2025年10月22日放送のNHK「クローズアップ現代」で取り上げられた家賃高騰問題。東京23区では5年前の1.3倍に跳ね上がり、突然7万円もの値上げ通告を受ける事例も続出しています。この記事では、番組で明らかになった家賃高騰の3つの原因、投資目的のマンション転売の実態、そして専門家が語る今後の見通しと具体的な対策まで、詳しく解説します。住まい探しや家賃交渉で悩んでいる方に役立つ情報が満載です。
なぜ家賃は高騰しているのか?3つの主な原因
家賃の高騰は、複数の要因が複雑に絡み合って起きています。番組では主に3つの原因が浮き彫りになりました。
まず1つ目は、マンション販売価格の上昇です。新築・中古ともに分譲マンションの価格が大幅に上がっており、それが賃貸価格にも波及しています。購入できない人たちが賃貸市場に流れることで、需要が高まり家賃も上昇するという連鎖が起きているのです。
2つ目は、建築・管理コストの急激な増加です。番組に登場した大家の吉原泰典さんは、照明器具の交換や植栽の手入れにかかる費用が2倍から3倍に値上がりしたと語っています。さらに銀行ローンの金利も2倍になり、大家側の負担は18年ぶりに一斉値上げに踏み切らざるを得ないほど深刻化しています。
そして3つ目が、国内外からの投資マネーの流入です。特に東京都心部や大阪などの大都市では、マンションが「住まい」ではなく「資産」として購入されるケースが急増。短期間での転売を前提とした投機的な動きが、価格をさらに押し上げています。
賃貸住宅大手の大東建託によれば、建築コストは5年で30%も上昇しました。竹内啓社長は「インフレ下の中では、家賃の設定は高くならざるを得ない」と説明しており、構造的な問題であることがわかります。
実例から見る家賃高騰の実態「7万円値上げ」も
番組では、実際に家賃高騰に直面している人々の生々しい声が紹介されました。
最も衝撃的だったのは、都内でマンションを借りている60代男性のケースです。14年間変わらず月21万円だった家賃が、今年1月に突然月7万円の値上げを告げられました。書類には「周辺相場の上昇」が理由として記されていましたが、月28万円という金額は簡単に受け入れられるものではありません。男性が1万円なら応じられると交渉を続けたところ、大家側の弁護士から調停を申し立てると伝えられ、裁判所から書類が届く事態にまで発展しています。
渋谷の不動産仲介会社を訪れたカップルも、予算17万円で2LDKを探していましたが、実際には管理費込みで18万5000円。さらに初期費用として提示されたのは110万円(敷金礼金など6.5ヶ月分相当)で、この日は契約に至りませんでした。森尻大貴店長は「数万は当然上がっている前提で想定した方が良い」と語り、値上がりが常態化していることを示唆しています。
東京23区の賃貸マンション平均価格は過去最高を更新し、カップル向けの2LDK物件は5年前の1.3倍に達しています。番組では「全く同じマンションの同じ間取りで、3年間で5万上がっていた」という仲介業者の証言もあり、立地の良いエリアほど上昇幅が大きいことがわかります。
マンション価格上昇が賃貸価格に与える影響
分譲マンションの価格上昇が、なぜ賃貸価格にまで影響するのでしょうか。
番組で専門家の長嶋修氏が解説したように、「賃料というのは分譲価格に後追いで2年から3年かけて追っていく」という構造があります。つまり、駅近で利便性の高い分譲マンションが高騰すると、「そこに住みたいけれど買えない」という人たちの需要が周辺の賃貸物件に集中します。その結果、賃貸物件の価値も相対的に上がり、家賃が上昇するのです。
この連鎖は特に都心部で顕著です。千代田区では新築マンションに国内外の投資マネーが集中し、価格が高騰。中古マンションや賃貸価格にも影響が及んでいます。
さらに問題なのは、この流れが今後も続く可能性が高いということです。長嶋氏は「仮に今から分譲価格がずっと変わらないと仮定した場合でも、これから2年3年かけて立地のいいところの賃料は上昇する可能性が高い」と指摘しています。つまり、マンション価格が横ばいになったとしても、家賃はまだ上がり続ける可能性があるのです。
投資目的の短期転売が加速する理由
番組で最も注目されたのが、マンションの短期転売の実態です。
大阪市では、タワーマンション専門の仲介会社が調査したところ、昨年から今年にかけて引き渡しがあったタワーマンション10棟のうち、1年以内に売り出された部屋の数は平均約20%に上りました。完成したばかりの物件が「新築・未入居」として3000万円ほど価格を上乗せして売り出されているケースもあります。
