「カンブリア宮殿」で特集された東レの大矢光雄社長。90年代に壊滅的打撃を受けた日本の繊維産業で、なぜ東レだけが成長できたのか?本記事では、番組で明かされた生き残りの「道しるべ」となる経営哲学、ナノデザイン技術からユニクロとの戦略的パートナーシップ、45年かけた炭素繊維開発の全貌まで徹底解説します。この記事を読めば、不確実な時代を生き抜くビジネスの本質が見えてきます。
東レが繊維業界で生き残れた理由|大矢光雄社長の経営戦略
2025年11月13日放送の「カンブリア宮殿」SPで取り上げられた東レ。来年2026年に創業100年を迎える同社は、売上高約2兆5000億円を誇る日本を代表する繊維メーカーです。しかし、その道のりは決して平坦ではありませんでした。
1990年代半ば、日本の繊維産業は中国勢の圧倒的な増産により壊滅的な打撃を受けます。製品出荷額は90年頃をピークに急減し、あっという間に4分の1にまで転落。大手メーカーは次々と繊維事業を分社化したり、縮小・撤退を決断していきました。
そんな絶望的な状況の中、東レはある重要な決断を下します。当時の社長が発した「世界を見れば衣料は成長産業だ」という言葉。この視点の転換こそが、東レの生き残りの出発点となったのです。
番組に出演した大矢光雄社長(69歳)は、東レが掲げる生き残りの「道しるべ」として2つの重要な概念を挙げています。
一つ目が「極限追求」。これは単に品質を高めるというだけではありません。「めっちゃ強い糸を作りなさい」という目標に向かって登っていく過程で、今までにない様々な商品が生み出されるという東レのDNAです。東レ繊維研究所の増田正人所長は「極限を突き詰めていく姿勢こそが、今までにない商品を生み出せる」と語ります。
二つ目が「超継続開発」。これは後述する炭素繊維の開発に象徴される、長期的視点でのイノベーション追求を意味します。欧米のケミカルジャイアントが短期的な利益追求で撤退していく中、東レは研究者の夢を叶えるという経営判断を続けました。
注目すべきは、大矢社長が「研究開発が1丁目1番地」と明言している点です。いかにゼロから1を生み出す商品をたくさん持っているかが東レの強みだと語り、そこから1を10に、10を100にするスピード感を中国企業に負けないよう加速させることを経営課題としています。
ナノデザイン技術の極限追求|ユニクロとの戦略的パートナーシップ
東レ最大の武器が「ナノデザイン」と呼ばれる技術です。ナノレベルで繊維の断面を制御し、異なる樹脂を組み合わせることで、繊維に様々な機能を持たせることができます。
静岡県三島市の東レ繊維研究所で見せてもらった顕微鏡画像には、三角形の白い部分と黒い部分が違う樹脂で構成された極細繊維の断面が映し出されていました。驚くべきことに、この繊維の断面には「TORAY」という文字まで刻まれているのです。繊維研究所の松浦知彦さんは「繊維を細くするのも難しいし、それを囲むように配置するのは弊社だからこそできる技術」と自信を示します。
このナノデザイン技術が最も活きているのが、ユニクロとの協業です。2006年に戦略的パートナーシップを結んだ両社は、まるで1つのチームのように毎週ミーティングを開催しています。
ユニクロの大ヒット商品「ヒートテック」は、今や暖かさによって3段階で展開されていますが、その進化を支えているのが東レの技術力です。2024年発売の天然カシミアとヒートテックをブレンドした商品について、ファーストリテイリンググループ上席執行役員の勝田幸宏さんは「薄くて暖かい。細い繊維と細かい編みのヒートテックにカシミアを入れるのは、機械も普通のヒートテックと違う。東レさんなしでは我々のアイデアが具現化できなかった」と語ります。
さらに2024年の新商品「パフテック」は、羽毛を使わない次世代の防寒ジャケットとして注目されています。羽毛の構造を人工的に作り出した中綿が、驚異的な軽さと保温性能を両立。東レが10年越しで開発した成果です。
東レはユニクロのスピード重視の商品作りに応えるため、ユニクロ有明本部のすぐ近くに拠点を構えています。東レグローバルSCM事業部門長の石川元一さんは「ユニクロさんのために作ったような設備」と説明し、内部には服作りの工房まで完備。繊維だけでなく、着脱しやすいヒートテックの試作品まで東レが作っているのです。
