2026年4月8日放送のテレビ東京系新番組「アンパラレルド~ニッポン発、世界へ~」初回に登場したのは、岐阜大学発スタートアップ・FiberCraze(ファイバークレーズ)。CEO長曽我部竣也氏とCTO武野明義教授が開発した「穴あき糸」は、衣料品の大量廃棄や環境汚染といった深刻な課題に挑む世界初の技術です。この記事では、番組内容をもとに、その革新的な技術の仕組みから今後の展望までをわかりやすくまとめました。
FiberCraze(ファイバークレーズ)の「穴を開ける糸」とは?ナノ多孔化技術を解説
番組を観た方がまず驚いたのは、「糸に穴を開ける」という発想そのものではないでしょうか。FiberCraze(ファイバークレーズ)が開発しているのは、糸の内部に10万分の1ミリというナノサイズの穴を無数に開ける技術です。
この穴の正体は「クレーズ」と呼ばれる現象を利用したものです。番組内でCTO武野明義教授が説明していたのは、下敷きを曲げると白く色が変わることがありますよね、あの時にまさに微細な穴が発生しているという話でした。専門的には「クレイジング」と呼ばれるこの現象を、繊維に対して精密にコントロールしているのがFiberCrazeの核心技術です。
ポイントは「破壊の手前で止める」ということ。武野教授はスマホの画面が割れる例を挙げて、瞬間的に壊れたように見えても実は破壊の途中過程がある、その途中で止めてしまうのが自分たちの技術だと語っていました。分子が切れる前の段階で止めるため、穴が開いても糸の強度は落ちません。しかも、途中段階だからこそ「逆回転」、つまり穴を塞ぐことも可能なのです。
開けた穴の中に虫よけ成分や保湿成分などを注入し、熱処理で穴を閉じて封入する。これにより、洗濯しても効果が持続する機能性繊維が生まれます。従来のコーティング方式では表面に塗った成分がすぐに落ちてしまい、練り込み方式でも含有量は重量比で数パーセントが限界でした。FiberCrazeの技術では最大20%程度まで成分を含ませることができるというのですから、その差は歴然です。
さらに面白いのは、成分がなくなった後も穴はそのまま残るという点です。専用のスプレーをかければ穴に成分が再び浸透するため、何度でも機能を復活させられます。番組内で長曽我部氏が「繊維が入れ物になる」と表現していましたが、まさにその通りで、これまでの繊維の常識を根底から覆す発想と言えるでしょう。
なお、穴を開ける具体的な装置は企業秘密で、番組映像でもモザイクがかかっていました。原理としては、糸の道に鋭利なものを配置し、糸を曲げることで物理的に穴を開けているとのこと。薬品を一切使わないため環境負荷が非常に低い点も、この技術の大きな強みです。
CEO長曽我部竣也とCTO武野明義──28歳と65歳の師弟タッグが生んだ起業ストーリー
FiberCrazeを語るうえで欠かせないのが、CEOの長曽我部竣也氏(28歳)とCTOの武野明義教授(65歳)という、37歳差の師弟コンビの存在です。
武野教授がクレーズの研究を始めたのは1992年頃。最初は繊維ではなくフィルムの加工技術としてスタートしました。たまたまフィルムに力を加えた際に光の透過に変化が起きることに気づき、その条件を調べるうちに「破壊のギリギリで止める」という技術体系にたどり着いたのだそうです。このフィルム技術はかつて、携帯電話の覗き見防止フィルムとして商品化された実績もあります。
一方、長曽我部氏は1997年愛知県一宮市生まれ。岐阜大学工学部に進学し、大学4年生の時に武野教授の研究室に配属されます。大学ではアントレプレナーシップ教育が推進されていたものの、実際に起業を志す学生はなかなかいなかった中で、長曽我部氏は研究室に入ってすぐ「私はやります」と宣言したのだとか。武野教授が番組内で「成績は平均的」としながらも、起業への熱意は「全然違います」と認めていたのが印象的でした。
2021年9月、大学院在学中に23歳でFiberCrazeを設立。岐阜大学発ベンチャー第7号に認定されています。教え子が社長、元教授がCTOという関係は一見複雑にも思えますが、「いまでも敬語です」という長曽我部氏の言葉からは、信頼関係の深さがうかがえます。
この二人の組み合わせが面白いのは、30年以上の基礎研究の蓄積と、若い世代の行動力・ビジネス感覚がかけ合わさっている点です。武野教授が長年温めてきた技術を、長曽我部氏が社会課題の解決に結びつけて事業化する。個人的には、大学の研究が社会に実装される理想的なモデルケースだと感じます。なお、長曽我部氏は2023年には「Forbes JAPAN 30 UNDER 30」にも選出されており、その実力は内外から高く評価されています。
