2025年9月2日放送のNHK「クローズアップ現代」では、暮らしの困りごとにつけ込む悪質な「レスキュー商法」の実態が詳しく報じられました。「基本料金980円~」の広告を見て修理を依頼したところ、トイレの詰まりで48万円、キッチンの水漏れで105万円もの高額請求を受けるなど、トラブルが急増しています。この10年で相談件数が4倍に増加している背景には、私たちの焦りや不安を巧妙に狙った手口があります。
レスキュー商法とは?「基本料金980円」が48万円になる高額請求の実態
レスキュー商法とは、トイレの詰まりや水漏れ、鍵の紛失といった日常生活の緊急事態につけ込み、格安料金をうたって集客しながら、実際には不当に高額な請求を行う悪質商法です。番組では、実際の被害者の男性が体験談を語りました。
男性は2年前、自宅のトイレが詰まった際にスマホで「都市名」と「トイレ」「詰まり」で検索し、検索結果の一番上に表示された業者に依頼しました。ネット広告では「1480円から」とされていたにも関わらず、最終的に48万円を請求されたのです。
東京都消費生活総合センターの髙村淳子相談課長は「10倍どころでは済まないぐらいの金額を取られる」と警鐘を鳴らしています。こうした業者は、この5年で全国26社に拡大しており、行政からの注意喚起や業務停止命令を受けた業者も含まれています。
特に注目すべきは、被害が水回りトラブルだけでなく、データ復旧サービスや害虫駆除、鍵開けなど多岐にわたっていることです。2024年には消費者庁がゴキブリ駆除で「税込550円~」と表示しながら実際は15万円を請求していた業者を社名公表するなど、問題は深刻化しています。
トイレ詰まり・水漏れ修理で狙われる5つの落とし穴と防衛方法
番組では、消費者が陥りやすい5つの落とし穴が具体的に解説されました。
落とし穴①:焦り 急なトラブルで「一刻も早く解決したい」という心理状態になり、他の業者と比較検討することなく、検索結果の上位に表示された業者に安易に依頼してしまいます。
落とし穴②:知識の格差 作業員から「排水管の奥に問題がある。特殊な機械を使わないとまた詰まってしまう」と専門的な説明を受けても、素人では真偽を判断できず、相手の言葉を鵜呑みにしてしまいます。
落とし穴③:作業内容を十分に確認せず 複数の作業員が現れ、機械を持参して作業を行っても、信頼して任せきりにしてしまい、本当に必要な作業だったか後から検証することが困難になります。
落とし穴④:現金払い 作業終了後、想定を大きく上回る金額を提示されても、作業員に促されて現金で支払ってしまいます。現金払いは業者にとって返金を困難にする狙いがあります。
落とし穴⑤:契約書への安易な同意 「客が契約書の同意欄にチェックをしていれば内容に同意していた」として、業者側が責任逃れの根拠にしてしまいます。
これらの落とし穴を避けるためには、まず冷静になることが重要です。トイレが詰まっても公衆トイレを利用するなど、一時的に問題を回避する方法を考え、複数業者の比較検討に時間を使うことが被害防止につながります。
カライスコス・アントニオス教授が解説する「一呼吸置く」重要性
番組に出演した龍谷大学のカライスコス・アントニオス教授(消費者トラブルの専門家)は、防衛策として「一呼吸置く」ことの重要性を強調しました。
「焦っているからこそ一呼吸置いてほしい。例えばトイレが詰まっているのなら、公衆トイレを使うことで一晩しのいでより適切に判断できる状況を作れないか考えてください」と提案しています。
教授はまた、「5分だけでもいいので複数の業者を比較する時間を取ってほしい。その5分を取らずに依頼してトラブルに巻き込まれると、後で膨大な時間とコストがかかってしまいます」と警告しています。
さらに、作業時の防衛策として「密室化を避ける」「撮影をする」という2つのポイントを挙げました。立ち会いを求めることで悪質業者への牽制となり、撮影は後日のトラブル時に重要な証拠となります。健全な業者であれば、これらの要求を拒否する理由はないはずです。
支払い段階では、納得していない場合の契約書への同意拒否、家族や知人への相談、そして消費者ホットライン「188」の活用を推奨しています。現金払い以外の支払い手段も事前に確認しておくことが大切だと述べています。
悪質業者の手口:「リスティング広告」と「おとり商法」の仕組み
番組では、実際にレスキュー商法を行っていた業者の元従業員が、その巧妙な手口を証言しました。
元従業員によると、業者は業績拡大のためにリスティング広告に多額の費用を投入していました。リスティング広告は、出稿した広告料に応じて検索結果の上位に表示される仕組みです。「水道」「詰まり」で検索すると「スポンサー」として一番上に表示されるのがこの広告です。
「最後はもう『1000円~』とか、『1000円以下』とかいう料金になっています。『おとり広告』ですね。あの表記というのはもうあってないようなもの。いかに集客できるかの表記でしかない」と元従業員は証言しています。
競争が激化する中で、ネット広告の表示額と実際の請求金額の乖離がどんどん進んでいったといいます。「例えば高齢の方で、ちょっと大きめの屋敷に住まれている方って、やっぱり高く取れるのかなっていう」発言からは、顧客を狙い撃ちする悪質性が明らかになっています。
国の機関に寄せられるネット広告に関する相談は、なんと10年で10倍に増加しています。この背景には、リスティング広告を悪用した集客手法の拡大があります。
神戸市の取り組みに学ぶ:髙井豊司氏が語る業界健全化への道