大矢社長はこの関係を「究極のバーチャルカンパニー」と表現します。「ものを作り、作ったものも同じ目線で対消費者までマーケティングをする。ワンチームでやるために戦略的に項目を決めてやっていく」。ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長も「東レさんは繊維で本格的に研究開発やってる。組ませていただいて本当によかった」と絶賛しています。
炭素繊維45年の超継続開発|プリプレグからボーイング787へ
東レのもう一つの柱が炭素繊維事業です。現在、売上3000億円規模にまで成長したこの事業ですが、その歴史は驚くほど長いものでした。
東レが炭素繊維の開発を始めたのは1961年。当時の研究者たちは最初から「黒い飛行機を飛ばす」という夢を持っていました。炭素繊維とはアクリル繊維などを高温で焼いて作り出す素材で、鉄に比べ4分の1の軽さで強度は実に10倍に達します。
しかし、実用化までの道のりは険しいものでした。長年事業に携わってきた吉山高史・複合材料事業本部長が語る最初のビジネスは、1972年の軽くて折れにくい釣り竿「アユ竿」。続いて1974年には木材を補強する形でテニスラケットに採用されました。
大きな目標へプロジェクトを継続させるため、コツコツと収益を上げられる用途を探し続けたのです。「用途開発も含めて各社いろんなところへ営業活動を開始した」と吉山本部長は振り返ります。
そして開発開始から45年を経た2006年、ついに機体の大半を炭素繊維で作るボーイング787への長期供給契約にこぎつけます。当時の東レ常務だった大西盛行さんは「炭素繊維で飛行機を飛ばそうっていうのがやっぱり夢だったんですね。飛行機の世界を我々が変えたんだっていう思いが本当にしました」と感慨深く語りました。
現在、東レの炭素繊維は世界トップレベルのパイオニアとして、F4レーシングカー全50台のシャシー製造から、巨大な風力発電のブレード、宇宙ロケットの重要パーツまで、引っ張りだことなっています。
炭素繊維の製造工程も興味深いものです。炭素繊維に熱をかけたら固まる樹脂を染み込ませた「プリプレグ」と呼ばれる材料を、手作業で何層にも貼り合わせていきます。柔らかいシートなので自由な形状を作ることができ、専用の窯で長時間高温高圧をかけ固めることで、軽量で驚くほどの強度を持つ素材ができ上がるのです。
大矢社長は「欧米企業は短期的な利益追求で諦めるが、我々は研究者の夢を叶えるという経営判断をし、極限追求と同時に超継続という部分が研究開発のベースになっている」と語ります。ビジネスなので収益を生まなければならないという現実と、夢を追い続けるという理想のバランスを取り続けた結果が、今の成功につながっているのです。
ペットボトルから白無垢へ|東レのリサイクル事業「&プラス」
東レの技術力は環境問題の解決にも貢献しています。その象徴が「&プラス(アンドプラス)」と呼ばれるリサイクル事業です。
有楽町マルイの靴売り場で人気を集めているニット製パンプス「ケソウ」。片足140gという軽さと靴下みたいなフィット感が特徴のこの商品、実はペットボトルを再生した糸から作られています。
丸井では北千住マルイで回収したペットボトルを繊維に再生し、パンプスを作ることで資源を循環させているのです。丸井EC事業本部の長野未来さんは「ペットボトル再生糸は世の中にたくさんあるが、撥水加工などの機能性のところも東レと一緒に作っていただいている」と評価します。
東レの&プラスでは、資源ごみとして回収されたペットボトルから不純物を取り除き、ポリエステルのチップに加工。それを東レの技術力で通常と変わらない白さや強度を持った糸に再生しています。
最も驚くべきは、結婚式で着る美しい白無垢までペットボトルから作れてしまうことです。東レ繊維CE戦略室の白石肇室長は「この白さをしっかり出すということは非常に技術力がいる。回収したペットボトルから徹底的に異物を除去して、限りなくきれいな状態にしたものを原材料として使うことが大事」と説明します。
さらに注目すべきは、吉田カバンの人気ブランド「PORTER」のタンカーシリーズで実現した100%植物由来のナイロン繊維です。ヒマという植物とトウモロコシから作られたこの繊維は、従来のナイロンと同等の強度を実現しています。
