2025年11月15日放送のテレビ東京系「ブレイクスルー」で紹介されたアキュイティー社の技術伝承システムが、日本の製造業を救う切り札として注目を集めています。アキュイティーCEO兼CTOの佐藤慎平氏が開発した0.1mm精度のモーションキャプチャー技術は、消滅の危機にある職人技をデータ化し、次世代へ確実に継承する革命的な仕組みです。この記事では、マツダやTOTOなど大手企業も導入する最新技術の全貌と、製造業の未来を切り開く可能性について詳しく解説します。
アキュイティー佐藤慎平が開発した「0.1mm精度」のモーションキャプチャー技術とは?
東京品川の高層ビルに本社を構えるアキュイティー社。ここで製造業の道しるべとなる革新的な技術を生み出したのが、CEO兼CTOの佐藤慎平氏です。
同社が開発したモーションキャプチャー技術の最大の特徴は、その圧倒的な精度にあります。一般的なモーションキャプチャーが数センチ単位の動きを捉えるのに対し、佐藤氏のシステムはわずか0.1mm以上の精度で人の動きを可視化します。この精度は肉眼では到底見分けがつかないレベルで、番組内では相場英雄氏が手のひらにマーカーを置いて動かないよう我慢しても、心拍や血流による微細な動きまで検知する様子が実証されました。
技術の核心は、元々工業分野の精密計測を手がけてきた同社のノウハウにあります。体に取り付けたマーカーを8台のカメラで360度あらゆる角度から撮影し、計測器の温度変化などで生じるわずかな誤差まで補正する独自の解析技術により、他社では実現困難な高精度計測を可能にしました。
佐藤氏は「1cmの動きの差なら普通のモーションキャプチャーでも改善できますが、ほんのちょっとした動きの差、特に加工技術においては加工の仕上がりに大きな差が出てきます」と語り、0.1mmという精度が製造業にとっていかに重要かを強調しています。
実際、机を押した際に0.6mm沈む様子や、その後の微細な揺れまで数値で可視化できる精度は、自動車メーカーや建築メーカーなど、人の安全を担保する必要がある企業にとって不可欠なレベルです。佐藤氏が「わずかな動きが全て命につながってしまう」と述べるように、この技術は単なるデータ収集ではなく、製品の品質と安全性を左右する重要なツールとなっているのです。
さらに注目すべきは、佐藤氏が目指す次なる目標が0.001mmの精度だという点です。研磨作業や半導体業界、ガラスなど素材系の分野では、この極限の精度が求められており、相場氏が「めちゃくちゃニッチだけどめちゃくちゃお金になりそう。誰もやってないから鉱脈ですよね」と評したように、新たなビジネスチャンスが広がっています。
職人技のデータ化で実現する技術伝承革命
日本の製造業が直面している最大の課題が、職人の高齢化と後継者不足です。相場氏が「日本の製造業って結構今崖っぷちに来てると思う」と指摘するように、熟練の技を持つ職人たちが引退していく中、その技術をどう次世代に伝えるかが喫緊の問題となっています。
佐藤氏はこの危機感を「できたものができなくなるというのは、未来の贈り物をなくしている形になる」と表現し、技術伝承の重要性を訴えます。
従来の技能伝承は「見て覚える」方式が主流でした。しかし、この方法には大きな課題がありました。職人たちは長年の経験で培った感覚を持っているものの、それを言語化して伝えることが非常に難しいのです。
番組内で紹介されたバリ取り作業の事例が象徴的です。製造現場のマニュアルには「工具を90度に立てて加工する」と記載されていましたが、実際に熟練者の動きをデータ化すると、全員が揃って110度、つまり20度傾けて作業していたことが判明しました。新人が一生懸命マニュアル通りに90度でやっていたのに対し、110度に変えた途端に作業がやりやすくなったというのです。
この事例が示すのは、職人の「暗黙知」の存在です。彼らは意識的に角度を変えているわけではなく、長年の経験から自然と最適な角度を体得していたのです。しかし、それを聞かれても「ここなんだよ」と答えにくい部分が多く、むしろそのことにストレスを感じていたと佐藤氏は語ります。
興味深いのは、職人たちがデータ化に反発するどころか、むしろ歓迎したという点です。相場氏が「プライドの塊みたいな職人さんたちは怒りませんでしたか?」と尋ねたのに対し、佐藤氏は「意外と怒らなかった。多分聞かれても答えられないところに対するストレスの方が大きかったのではないか」と答えています。
データがあることで、職人は自分の技術を客観的に示すことができ、若手とのコミュニケーションも円滑になります。「データがコミュニケーションを助けてくれている」という佐藤氏の言葉は、技術伝承における新しいアプローチの可能性を示しています。
