管理職を目指していたのに、今では「罰ゲーム」と呼ばれるようになった現実をご存知ですか?NHK「クローズアップ現代」が特集した令和の最先端人事トレンドから、管理職が直面する課題と革新的な解決策をご紹介します。AI上司や上司代行など、新しい支援システムの導入により、管理職の負担を軽減しながら組織全体のパフォーマンスを高める方法を知ることで、あなたの職場環境も大きく改善できるかもしれません。
令和の管理職が「罰ゲーム」と言われる深刻な実態
かつては多くのビジネスパーソンにとって憧れの存在だった管理職。しかし、2025年の現在、状況は大きく変わりつつあります。一昨年(2023年)に実施された意識調査では、なんと77.3%もの一般社員が「管理職になりたくない」と回答しました。この数字は、管理職が現代社会でいかに忌避される存在になっているかを如実に表しています。
2025年5月8日に放送されたNHK「クローズアップ現代」では、「管理職は”罰ゲーム”!?令和の最先端人事」というテーマで、この問題に切り込みました。番組では、「プレイングマネージャーになるのが一番大変」「みんなに気を使って大変」といった現役管理職の生々しい声が紹介されています。
令和の管理職は、コンプライアンス対応、DX推進、働き方改革への対応、部下のケアなど、様々な業務に追われています。特に部下のメンタルヘルスケアやキャリア支援、多様性への対応など、かつての管理職にはなかった役割まで求められるようになりました。限られた時間の中でこれらすべてをこなすことが求められ、多くの管理職が疲弊している実態が浮き彫りになっています。
クローズアップ現代が明かす管理職の負担増加の背景
番組では、管理職の役割が時代とともにどのように変化してきたかも解説されています。平成初期の「24時間戦えますか」という言葉が流行した時代では、長時間労働が常態化していましたが、その負担はあまり問題視されていませんでした。
しかし、平成から令和への移行期に導入された働き方改革により、状況は大きく変わりました。限られた時間で成果を出すことが求められる一方で、管理職の業務は年々増加。部下の成長支援やキャリア面談、メンタルケア、ダイバーシティへの対応など、新たな責任が次々と追加されています。
番組では、大手介護用品レンタル会社に勤める松波雄治郎さんの例が紹介されました。21人もの部下を持つ松波さんは、売上目標の管理、自らの営業活動、部下一人一人の業務状況把握やメンタルケアなど、膨大な業務に追われています。「部下の業務内容や困りごと、人間関係をすべて把握しきれない」という松波さんの声は、多くの管理職の共感を呼ぶものでしょう。
最先端人事が導入する「AI上司」とは?新しい管理職支援の形
こうした管理職の負担を軽減するため、企業は様々な新しい取り組みを進めています。その一つが「AI上司」と呼ばれるAIによる管理職サポートシステムです。
松波さんの勤める大手介護用品レンタル会社では、2025年4月からこのシステムを導入しました。AI上司は、チャットや会議、メールなどの日々の記録を分析し、社員それぞれのコミュニケーションの特徴を把握。業務内容やパフォーマンスを評価し、レポート化したものを管理職に共有します。
また、社員の「退職リスク」を検知する機能も備えており、勤務時間の変化や休みの増加などのデータから、早期に問題を発見できるようになっています。
AI上司の導入により、松波さんは「見切れていなかった部分に気づける」と評価しています。また、若手社員の一人は「AIが言っていることをきっかけに、より深くコミュニケーションが取れるようになった」と話しています。AI上司が指摘した内容が必ずしも正確でない場合でも、それをきっかけに対話が深まるという効果もあるようです。
社外の知見を活用する「上司代行」システムの可能性
もう一つの注目すべき取り組みが「上司代行」システムです。これは、管理職不足などに悩む企業が外部の人材に上司の役割の一部を代行してもらうサービスで、番組によると2年半前(2022年後半頃)から始まり、現在では150社以上が利用しています。
番組では、従業員130人のマーケティング会社で上司代行を務める安井歩さんの例が紹介されました。安井さんは28歳の管理職・中司和紀さんをサポートし、その部下14人の育成を代行しています。大手IT企業で事業開発などの経験がある安井さんは、新規事業立ち上げの心構えや個別のキャリア相談など、豊富な経験を活かしたアドバイスを提供しています。
「部下全体に向けて発信はするものの、個別の対応が難しい」という中司さんにとって、安井さんの存在は大きな助けになっているようです。上司代行は、特に若い会社で経験豊富な管理職が少ない場合に、外部の視点や経験を取り入れる有効な手段となっています。
若手社員との世代間ギャップを埋める性格傾向ツールの活用法
