高齢化が進む日本で、認知症高齢者を狙った不動産詐欺が深刻化しています。2024年11月13日放送の、NHK「クローズアップ現代」の取材で明らかになった最新の手口と、その対策についてお伝えします。
認知症高齢者を標的とした不動産詐欺の最新実態と詳細
現在、認知症高齢者は471万人あまりとされ、MCI(軽度認知障害)の方を合わせた数は、来年(2025年)には1035万人に達すると達すると推計されています。こうした中、判断力の衰えた高齢者を狙う不動産詐欺が次々と発生しています。今年6月には、高齢者にアパートの一室を不当な高値で売りつけていた不動産会社の社員が逮捕される事件が起きました。
認知症高齢者を狙う不動産詐欺の巧妙な手口
不動産業者は、80歳以上の高齢者9万人分の個人情報が記載されたリストを使用していました。このリストは名簿業者から一人当たり約10円で購入され、ターゲットを選定する際に使用されていたのです。
特に巧妙なのが、電話での営業手法です。「新入社員だった私を励ましてくださったのを覚えていませんか?」といった架空の話を切り出し、相手の反応から判断能力の低下を見極めていました。京都府立医科大学の成本迅教授によると、これは軽度の認知症やMCIの特徴を巧みに利用した手口だといいます。
さらに深刻なのが、被害の連鎖です。アパートを購入させられた後、別の業者が次々と現れ、価値のない原野や山林を売りつける二次被害、三次被害が発生しています。ある88歳の女性は、わずか10ヶ月で12か所もの山林や原野の売買を繰り返され、約1000万円を失ったケースも確認されています。
なぜ認知症高齢者が不動産詐欺の標的になるのか
狙われやすい対象として、一人暮らしの高齢者が浮かび上がっています。取材対象となった61人のうち、多くが80歳以上の独居高齢者でした。注目すべきは、その大半が認知症の診断は受けていないものの、判断能力や記憶力の低下が見られる方々だったという点です。
専門医によると、軽度認知障害(MCI)の段階では、日常生活には支障がないものの、金銭管理などで問題が生じやすいとされています。また、認知機能の低下を周囲に悟られたくないという心理が働き、「覚えています」と相手の話に合わせてしまう傾向があるといいます。
さらに深刻なのは、3人に1人が被害に遭ったことを家族にも相談できていない現状です。葛田勲弁護士は「私たちが把握している被害事案は氷山の一角」と指摘しています。
不動産詐欺から認知症高齢者を守る対策と予防法
対策の最前線として注目されているのが、金融機関の取り組みです。京都信用金庫では、職員の94%が認知症サポーターの資格を取得し、顧客の認知機能チェックを積極的に実施しています。
自治体レベルでも新たな取り組みが始まっています。滋賀県野洲市では、警察や消費者庁から押収した名簿を基に約800人の要注意リストを作成。このうち2割を占める一人暮らしの高齢者を重点的に見守る体制を構築しています。
具体的な予防策として重要なのが、以下の早期発見のためのチェックポイント3点です。
・ものをなくしてしまうことが多くなり、いつも探し物をしている
・財布や通帳など大事なものをなくすことがある
・お金の管理や計算が以前より難しくなった
駒村康平教授が指摘する法制度の課題と解決策
慶應義塾大学経済学部の駒村康平教授は、現行制度の問題点として、認知症の診断の有無で対応が大きく異なることを指摘しています。MCIの段階から保護する仕組みの必要性を強調しています。
特に注目すべきは、アメリカやイギリスの先進的な取り組みです。これらの国では、
・不自然な取引を検知した際の取引停止システム
・金融機関職員による顧客の心身状態の確認
・経済的虐待を発見した際の当局への通報義務
などが制度化されています。
まとめ:認知症高齢者を守るために私たちができること
高齢者を不動産詐欺から守るためには、以下の取り組みが重要です。
- 早期の備え ・認知機能の低下を感じたら、早めに財産管理について家族や専門家と相談 ・任意後見制度や家族信託などの活用を検討
- 周囲のサポート ・独居高齢者の見守り体制の強化 ・金融機関と自治体の連携による保護体制の構築
- 社会システムの整備 ・認知症基本法に基づく本人中心の社会づくり ・取引ルールの見直しと新たな保護制度の確立
私たち一人一人が、身近な高齢者に関心を持ち、声をかけ合うことから始めることが大切です。認知機能の低下は誰もが直面する可能性がある問題です。皆で支え合い、守り合える社会を作っていくことが求められています。
※本記事は、2024年11月13日放送の、NHK「クローズアップ現代」を参照しています。
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