2025年6月10日に放送されたNHK「クローズアップ現代」では、熟年世代のパートナー探しが注目を集めました。人生100年時代を迎えた今、40代後半から60代前半の熟年世代が新たな出会いを求める姿が描かれ、多くの視聴者の心に響きました。夏木マリさんや社会学者の山田昌弘教授の貴重なコメントとともに、現代の熟年婚活事情を詳しく見ていきましょう。
熟年世代のパートナー探しが急増中!その背景とは?
熟年世代の婚活が今、大きな盛り上がりを見せています。番組では驚くべきデータが紹介されました。この30年で熟年世代と呼ばれる40代後半から60代前半の独身者が2.4倍に増加しているのです。この背景には、未婚の人の増加に加えて離婚の増加があります。
特に注目すべきは、熟年世代が求めているものが単なる結婚相手ではないということです。人生100年時代を迎えた現在、仕事においてセカンドキャリアが叫ばれるように、家族においても「セカンドキャリア」を求める人が増えているのです。
山田昌弘教授によると、現在のシニア世代には特徴的な背景があります。「今のシニア世代は実は80年代から90年、つまりバブルで恋愛が盛んだった時期に青春時代を過ごした」と分析しています。そのため、仕事や子育てが一段落した後で、再び幸せを求めて新しい伴侶を探したいという気持ちが強いのです。
興味深いことに、「今若者は恋愛離れといわれているが、むしろ中高年の方がキュンキュンしたいって人多いかもしれない」と山田教授は指摘しています。これは、恋愛盛んな時代を経験した世代ならではの特徴といえるでしょう。
マッチングアプリと婚活バスツアーで広がる出会いの場
熟年世代の出会いの場は大きく進化しています。特に40代以上限定のマッチングアプリの登録者数が10倍に急増しており、これまで若い世代が主流だったマッチングアプリに熟年世代専用のサービスが登場しています。
これらのアプリは熟年世代に配慮した特徴を持っています。文字が大きくシンプルな作りで、熟年世代が苦手とする自撮り写真もAIがサポートしてくれます。アプリ事業責任者の山口昴星さんは「若者向けアプリですとやっぱり結婚とか出産をゴールにされているところが多いが、40代以上の方に関しては本当に人生の最後のパートナーというところを探していらっしゃる。そこにやっぱり真剣さを感じる」と語っています。
一方、婚活バスツアーも大人気で、申し込み殺到によりキャンセル待ちが相次ぐ状況です。番組で密着した大阪から徳島の鳴門までのバスツアーでは、10分ごとに席を移動しながら1対1でトークする形式で進行されました。参加者の会話では「結婚歴は?」「お子さんは?」「孫もいてます」といった、熟年世代ならではの現実的な話題が交わされていました。
このツアーで初参加したみさきさん(45歳、離婚歴あり)は、「旅行行って景色がいい時になんか誰かと分かち合いたい。今結婚したいとかじゃなくて早くいい人に出会いたい」と語り、結果的に50代の男性とカップル成立を果たしました。
夏木マリ・山田昌弘が語る「人生後半のパートナーシップ」
番組のゲストである夏木マリさんは、2011年に59歳で結婚した経験を持つ熟年結婚の象徴的存在です。パーカッショニストの斎藤ノヴさんと結婚した夏木さんは、熟年世代のパートナー探しについて「人生色々やってきた後、後半何か豊かな時間を求めるということも素晴らしい」と肯定的に評価しています。
夏木さん自身は積極的な婚活はしていませんでしたが、「人ありき」という考えを持っていたといいます。「その彼が見つかったので結婚したということで、だからちょっと結果は同じなんですけど、あんなに一生懸命探さなかったんだけどラッキーなことにあの巡り合った」と振り返っています。
特に印象的だったのは、結婚の形についての考え方です。夏木さんは当初、籍を入れる必要性を感じていませんでしたが、彼の102歳の母の介護を考えた時、「ちゃんと嫁の立場として見た方が、母も安心するだろう」と考え、結婚という形を選択したといいます。
山田昌弘教授は、熟年世代のパートナー探しの動機として孤独への不安も大きいと分析しています。「高齢になって孤立するのが不安だという人が既婚者に比べて独身者の方がすごく多い。そういう意味からもその不安を一緒に乗り越える相手が欲しいという気持ちはとてもよく分かる」と語っています。
また、年を重ねることの利点として夏木さんは「2人でいると便利。夫婦の割引とかもある。とにかく2人で暮らしてみて豊かになる。人生後半2人がいい。お食事するのも2人がいいし、映画行ったりするのも2人がいいし旅行もそう」と実体験を交えて語りました。
熟年世代ならではの課題とリスク対策