管理職と部下のコミュニケーション課題を解決するための取り組みとして、「性格の傾向を振り分けるオンラインツール」の活用も紹介されました。これは若い世代を中心に流行しているツールで、性格を「ISFJ(擁護者)」や「ENTJ(指揮官)」などのタイプに分類します。
都内の化粧品会社では、このツールを上司と部下の会話のきっかけとして活用しています。あるプロモーション職の岡部友樹さん(24歳)は、自身が「INTJ(建築家)」タイプであることを知り、それに合ったアドバイスを上司から受けているといいます。
ただし、「型に嵌められるのは抵抗がある」という声もあり、岡部さん自身も「良いところだけ使わせてもらっている」と述べています。このツールは医学的・心理学的根拠が十分に検証されていないという指摘もありますが、コミュニケーションのきっかけづくりとしては一定の効果があるようです。
管理職を廃止?新しい組織体制に挑戦する企業の実例
さらに番組では、より抜本的な組織改革として「管理職がいない会社」の例も紹介されました。ウェブデザインを手掛ける企業では、社員を5人ほどのユニットに分け、管理業務を分散させる組織体制を採用しています。
かつて20人の部下を持つ管理職だった古田康治さんは、現在は「リーダー」という一般職の立場になり、部下に指示をすることはなく、「相手の考えを聞く声かけ」によって自主的な業務推進を促しています。社員からは「指示ばかりされると会社のコマのように感じるが、自分の考えを発して行動に移すことで責任感が芽生える」という声が聞かれました。
この企業では、人事評価は役員が担い、リスク管理は総務部門が担当。業務の管理はメンバーそれぞれに委ねられ、リーダーと対等な立場で働く構造になっています。社員は上司から管理されない代わりに、給与の査定においては自ら成果を示し、希望額を役員に申告する制度を採用しています。
社長の重森仙直さんは「指示をされない自己管理を求められる状況を会社として求めている。そういう自分の意思が持てれば、組織やアクションが良くなる」と話しています。
小林祐児氏が提案する理想的な管理職のあり方とマネジメント改革
番組に出演したパーソル総合研究所主任研究員の小林祐児氏は、現代の管理職が抱える問題と解決策について言及しています。かつては「管理職になることが当たり前の目標」だった時代と異なり、現在は「自分に憧れてくれない部下をどう成長させるか」という課題に直面していると指摘しています。
小林氏によれば、忙しくなった上司ほど「マイクロマネジメント」(細かく指示命令を出すこと)に陥りがちで、それが部下の自主性を育てない悪循環を生み出しているといいます。この罠から抜け出すためには、全てのプロジェクトで100点を取ろうとするのではなく、あるプロジェクトで120点、別のプロジェクトで80点というように「メリハリをつける」ことが重要だと主張しています。
特に「80点の部分の20点の余白」こそが部下に任せ、多少の失敗を許容できる領域だと小林氏は説明します。これがないと「全部自分が巻き取ってやるしかない」と思い込んでしまい、優秀な管理職ほどこの罠に陥りやすいとのことです。
また小林氏は、組織改革の方向性として「筋トレ発想」(管理職自身のスキルやマインドを変えること)だけでは限界があり、一般社員のマインドセットを変えていく「底上げ」が重要だと強調しています。同じ組織課題を上司と部下が一緒になって解決していく体制が理想的だというのが小林氏の見解です。
まとめ:令和時代の管理職に求められる新たな役割と負担軽減策
令和の時代における管理職は、かつてないほど多様な役割と責任を担うようになりました。コンプライアンス対応からDX推進、部下のケアに至るまで、その業務範囲は広がる一方です。その結果、多くの企業で管理職が「罰ゲーム」と揶揄されるような状況が生まれています。
しかし、AI上司や上司代行などの新しい支援システムの登場により、管理職の負担を軽減する可能性も見えてきました。また、性格傾向ツールの活用や管理職を廃止するラディカルな組織改革など、様々な取り組みが進められています。
小林祐児氏が提案するように、管理職自身のスキルアップだけでなく、一般社員の意識改革も含めた組織全体での取り組みが重要です。プロジェクトにメリハリをつけ、部下に任せる「余白」を作ることで、管理職の負担軽減と部下の成長の両立が可能になるでしょう。
令和時代の理想的な管理職像は、すべてを自分で抱え込むスーパーマンではなく、部下の自主性を引き出し、組織全体で課題に取り組む環境を整える「調整役」なのかもしれません。管理職がまた「憧れの存在」となるためには、企業も社会も、この新しい管理職像に向けた改革を続けていく必要があるでしょう。
※ 本記事は、2025年5月8日に放送されたNHK「クローズアップ現代」を参照しています。
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