開発を担当した東レフィラメント技術部の兼田千奈美さんは「先輩方の知識やデータがたくさんあるので、どういったところに注目したら解決できるかというアイデアが浮かんでくる。これは東レならではの、ナイロン繊維をやってきたからこそ」と語ります。
大矢社長は「コストは決して安くない。最初から作る糸の方が安いケースもいっぱいある」と認めた上で、「今のZ世代は『コト』を重視する。分別したペットボトルから白無垢までできるということを分かってもらえるようなビジネスモデルを作らなければいけない」とストーリー性の重要性を強調します。
タイではサトウキビのカスから膜技術を使ってセルロース糖を作り、そこからモノマー変換して繊維を作る実証実験も進行中です。タイのスモッグ問題の一因がサトウキビのカスを燃やすことにあり、それを活用することで環境問題の解決にもつながるのです。
大矢光雄の営業マン時代|着圧ストッキング「ジェンティルドンナ」誕生秘話
現在の大矢社長の経営哲学を理解する上で欠かせないのが、若き営業マン時代のエピソードです。1980年に東レに入社した大矢さんは、最初ナイロンで水着を担当し、「ナイロンの大矢」と呼ばれるようになります。
転機が訪れたのは入社8年目、1988年頃のこと。ある女性経営者から1本の電話がかかってきました。「仕事柄、足のむくみがひどいんです。むくみ対策のストッキングがあればみんな喜ぶと思うんですけど。なんとか作ってくださいよ」。
当時、立ち仕事をする女性の足のむくみという悩みを男性の大矢さんは知りませんでした。その女性経営者は欧州の医療用ストッキングを日常的に着用しており、それを日本仕様で商品化して日本の働く女性のために売りたいと直接訴えてきたのです。
大矢さんは早速チームを組み、前例のない商品開発に乗り出します。部分ごとに圧力を変える商品設計から糸の開発、マーケティングまで全てをコーディネート。そして世に出したのが着圧ストッキング「ジェンティルドンナ」でした。
当時の主流が500円のストッキングだった中、大矢さんは1万2000円という価格設定に踏み切ります。この大胆な価格戦略が功を奏し、商品は飛ぶように売れ、日経のヒット商品番付にも入りました。
この成功体験が、大矢社長の「戦略的プライシング」という経営哲学につながっています。「お客様にとって価値があるものは、やっぱりきちっと値ごろ感をもって買っていただける。常にお客にとって価値がある商品なのかどうかということを自分たちで検証していく。もし価値がなかったら価格は安く設定される。この商品の価値をきっちり評価する値付けにしなさいということで始まった。ある意味意識改革ですね」。
大矢社長が大切にしているのは「カスタマーサクセス」という考え方です。「顧客視点で、お客様のサクセスにどうやって自分がきっちり対峙して仕事ができるかをずっとやってきた。今の経営もスタートはそういう形で常に考えている」と語ります。
この若き営業マン時代の挑戦が、安売りをしない高付加価値戦略として東レのものづくり全体に浸透していったのです。「パンストの大矢」から東レ社長へ。その経歴には、顧客の本当の悩みに向き合い、価値ある商品を適正価格で提供するという一貫した哲学が貫かれています。
水処理膜技術で世界へ|インドの下水問題に挑む東レのRO膜
東レの繊維技術は意外な分野でも威力を発揮しています。それが水処理膜事業です。現在、売上1000億円に迫るこの事業は、世界中の水問題解決に貢献しています。
滋賀県の東レ地球環境研究所を訪ねると、そこには繊維作りのノウハウを活かした水処理膜の研究開発が行われていました。峯岸進一所長が見せてくれたのは中空糸膜。外側に川の水を流すと、ドロのようなものが膜の表面で阻止され、水だけが中空糸の中に集められる仕組みです。
特に細かい物質を除去できるのが、世界トップレベルのシェアを誇る「RO膜(逆浸透膜)」です。紙のようなシート状の膜の表面に1ナノ以下の穴が開いており、イオンや塩分まで通さない構造になっています。
筒状のユニットの中心にあるパイプに、このRO膜が20枚以上巻き付けられており、汚れた水は幾重ものRO膜を通る中で濾過され、中心のパイプへと集まってきます。このRO膜は海水を飲み水に変える淡水化でサウジアラビアなど世界中で使われており、グローバルで約50%のシェアを持っています。
峯岸所長は「海水淡水化については、もう10億人以上分の水を東レの膜を使って作っている」と誇らしげに語ります。