衣料品の大量廃棄と環境汚染──アパレル業界が抱える深刻な課題
FiberCrazeの技術がなぜ必要とされているのか。その背景にあるのが、衣料品の大量廃棄問題です。
番組冒頭で紹介されたデータは衝撃的でした。日本では供給される衣類の9割以上、年間およそ80万トンが1年以内に手放されています。そのうち回収されているのは約30万トンで、残りの50万トンは家庭ゴミとしてそのまま焼却されているのが現状です。
番組で取材されていた大阪・泉南市のリサイクル工場(ファイバーシーディーエム)では、回収した古着をおよそ200種類に分別し、約4割を東南アジアなど海外に販売しています。破れた服は車の断熱材やウエス(工業用雑巾)として再利用し、最近は建材としても活用されているとのこと。しかし、それでも回収自体が追いついていないのが実情です。
さらに深刻なのが、衣類の製造工程で発生する環境負荷です。特に染色の過程では高温処理が必要で、大量の水を使い、大量のCO2を排出します。番組でも言及されていましたが、アパレル産業は石油産業に次ぐ世界第2位の汚染産業とも言われています。
繊研新聞の中村恵生記者がスタジオで指摘していたのは、ファストファッションの加速です。SHEINやTemuに代表されるウルトラファストファッションの台頭によって、「安く買ってすぐ捨てる」サイクルがますます短くなっています。フランスではこうした流れを規制する動きも出てきているほどです。
こうした状況に対し、FiberCrazeは「機能性の高い服を作ることで、簡単に捨てられることを防ぐ」というアプローチを取っています。服に長く使い続けたくなる価値を付与することで、廃棄サイクルそのものを変えようという考え方です。さらに、穴あき繊維による染色では高温処理が不要になるため、水やCO2の大幅な削減にもつながります。「壊す」技術が環境を「守る」ことになるというのは、なんとも逆説的で面白い構図です。
虫よけ・保湿・冷感──穴あき繊維が実現する機能性衣料の可能性
番組で具体的に紹介されていた穴あき繊維の応用例は、多岐にわたります。
まず、FiberCrazeが現在最も力を入れているのが虫よけ機能です。番組では蚊による刺咬テストの映像が流れ、未処理の生地には蚊が止まって吸血するのに対し、防虫成分を閉じ込めた生地では蚊が止まっても刺さずに逃げていく様子が示されていました。東南アジアのデング熱やアフリカのマラリアなど、蚊が媒介する感染症は世界的な問題であり、防虫衣類の需要は非常に大きいと考えられます。
そのほかにも、美容液やセラミドの成分を入れた保湿・美白効果のあるマスク、キシリトールやメントールを閉じ込めた着るだけで涼しいTシャツ、カプサイシンを入れた暖かい靴下など、さまざまな展開が検討されています。
特に注目すべきは、穴に何も入れていない状態でも効果があるという点です。番組で披露されたポリエステルとウールのTシャツは、穴が開いているおかげで通気性が良く、ウールの暖かさを保ちながらも蒸れにくいという特徴がありました。穴の存在そのものが生地の性能を変えるわけです。
若林さんが番組内で指摘していた「機能性の高い服は消費者に伝わりにくい」という課題は、まさに核心を突いています。見た目は普通の糸、普通のシャツ。目に見えない機能をどう伝えるかは、FiberCrazeにとって今後の大きなテーマになるでしょう。長曽我部氏が語っていた「素材の背景や物語をどう伝えるか」という視点は、マーケティングの観点からも非常に重要だと思います。
また将来的には、オーダーメイドで個人ごとに異なる機能を付与するという可能性も示唆されていました。同じ服でも「この人には虫よけ」「あの人には保湿」とカスタマイズできるのは、既存のサプライチェーンを変えずに後加工で対応できるFiberCrazeならではの強みです。
パリコレ採用から2026年商品化へ──FiberCrazeの歩みと今後の展望
FiberCrazeの技術はすでにファッション業界でも注目されています。日本のブランド「doublet(ダブレット)」がパリ・ファッションウィークでFiberCrazeの糸を採用しました。破壊現象から機能を生み出すというストーリーにデザイナーが共感し、この糸だからこそ表現できるものがあるとして採用を決めたとのことです。