一方で、熟年世代のパートナー探しには特有の課題とリスクも存在します。最も深刻なのがロマンス詐欺の急増です。番組によると、被害者の8割が40代以上で、被害額もこの1年で倍増している状況です。
実際の被害例として、50代男性が20万円を騙し取られたケースが紹介されました。マッチングアプリで知り合った”奈美”と名乗る人物から日常生活の写真や動画が送られ、過去のDVや離婚などの苦労話を聞かされて同情し、最終的に投資話を持ちかけられて金銭を失ったのです。
ロマンス詐欺被害者支援団体(NPO法人 M-STEP)代表の新川てるえさんは「画像加工の技術とかもすごく上がって、もうありとあらゆるテクノロジーの進化を使っている。今って100歳まで生きるよって言われている中でパートナーがいなければやっぱり求めたくなったり、もううってつけのところにこの詐欺がストンと入ってきた感じ」と警鐘を鳴らしています。
その他の課題としては、家族の理解を得ることの難しさがあります。番組では、子供に再婚することを相談していなかった59歳の水原さんのケースが紹介されました。前妻との子供が新しい妻を受け入れず、食事に手をつけないなどの問題が発生していました。
熟年世代ならではの課題として、山田教授は「中高年になるとやはり積み上げた人生というのがあるから、それをすり合わせなきゃいけない。病気とか、お子さんもいらっしゃるし、ご高齢のご両親がいらっしゃるかもしれない。あとお金のすり合わせというのは結構大変」と指摘しています。
成功事例に学ぶ新しいパートナーシップの形
番組では、成功例として60代の木村さん夫妻(仮名)の事例が詳しく紹介されました。バスツアーで意気投合した2人は、出会いから4ヶ月という短期間で結婚を決めました。しかし、その過程では様々な課題を1つ1つ丁寧に解決していきました。
まず重要だったのが経済面の透明性です。お互いの貯金や年金について丁寧に伝え合い、「年金がこれだけです。これだけで生活をしましょう」と具体的な話し合いを行いました。
次に住居の問題では、神戸と奈良でそれぞれ一人暮らしをしていた2人が、別居婚という新しい形を選択しました。妻の里美さんは「子供と孫が遊びに来る家をそのまま残したい」という希望があり、週に3、4日お互いの家に行き来する形にしたのです。
夫の恵一さんは「同居にこだわらずに、週末婚であれ、別居婚であれ、通い婚であれ、遠距離婚であれ、いろんな形あるやろう」と柔軟な考えを示しています。
健康面での課題も乗り越えました。出会って2ヶ月の頃、里美さんが恵一さんの背中の違和感のある膨らみを発見し、病院で腫瘍が見つかりました。幸い良性でしたが、これをきっかけに年1回の健康診断を約束し、お互いの健康管理を共に行うことを決めました。
最も重要だったのが家族の理解でした。里美さんは結婚を考え始めてすぐに子供たちに相談しました。次男は「母親がすごくいい人と出会えたんだという事実があるので拒否するという感情は出なかった」と受け入れてくれました。
結婚から1年後の現在、恵一さんは定期的に子供たちとの食事会を企画し、「血がつながってなくても、子供という家族というものをいっぺん死ぬまでに味わってみたい」という願いを実現しています。子供たちも「確かに父親かって言ったら父親ではないんですけど、母にとっての大事な人というのが自分の中にもある」と新しい家族の形を受け入れています。
まとめ
2025年の「クローズアップ現代」で取り上げられた熟年世代のパートナー探しは、人生100年時代における新しい生き方の提案でもあります。マッチングアプリや婚活バスツアーなどのサービスが充実し、出会いの機会は確実に増えています。
しかし重要なのは、夏木マリさんが語った「話さないと分からない」というコミュニケーションの重要性と、山田昌弘教授が指摘する「お互いを思い合って大切にするという気持ち」です。従来の結婚観にとらわれず、別居婚や通い婚など多様なパートナーシップの形が受け入れられる時代になっています。
熟年世代のパートナー探しで大切なのは、自分にとっての豊かな人生とは何かを考え、そこにどんなつながりが必要なのかを見つめ直すことです。ロマンス詐欺などのリスクに注意しながらも、人生後半をより豊かに過ごすためのパートナーシップを築いていくことが、これからの時代に求められているのかもしれません。
番組を通じて描かれた熟年世代の真剣なパートナー探しの姿は、年齢に関係なく人とのつながりを求める人間の本質的な願いを表しており、多くの視聴者に勇気と希望を与えたことでしょう。
※ 本記事は、2025年6月10日に放送されたNHK「クローズアップ現代」を参照しています。
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