番組に登場した50代の会社員男性は、この3年で3回タワーマンションを購入しています。最初に購入した自宅マンションが4280万円から約4900万円に値上がりし、1年後の売却で利益を得たことがきっかけでした。次に購入した物件も1年ほどで1000万円以上上昇。彼は「売って売ってという感じで、一生住むことは考えていない」と語っています。
4年ほど前から大阪でタワーマンションの転売を行っている不動産会社代表は「購入してから2、3ヶ月かからないぐらいで早めに利益を確定させる」「新築の場合は抽選で当たるかどうかなので、極論詳しくなくたって利益は出せる」と、短期転売の容易さを語っています。
この背景には、マンション価格の右肩上がりの状況があります。「買えば儲かる」という投機的な心理が働き、本来住むための住宅が金融商品のように扱われているのが現状です。
千代田区が転売禁止要請に踏み切った背景
東京都心でもマンション価格の高騰が著しい千代田区は、異例の対策に乗り出しました。
NHKが千代田区の新築マンション1棟について所有者の動向を調査したところ、衝撃的な事実が明らかになりました。登記情報を分析した結果、所有者が実際に住んでいない可能性のある部屋が全体の6割に上っていたのです。所有者の住所がマンションと一致しておらず、その住所は首都圏から北海道、和歌山、愛媛などの地方都市、さらには海外にも広がっていました。
特に注目されるのは、海外に拠点を置いていると見られるケースがおよそ2割だったことです。番組の取材に応じた台湾の不動産会社役員は、2億5千万から2億6千万円で購入した部屋に「今は誰も住んでいない」と回答。「投資家はリスク分散のために資金を複数の国に分散して投資している」「2億円で購入した物件が4億円で売りに出されたと聞いた」と語り、都心が「爆発的な市場」として投資対象になっていることを明かしました。
明治大学の野澤千絵教授が同じ千代田区内の10年ほど前に建てられた分譲マンションを調査したところ、当時は約8割の方が居住目的で購入していました。この10年間で、住宅市場の主役が「暮らすための住宅」から「資産保有目的の住宅」に様変わりしていることがわかります。
こうした状況を受けて、樋口高顕区長は「千代田区に住みたくても住めないという状況は由々しき事態」として、今年7月に不動産業界団体に対し「引き渡しから原則5年間転売を禁止すること」と「同一名義での複数購入を禁止すること」を要請しました。
不動産協会は「私的財産の処分に関する権利の制限は慎重に考えるべき」としながらも、「投機目的の転売は好ましいことではない」と回答しています。
専門家が語る住まいの今後―長嶋修氏・野澤千絵氏の見解
番組では、不動産コンサルタントの長嶋修氏と明治大学教授の野澤千絵氏が、今後の展望について重要な指摘をしています。
値上げ交渉について、長嶋氏は「日本の一般的な賃貸契約では、大家さんが値上げのお願いをした場合、一方的に飲む必要はない」と説明しています。あくまで話し合いが必要で、近隣の同じような間取り、築年数、駅からの距離の物件と比較して交渉するのが基準になります。ただし、納得いかないからといって家賃を払わないでいると契約不履行で退去を求められる可能性があるため、家賃は支払い続けながら話し合うことが重要です。
資産保有目的の住宅が増えることの影響について、野澤氏は3つの問題を指摘しています。マンション単体としては維持管理の活動が難しくなること、自治体にとっては住民税や人口が増えないこと、そしてコミュニティの維持にも影響が出ることです。
千代田区の転売禁止要請については、野澤氏は「住みたい人の住宅確保に向けて行政がアクションを起こしたのは評価できる」としながらも、「短期転売だけを対象にするのが良いかは今後も調査が必要」と慎重な見方を示しています。京都市でも2029年度から空き家税を導入予定で、各自治体が対策に乗り出し始めています。
長嶋氏は「各自治体が自分たちの都市計画、都市政策をどうするかという方針の問題」として、投資ファーストか住民ファーストか、自治体の哲学が問われていると指摘しました。
中古マンションの活用については、両氏とも重要性を強調しています。長嶋氏は「築50年でも厳しいものもあれば、30年40年50年でも一定の手を加えればまだ大丈夫というものもある」として、品質や修繕積立金の状況を見極めることができれば中古マンションはおすすめだと述べています。
野澤氏は「住宅の在庫は数の面では十分にある」としながらも、「立地や旧耐震基準といった手を出したくない住宅が多く含まれている」と指摘。日本は鉄道網が発達しているという強みを活かし、「手を出したくない住宅・立地を、安心して手を出したいと思える住宅・街に再生させるための政策に力点を置くことが重要」と提言しています。
家賃高騰はいつまで続く?立地による違いと予測