機械やロボットの動きはデータ化できても、人の動きだけがデータ化できなかった。その空白を埋めたのがアキュイティーの技術であり、すでに700社に導入され、日本の製造業を支える基盤となりつつあります。
マツダやWELDPORT溶接スタジオでの活用事例
アキュイティーの技術が実際にどう活用されているのか、具体的な事例が番組で紹介されました。
まず注目すべきは、自動車メーカー大手のマツダでの導入事例です。車作りに欠かせない金型製作において、職人の手の感覚が重要な役割を果たしています。わずか数ミクロンという精度で生み出される金型作りには、熟練の職人技が息づいているのです。
マツダでは佐藤氏のシステムを導入し、習得に20年はかかるとされる熟練の技をデータ化することに成功しました。その結果、技能伝承のスピードアップを実現し、次世代の育成期間を大幅に短縮できたといいます。これは日本の自動車産業の競争力維持において、極めて重要な取り組みです。
さらに印象的だったのが、東京足立区に2025年5月に誕生した溶接専門スタジオ「WELDPORT」での活用です。溶接職人の宮本卓さんは「ベテランや高齢の方がどんどん引退されていくので、溶接やる人が結構少なくなってきている。溶接を学ぶ人を増やすということで始めた」と開設の経緯を語ります。
溶接は工具の角度や距離などわずかな違いで、接合部分の強度や表面の仕上がりが大きく変わる繊細な作業です。熟練者の手にかかれば、滑らかで均等に波打つ美しい線を描くことができますが、これを習得するには通常長い年月が必要でした。
WELDPORTでは受講者が自身の動きと熟練者の動きを比較し、その違いを詳細な数値で確認することで改善していきます。溶接歴1ヶ月の今野智也さんは「溶接する場所までの距離だったり、要素が1個1個データで見れるというのが、ここは良かったけどここがダメだったねというのが分かるようになった。本当に勉強になる」と実感を語ります。
溶接歴6年の天口瑞生さんも「データがない頃は見て覚えるのが普通だったが、モーションキャプチャーで見えないところが見えるようになって、理解がどんどんしやすくなった」と証言しています。
特筆すべきは、0.1mmの精度だからこそ見えてくる職人技を活用することで、わずか1ヶ月で溶接技術を習得できた例もあるという点です。従来なら数年かかる技術が、データに基づく学習により劇的に習得期間が短縮される。これは日本の製造業にとって、まさに革命的な変化と言えるでしょう。
AI搭載のマーカーレスモーションキャプチャーで進化する現場
佐藤氏の技術開発は、高精度なマーカー式モーションキャプチャーだけにとどまりません。さらなる進化として、AIを活用したマーカーレスモーションキャプチャーの開発に成功しています。
従来のシステムでは、体の至るところにマーカーと呼ばれる目印を取り付ける必要がありました。しかし、マーカーレス技術では、AIが人を認識し、姿勢や骨格、さらに動きまで解析するため、マーカーをつける必要がないのです。
相場氏が何もセンサーをつけていない状態で映し出される自分の動きを見て驚いたように、この技術により製造現場での活用の幅が大きく広がりました。佐藤氏は「マーカーをつけずに作業をデータ化して、技術を明確化したい」というニーズに応えられると説明します。
最大のメリットは、現場の方がストレスなく普段通りの動きができることです。マーカーの装着は時間もかかり、作業の邪魔になることもありましたが、マーカーレスならそうした制約から解放されます。
さらに注目すべき機能が、複数人の同時計測です。番組内で相場氏と佐々木アナウンサーが同時に画面に映し出され、AIがそれぞれを瞬時に区別する様子が紹介されました。これにより、ベテランとベテランのチーム、練度の低い人たちのペアなど、チーム作業の違いもデータ化できるようになりました。
佐藤氏が「阿吽がデータ化できる」と表現したように、チームワークの良し悪しや、ベテランペアと新人ペアの動きの違いまで可視化できるのです。これは製造現場の生産性向上において、極めて重要な機能です。
佐藤氏は「熟練者とそうでない人の動きがどう違うのか、この人がこの作業に何秒かかっていて、何秒に縮めるためにはここを改善しなきゃいけない、というAIを今開発している」と語り、単なるデータ取得から、AIによる分析と改善提案まで進化させようとしています。
製造業の現場は作業時間を徹底的に短縮し、かつ熟練度を上げることが求められます。マーカーレス技術とAI分析の組み合わせにより、それらすべてが実現可能になりつつあるのです。
TOTO総合研究所など大手企業での製品開発への応用
アキュイティーの技術は、製造業の技能伝承だけでなく、製品開発の分野でも活用が始まっています。