番組では、急激に都市化が進む人口14億人のインドでの取り組みも紹介されました。ベンガル湾に面したチェンナイ市内には、処理されない生活排水やゴミが捨てられた悪臭を放つ場所があちこちにあります。
東レ・インディアの花田茂久さんは、この下水問題を解決するために赴任しています。「水というのはその地域地域によって水質が異なるので、現地での水を使ってやるっていうところがやはりポイントになる」と語る花田さん。実際に稼働しているムンバイ近郊の製紙工場では、ドロドロの工場排水が東レの「UF膜」と「RO膜」を組み合わせた水処理プラントを通すことで、驚くほど透明な水に変わっていました。
大矢社長は「世界全般で課題だと思う。海水を飲み水にする海水淡水化ビジネスでかなりマーケットのシェアが高いが、それ以外にも膜技術によって下排水を飲み水にする。あるいは今、半導体の世界で超純水を使うが、水道水から取って超純水にするという膜技術もある」と事業の広がりを説明します。
繊維技術から生まれた水処理膜が、世界中の水不足と環境問題の解決に貢献しているのです。
農業・シルック・次世代繊維|東レの新規事業への挑戦
東レの挑戦は留まることを知りません。農業分野への進出もその一つです。
高知県大豊町のビニールハウスでは、東レの遮熱シートがトマト農家の悩みを解決していました。最近の暑さで高温障害を起こし、着色不良になってしまっていたミニトマト。A品とB品では倍近く値段が違うこともあり、生産者にとって深刻な問題でした。
東レ産業資材事業部の森寛和さんたちが開発した農業用遮熱シートは、白の部分のフィルムで光の影を作り、青の部分で光の熱源となる赤外線を吸収して涼しくする仕組み。光合成に必要な光はそのまま取り入れる一方、シートの効果で温度を最大5度も下げることができます。
おおた農園代表の太田剛さんは「きれいな赤色にならなかったが、このシートのおかげでまっ赤っ赤になった。ハウス内の作業も全然違う。空調服もなしで作業できる」と効果を実感しています。森さんは「作物に合わせた製品や農家さんのご希望に合った遮光率など、チューニングしながらラインナップを増やしていきたい」と今後の展開を語ります。
一方、伝統的な着物の分野でも革新が起きています。三越の着物売り場で販売されている「シルック未來」は、洗濯できる合成繊維でありながら天然の絹を追求してきたシルックシリーズの最新作です。
ナノデザインの技術で2種類の複雑な断面の繊維を組み合わせ、生地の表面に特徴を出すことで、従来のものより摩擦感が増し、着崩れしづらくなりました。さらに絹特有の「絹鳴り」という音まで再現しています。
スタジオでは大矢社長がシルック未來のスーツを着用して登場。村上龍さんの「天然のシルクが再現できるんですか?」という質問に対し、大矢社長は「天然のシルクを超えられる、というところまで技術が進化した」と自信を示しました。
さらに鎌倉の研究施設では、タピオカの原料として知られる芋、キャッサバから取り出したデンプンの搾りカス。これからできた糖を使いナイロンの原料となるアジピン酸を作り出すという次世代繊維への挑戦も進んでいます。
大矢社長は研究員に「これフルスイングしてるよね」と声をかけ、「もう三振いっぱいした方がいいよ。失敗しないと分かんないから。頑張って失敗してください」と激励していました。
「フルスイング経営」とは|大矢光雄が現場に伝えるメッセージ
大矢社長が現場で繰り返し伝えているのが「フルスイング」という言葉です。この経営哲学には深い意味が込められています。
大矢社長が社長に就任したのは2023年。コロナ明けの時期であり、社会全体がコミュニケーション不足、米中対立、ウクライナ問題、エネルギー問題など先行き不透明な状況にありました。
「世の中全体が得も知れない閉塞感みたいなところがあって、社内の中でもそういうことを感じていた。今の会社の隆盛も止まるという部分の危機感があった。その閉塞感の部分の中で、自由闊達さみたいなところを覚醒させる。覚醒させるにはもうバッターボックスに立てと。バッターボックスに立ってフルスイングして三振してもいい。そういう仕掛けを社長自らが発信している」と大矢社長は語ります。
村上龍さんの「フルスイングできますか?」という問いに、大矢社長は即座に「できます」と答えました。「個々の仕事の中で、自分たちのテリトリーの中で、きちっとそのフルスイングをやっていけば」と、一人ひとりが自分の持ち場で挑戦することの重要性を説いています。