そして2026年、いよいよ一般向け商品が市場に登場します。番組内で長曽我部氏は「先月、量産を見据えた生産が完了した」と明かし、地元の岐阜県・愛知県の繊維メーカー約40社のネットワークを活用して製品化を進めていると語りました。
この「地元ネットワーク」は非常に重要なポイントです。FiberCrazeの技術は、新しい素材をゼロから作るのではなく、既存のポリエステルなどに後加工で穴を開けるもの。つまり、今ある繊維産業のサプライチェーンをそのまま活かせるのです。長曽我部氏は「ものづくりを壊さない環境革命」という表現を使っていましたが、既存の産業基盤と共存しながら革新を起こすというアプローチは、実現可能性が高く、非常に賢い戦略だと感じます。
さらに興味深いのが、長期的なビジョンです。番組で示された2056年のゴールは「サイボーグスーツで世界を救う」。武野教授はこれを「アイアンマン」に例え、身体の防御、筋力サポート、健康管理、薬の投与、暖房・冷房まで、服一枚で全てをまかなえる世界を描いていました。ただし、重厚なアーマーではなく、靴下や下着のように身につけていることすら意識しない、身体の一部となるスーツを目指しているのだそうです。
30年後のビジョンとしてはかなり壮大ですが、ナノレベルで繊維を制御する技術の延長線上にあると考えれば、決して荒唐無稽とは思えません。「服がインフラになる」という長曽我部氏の言葉には、繊維という素材の可能性への確信を感じました。
日本の繊維業界の未来──東レ・帝人など注目企業の最新技術も紹介
番組ではFiberCrazeだけでなく、日本の繊維業界全体の底力も紹介されていました。
国内トップは繊維だけで1兆円の売上を誇る東レです。ユニクロと共同開発したヒートテックやエアリズムは、もはや日常に欠かせない存在でしょう。航空機やロケットに使われる炭素繊維でも世界をリードしています。
バイオベンチャーのファーマフーズは、卵の殻の内側にある薄い膜「卵殻膜」を独自技術でセルロースと配合し、繊維化することに成功しました。「ovoveil(オボヴェール)」と名づけられたこの繊維は、カシミヤのようなしっとりとした風合いで、高い保湿性が特徴です。捨てられるはずの卵の殻を繊維にアップサイクルするという点で、サステナブルな素材としても注目されています。
そして、医療分野で大きな話題を呼んだのが帝人、福井経編興業、大阪医科薬科大学が共同開発した心・血管修復パッチ「シンフォリウム」です。先天性心疾患の子どもの手術に使われるこのパッチは、体内で溶ける糸と溶けない糸をニット状に編み込み、ゼラチン膜で覆った構造になっています。手術後約2年で吸収性糸が溶けると編み目が緩み、最大2倍まで伸びて子どもの成長に対応できるため、再手術のリスクが大幅に軽減されます。2024年6月に販売が開始されました。
番組内で武野教授が指摘していたように、縮小しているのは汎用的なポリエステルなどの一般繊維であって、機能性繊維は逆に利幅が大きく、成長を続けています。繊研新聞の中村記者も、日本の繊維産業が長い歴史の中で蓄積してきた技術と生産力は世界的にもまだまだ伸ばせる余地があると語っていました。
衣料だけでなく、医療、建材、産業用途と広がりを見せる繊維テクノロジー。FiberCrazeのナノ多孔化技術も、今後は衣類の枠を超えて展開される可能性を大いに感じさせます。
まとめ
テレビ東京系新番組「アンパラレルド~ニッポン発、世界へ~」初回で紹介されたFiberCraze(ファイバークレーズ)は、糸を「破壊の手前で止める」というユニークな発想で、ナノサイズの穴に機能性成分を封入する世界初の技術を確立しました。
CEO長曽我部竣也氏(28歳)とCTO武野明義教授(65歳)という37歳差の師弟タッグが率いるこのスタートアップは、衣料品の大量廃棄という社会課題に正面から取り組み、2026年にはいよいよ一般向け商品を発売予定です。
番組で若林さんが語った「壊れて穴が開いたところに、新しい未来や可能性が注ぎ込まれる」という言葉は、FiberCrazeの技術そのものであると同時に、厳しい状況にある日本の繊維業界への希望のメッセージにも聞こえました。糸を強くしてきた歴史を「壊す」ことで生まれた、比類なき挑戦のこれからに注目です。
※ 本記事は、2026年4月8日より放送が始まった、「アンパラレルド~ニッポン発、世界へ~」(テレビ東京系) を参照しています。
※ FiberCraze(ファイバークレーズ)の公式サイトはこちら









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