このプログラムは、子どもへの支援だけでなく、親にもその手法を学んでもらい、「我が子の専門家」になってもらうというものです。センターではアプリを活用して子どもごとに成長具合を見える化し、自宅でも取り組むことができるようにしています。
参加した親からは「家でも一緒に学ばせていただいている」「日々成長を感じる、できないことができるようになるのが楽しみ」という声が聞かれました。このプログラムは自治体と国の公費で3歳以上は無料で利用することができるという点も、多くの家庭にとって大きなメリットとなっています。
神尾医師は、療育は専門家のサポートだけでなく、社会全体で支援できることもあると指摘し、発達障害について関心を持ち、家族に対してできることを考え、声をかけるなどの支援も重要だと述べています。
インクルーシブ教育の実践例と発達障害のある子どもの可能性
番組では、埼玉県の喜沢小学校で行われているインクルーシブ教育の取り組みが紹介されました。この学校では、誰とどこでどのような教材を使って勉強するかを自由に選ぶことができる授業が行われています。
通常は特別支援学級で学ぶサトシさんも、自分のペースで学ぶことができるため、意欲的に参加しています。コミュニケーションが苦手で自分の考えを伝えるのに時間がかかるサトシさんですが、他の児童との交流を通じて「友達に教えてもらうのは分かりやすい」と感じています。
加藤貴嗣校長は「誰一人取り残されないみんなが幸せになる学校」を目指し、「みんなが違うのが当たり前、その違いをどう活かしてより良い社会を作っていくか考えられる人になっていく」と語っています。
神尾医師はインクルーシブ教育について、「1つの部屋でみんなが一緒のことをする」という誤解があると指摘し、「どの教室であっても1人1人みんな違う多様性を尊重して1人1人のペースで教育を受けられる、お互い学び合う」ことが重要だと述べています。
また、国連からは日本の教育の在り方について「障害のある児童への分離された特別教育が永続している」という勧告を受けていることも紹介され、神尾医師は「1人1人の支援が通常学級でも確実に届いているか」が問われていると指摘しています。
神尾陽子医師が提唱する「脳の個性・多様性」という発達障害の捉え方
神尾医師は発達障害について「生まれつきの脳の個性、多様性」であると捉え、「普通にするために何かして治す」ことではなく、「その人の個性を最大限に伸ばせるような環境作り」が重要だと強調しています。
発達障害のある子どもに対して親ができることとして、神尾医師は「その子のペース、学びを大事にすること」「どの子もみんな発達していくが、ペースが一般的な標準と違うだけ」という認識を持つことの重要性を説いています。そして「1番集中していることが1番彼らの関心を強いことなので、そこを見つけて伸ばす」ことを推奨しています。
この考え方は、多様性を尊重し、1人1人の個性を認める社会づくりにつながります。神尾医師は「発達障害のある人もない人も安心して過ごせる豊かな社会」を目指すべきだと訴えています。
まとめ:発達障害支援の未来と一人ひとりに合った支援の重要性
NHK「クローズアップ現代」で取り上げられた発達障害支援の課題と展望について、児童精神科医の神尾陽子医師の見解を中心にまとめました。
5歳児健診の本格化は早期発見・早期支援という点で期待される一方、検診後の医療や教育も含めた支援体制の不足が大きな課題となっています。特に医療機関のマンパワー不足や、教育現場での適切な支援の不足は早急に解決すべき問題です。
神尾医師が強調するように、発達障害は「生まれつきの脳の個性、多様性」であり、その子どものペースや関心を尊重し、個性を伸ばせる環境づくりが重要です。療育やペアレントトレーニングなどの支援方法、インクルーシブ教育の実践など、様々なアプローチが試みられています。
大切なのは、「100人いたら100通り」と言われるように、1人1人に合った支援を提供することです。そして、それは専門家だけでなく、社会全体で取り組むべき課題です。発達障害のある人もない人も、すべての人が安心して過ごせる豊かな社会の実現に向けて、私たち一人ひとりができることを考え、行動していくことが求められています。
神尾医師の言葉にあるように、発達障害のある子どもたちを支援することは、その子の「個性を最大限に伸ばす」手助けをすることであり、それが結果的に多様性を尊重する社会の実現につながるのではないでしょうか。
※本記事は、 2025年4月15日に放送されたNHK「クローズアップ現代」を参照しています。
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