また、中国との競争について大矢社長はこう分析します。「中国が大増産で我々のケミカルの業界にも入ってきて、短期的にイノベーションを創出する部分が必要になってきている。我々はゼロイチいっぱい持ってて、1から10、1から100というところももちろんやってきてるけど、そのスピード感をもっと早くしなきゃ中国の増産に勝てない」。
0から1を生み出す力は東レが勝っている。しかし、それを10や100にするスピード感では中国に負けている。この現実認識が、フルスイング経営の背景にあります。
毎朝7時過ぎに誰よりも早く出社するのが大矢社長の日課です。「8時半からミーティングが始まるので、その前に自分の考えることや今日1日のパターンを整理する時間が欲しい。それを皆知ってるから朝早くに8時とかって前倒しに打ち合わせが入ることもある」と語る大矢社長。
全国を回り現場の声を聴き続ける姿勢も変わりません。「一番の強みは現場力だと思う。事業場や関係会社をラウンドしている」と語る大矢社長は、自らが営業マン時代に培った顧客視点を、組織全体に浸透させようとしているのです。
まとめ:東レの生き残りの道しるべが示す未来
カンブリア宮殿で特集された東レと大矢光雄社長の物語は、不確実な時代を生き抜くための多くの示唆に富んでいます。
90年代に壊滅的打撃を受けた日本の繊維産業。多くの企業が撤退や縮小を選ぶ中、東レは「世界を見れば衣料は成長産業だ」という視点の転換で生き残りの道を切り開きました。その根底にあるのが「極限追求」と「超継続開発」という2つの道しるべです。
ナノデザイン技術に象徴される極限追求の精神は、ユニクロとの戦略的パートナーシップでヒートテックやパフテックといった革新的商品を生み出しました。一方、1961年から45年をかけて実現した炭素繊維のボーイング787採用は、超継続開発の成果です。欧米企業が短期的利益を求めて撤退する中、東レは研究者の夢を信じ続けました。
ペットボトルから白無垢を作るリサイクル事業、世界シェア50%を誇る水処理膜で10億人以上の水を供給する社会貢献、農業やシルックなど新規事業への挑戦。これらすべてに共通するのは、繊維技術という強みを徹底的に磨き、それを様々な分野に展開していく姿勢です。
大矢社長自身の経験も示唆に富んでいます。入社8年目で着圧ストッキング「ジェンティルドンナ」を1万2000円で売り出し、大ヒットさせた経験。そこから生まれた「戦略的プライシング」と「カスタマーサクセス」という考え方が、今の東レの高付加価値戦略を支えています。
そして「フルスイング経営」。閉塞感を打破するため、バッターボックスに立ち、三振を恐れず挑戦する。この姿勢こそが、中国企業との競争に勝ち、0から1を生み出し、それを素早く100にしていくために必要なのです。
来年2026年に創業100年を迎える東レ。繊維事業で初めて売上収益1兆円を突破し、全体で約2兆5000億円の売上を誇るまでに成長しました。しかし大矢社長は決して現状に満足していません。
番組の最後、大矢社長はこう語りました。「東レは創業以来、先端材料を作って社会貢献して、これまで100年を自分の事業と社会貢献を両立しながら存続してきた会社。これからの時代も全く一緒で、世界が直面する社会課題に対して先端材料、革新的な技術で社会の課題を解決し、自社の成長も同時に実現して、社会貢献を積極的にやり続ける。事業拡大をやり続ける」。
事業成長と社会課題解決の両立。短期的利益ではなく長期的視点でのイノベーション追求。顧客の本当の悩みに向き合い、価値ある商品を適正価格で提供する。そして何より、失敗を恐れずフルスイングする組織文化の醸成。
これらの東レの生き残りの「道しるべ」は、不測の時代を生き抜く全てのビジネスパーソンにとって、重要な指針となるはずです。技術力の極限追求と超継続開発、そして社会貢献との両立。この哲学こそが、次の100年も東レが成長し続けるための基盤となるでしょう。
※ 本記事は、2025年11月13日放送(テレビ東京系)の人気番組「カンブリア宮殿」を参照しています。
※ 東レ株式会社の公式サイトはこちら


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