多くの人が気になるのは「家賃はいつまで上がり続けるのか」という点でしょう。
番組で桑子真帆キャスターが「家賃は今後下がる可能性はあるのか」と質問したのに対し、長嶋修氏の回答は明確でした。「ないです。ないどころか上がっちゃう可能性の方が高い」。
ただし、これには重要な条件があります。「立地による」ということです。
長嶋氏の説明によれば、ここ数年で立地のいいマンションの分譲価格がものすごく高騰しました。そして賃料はそれに後追いで2年から3年かけて分譲価格を追っていきます。つまり、仮に今から分譲価格がずっと変わらないと仮定した場合でも、これから2年3年かけて立地のいいところの賃料は上昇する可能性が高いというのです。
一方で、立地があまり良くないエリアや、駅から遠い物件については、この限りではありません。都心の一等地ほど価格上昇の影響を受けやすく、郊外や各駅停車駅などは比較的影響が少ない可能性があります。
大東建託の竹内啓社長も「建築コスト上昇分の3割を家賃で値上げするのは一度には難しい」としながらも、「インフレ下の中では家賃の設定は高くならざるを得ない」と述べており、今後も都市部を中心に段階的な値上げが続く見通しです。
つまり、少なくとも今後2〜3年は、特に都心部や駅近の立地の良い物件では家賃上昇が続くと考えておいた方が良いでしょう。
住まい探しで今すぐできる対策とポイント
では、この家賃高騰の状況下で、私たちにできることは何でしょうか。番組で紹介された具体的な対策をまとめます。
値上げ交渉の正しい方法 すでに賃貸住宅に住んでいて値上げを通告された場合、一方的に飲む必要はありません。長嶋氏によれば、近隣の同じような間取り、築年数、駅からの距離の似たような物件の家賃を調べ、それをベースに話し合いを進めることが基本です。ただし、家賃は支払い続けながら交渉することが重要で、支払いを止めると契約不履行で退去を求められる可能性があります。
エリアや駅を柔軟に選ぶ戦略 長嶋氏は「今一等立地はなかなか難しいので、そこから少し視線を外してちょっと郊外に行ってみる、あるいは急行停車駅を狙っているのであれば、そのお隣の各駅停車駅を見てみる」ことを提案しています。視点を少しずらすだけで、賃料との折り合いがつけられることもあります。
番組に登場した渋谷で部屋を探していたカップルに対しても、店員が「神奈川の方へ行けばそれなりに安くなる」とアドバイスしていました。通勤時間が多少長くなっても、予算内で快適に暮らせる選択肢は十分にあります。
中古マンションの見極め方 中古マンション購入を検討する場合、長嶋氏は「品質のばらつきがものすごくある」と注意を促しています。築年数だけで判断せず、品質や修繕積立金が潤沢にたまっているかを見極めることが重要です。築50年でも厳しいものもあれば、30年40年50年でも手を加えればまだ大丈夫というものもあります。
初期費用の準備 渋谷のケースでは初期費用が110万円(6.5ヶ月分相当)提示されました。家賃だけでなく、敷金礼金などの初期費用も高額化していることを念頭に、十分な資金準備が必要です。
情報収集と比較検討 森尻店長が「数万は当然上がっている前提で想定した方が良い」と述べているように、5年前や3年前の相場感は通用しません。複数の物件を比較し、現在の相場を正確に把握することが大切です。
まとめ
2025年10月22日放送のNHK「クローズアップ現代」で取り上げられた家賃高騰問題は、建築コストの上昇、投資マネーの流入、短期転売の増加という複合的な要因によって引き起こされています。
特に注目すべきは、マンションが「住まい」から「資産」へと性格を変えつつある現実です。千代田区では6割が非居住という衝撃的なデータが示すように、本来住むための住宅が投資対象として扱われ、住みたい人が住めない状況が生まれています。
専門家の見解では、少なくとも今後2〜3年は立地の良いエリアを中心に家賃上昇が続く見通しです。ただし、エリアや駅の選び方を柔軟にする、中古マンションの活用を検討する、値上げ交渉の方法を知っておくなど、個人でできる対策もあります。
千代田区の転売禁止要請や京都市の空き家税導入など、各自治体も対策に動き始めています。「どんな街を作りたいのか」という自治体の哲学が問われる中、住まいをめぐる状況は今後も大きく変化していくでしょう。
住まいは暮らしの根幹を支える重要な要素です。この記事で紹介した情報を参考に、ご自身の状況に合った最適な選択をしていただければ幸いです。
※ 2025年10月22日放送のNHK「クローズアップ現代」を参照しています。
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