番組では、業界自らが健全化に取り組む先進事例として、神戸市管工事業協同組合の活動が紹介されました。
同組合理事長の髙井豊司氏は「消費者の方と信頼関係ができなければ、仕事というものが業界も含めてなくなってしまう。このままだといけない」という危機感から取り組みを始めたと語っています。
業界全体では以下の6つの安心ポイントが提示されています。
神戸市組合の取り組み
- 作業の必要性を分かりやすく伝える:「ここが一番緩んでいる。劣化もある。これだったらもう閉めるだけで十分いける」といった具合に、専門用語を使わず状況を説明
- 了承の上で作業を進める:「出向費が4000円と、点検と調査で締めで、だいたい6、7000円足して、だいたい1万円、1万1000円ぐらいが修繕費」と事前に大まかな金額を提示
- 作業のオープン化:「何をしているのか分からないというのがお客様にとってもすごく良くないこと」として、すべての作業を見えるところで実施
- 作業の前後で写真に記録:依頼者がいつでも確認できるよう証拠を残す
比較サイトでの取り組み
- 料金を具体的に表示:メニューごとにできるだけ具体的な料金を表示し、曖昧な表現を排除
- 口コミや請求書で”見える化”:利用者が口コミと実際の請求書を投稿できる機能を搭載し、広告と請求書を見比べられるようにして透明性を確保
この取り組みの結果、神戸市の水回りに関する苦情相談は385件(2020年度)から131件(2024年度)へと約3分の1に減少しました。
髙井氏は「住まいのかかりつけ医のような形で、お客様との関係ができれば、何かあった時にはいつでも相談が行けるような関係を築いていければ」と将来への展望を語っています。
実際の被害事例と返金成功事例:平田元秀弁護士の集団訴訟
レスキュー商法の悪質性を法的に追及する動きも広がっています。集団訴訟を担当する平田元秀弁護士は「消費者の弱みにつけ込んでお金をぼったくろうとするわけですから、高額な料金を取られた消費者だけでなく、まともな水道業者にとってもその信頼を失わせるものなので放置しておくことはできない」と述べています。
姫路で行われた裁判では、作業員が法廷でその手口を明かしました:「部品交換すれば直せるはずのトイレについて、全部取り替える必要がありますよ、また同じようになるかもしれないといった嘘をついて、(客が)心変わりを始める前に全て分解して取り外してしまいました」
この作業員は詐欺罪などで逮捕されており、集団訴訟では業者の不法行為が地裁で認められています。
一方で、返金成功事例もあります。番組では、2025年7月に水漏れ修理で支払った100万円を取り戻した男性の事例が紹介されました。消費生活センターへの相談をきっかけに弁護士の相談窓口を紹介され、地元業者の協力で「実際には作業が行われていない」ことが判明し、返金が実現したのです。
男性は「本当に周りに感謝です。自分一人では絶対無理。声を上げてよかった」と体験を語っています。
消費者ホットライン188活用法と第三者機関の重要性
カライスコス教授は、第三者機関の重要性を強調しています。「業者と消費者の1対1であれば、虚偽の広告や説明を行うことがしやすくなりますが、第三者が関わることでこれがしにくくなります」
特に重要なのが消費者ホットライン「188」の活用です。番組では「嫌や」という語呂合わせで覚えやすいこの番号が紹介されました。
188に電話すると、お住まいの地域の消費生活センターや相談窓口につながります。土日祝日でも、年末年始(12月29日から1月3日)を除いて原則毎日利用できます。相談は無料ですが、相談窓口につながった時点から通話料が発生します。
実際に、2025年に入ってからも全国各地で弁護団が結成されています。3月には金沢弁護士会、2月には富山県弁護士会、1月には福井弁護士会がそれぞれ弁護団を設立しており、被害の広がりと対策の必要性が浮き彫りになっています。
京都のレスキュー商法被害対策弁護団は、2021年の設立から2025年1月時点で145件の相談を受けており、全国的な問題となっていることがうかがえます。
比較サイト運営会社の岡野健二社長(株式会社SAFELY)は「高額請求しているところが儲かるのではなく、しっかりと顧客のことを考えて誠実に対応されている方々が露出、評価されて売上が上がっていく。悪徳業者が暗躍できるような状態を減らしていきたい」と業界健全化への思いを語っています。
まとめ
2025年9月2日放送のクローズアップ現代で明らかになったレスキュー商法の実態は、私たちの日常に潜む深刻な問題です。「基本料金980円~」といった格安広告に惑わされることなく、以下のポイントを心がけることが重要です。
まず、緊急事態でも「一呼吸置く」こと。5分だけでも複数業者を比較検討する時間を作りましょう。作業時は立ち会いと撮影を行い、納得できない契約書への署名は避けることが大切です。
トラブルに遭った場合は一人で抱え込まず、消費者ホットライン188に相談してください。神戸市のような業界の自主的な取り組みも参考になります。第三者機関の存在が業界健全化の鍵となっており、私たち消費者も積極的に声を上げることで、悪質業者の排除につながります。
カライスコス・アントニオス教授の言葉通り、「声を上げることで業界が健全化される」のです。レスキュー商法から身を守るためには、正しい知識と冷静な判断、そして適切な相談先の活用が不可欠です。
※ 本記事は、2025年9月2日に放送されたNHK「クローズアップ現代」を参照しています。
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