神奈川県茅ヶ崎市にあるTOTO総合研究所では、人が家でどう動くのかという研究に、佐藤氏のマーカーレスモーションキャプチャーを活用しています。同研究所の加藤智久主任研究員は「キッチン行動変容の研究をしています。日頃我々が調理していたり配膳したり、気づかないことに目を向けるようにモーションキャプチャーを使って、行動がどうやったら快適になるかを探る研究をしています」と説明します。
特に興味深いのは、水回りでの活用可能性です。加藤主任研究員は「水は赤外光を透過しないのでマーカーが濡れた時点で見えなくなってしまう中で、マーカーを使わないで人を捉えられるということを考えると、シャワーやお風呂での人の行動は取りやすい」と、マーカーレス技術の優位性を指摘します。
TOTOでは今後、キッチンやトイレ、バスルームなどの製品開発にこの技術を活かす予定だといいます。人がどう動き、どこに不便を感じているのかをデータで把握することで、より使いやすい製品設計が可能になるのです。
このように、アキュイティーの技術は製造業の枠を超えて広がりを見せています。すでに700社に導入された実績があり、自動車メーカーや建築メーカーなど、人の安全を担保する必要がある企業を中心に採用が進んでいます。
佐藤氏は競合他社の参入について「大手はマーケットを広げてくれて、我々しかできないところのマーケットもさらに広がってくる」と前向きに捉えており、高精度という独自の強みを活かした市場開拓を進めています。
介護・ロボットメーカーなど未来への展開可能性
佐藤氏の視野は、さらに広い領域へと向けられています。
番組終盤で明かされたのが、介護分野への展開構想です。佐藤氏は「介護される方の運動の質、内容とか、あとは介護する側の方の効率性。長時間でなおかつ重労働を、この動きをデータ化することによって効率を上げるということは全然できるかと思います」と語ります。
高齢化が進む日本において、介護の現場は深刻な人手不足に直面しています。介護する側の身体的負担を軽減し、効率的な介助方法をデータに基づいて確立できれば、介護の質の向上と労働環境の改善が同時に実現できます。また、介護される側の運動機能の維持・向上にも貢献できる可能性があります。
さらに、ロボットメーカーとの協業についても言及がありました。佐藤氏は詳細を明かすことはできないとしながらも、「この動きをデータ化するというそのものも、使っていただけるような形になんとかして持っていきたい」と意欲を示しています。
人の繊細な動きを0.1mm、将来的には0.001mmの精度でデータ化できる技術は、人間に近い動作を求められるロボット開発において極めて有用です。介護ロボット、協働ロボット、サービスロボットなど、様々な分野での応用が考えられます。
佐藤氏は「できる限りいろんなマーケット、いろんなお客様、いろんなところで使っていただけるような技術に育てていきたい」と語り、製造業からスタートした技術を、社会全体の課題解決に役立てようとする強い意志を示しています。
最後に相場氏から「ブレイクスルーとは何か」と問われた佐藤氏は、「昨日より今日、今日より明日。誰もが成長できるようなものを作るというのが我々のビジョン」と答え、「お客様が我々のプロダクトを使うと成長できるという実感が作れる。その成長はすごく喜ばしいし、人が生きる根源だと思っていて、それを作るお手伝いができれば僕自身もどんどん成長していける。それが僕のブレイクスルー」と、「誰もが成長できる社会をつくること」という自身のビジョンを語りました。
まとめ
2025年11月15日放送の「ブレイクスルー」で紹介されたアキュイティーの佐藤慎平氏は、0.1mm精度のモーションキャプチャー技術により、日本の製造業が直面する技術伝承の危機に立ち向かっています。
マツダでの20年かかる技術の伝承スピードアップ、WELDPORTでの1ヶ月での溶接技術習得、TOTO総合研究所での製品開発への応用など、すでに700社での導入実績を持つこの技術は、職人の暗黙知をデータ化し、確実に次世代へ継承する革命的な仕組みです。
さらにAI搭載のマーカーレス技術により、阿吽の呼吸までデータ化可能となり、介護やロボット分野への展開も視野に入れています。目指す0.001mmの極限精度は、半導体やガラスなど新たな市場を切り開く可能性を秘めています。
「未来の贈り物をなくさない」ために、佐藤氏が掲げる「誰もが成長できる社会をつくる」というビジョンは、消滅の危機にある日本の職人技を救い、製造業の未来を照らす道しるべとなるでしょう。データがコミュニケーションを助け、職人のプライドと技術伝承を両立させる。それこそが、アキュイティーが実現する真のブレイクスルーなのです。
※ 本記事は、2025年11月15日放送(テレビ東京系)の人気番組「ブレイクスルー」を参照しています。
※ アキュイティー株式会社の公式サイトはこちら






コメント