近年、コーヒーチェーン業界で熾烈な”日本外食10年戦争”が勃発しています。2024年3月21日放送（テレビ東京系）の「カンブリア宮殿」によると、スターバックスをはじめとする既存大手から、異業種参入や地方発の新興ブランドまで数多くのプレーヤーが割拠し、”珈琲チェーン”をめぐる競争が過熱しています。
そんな激戦区で勝ち残るには、いったいどのような戦略が必要なのでしょうか。本記事では、様々な珈琲チェーンの実態と戦略を解説することで、これからの勝者の条件を明らかにします。美味しいコーヒーだけでなく、お客様に心に残る”特別な体験”を提供できるブランディングこそが鍵となるでしょう。
珈琲チェーン市場の現状と展望 ~「カンブリア宮殿」が描く激戦区
かつて喫茶店が全国に16万軒も存在した時代がありました。しかし、ファストフード店の台頭によって喫茶店は次第に減少、カフェチェーンへとかたちを変えていきました。
そして2020年代に入り、珈琲チェーンを巡る「日本外食10年戦争」が勃発。既存の大手から異業種参入、さらには地方発の新興チェーンまで参戦し、市場は過熱状態となっています。
テレビ東京系の人気番組「カンブリア宮殿」では、2024年3月21日の放送で、この激戦区を的確に捉えていました。
国内最大手の「スターバックス」は全国1900店舗を展開。リーズナブルな価格帯と充実したメニューで幅広い客層をカバーしています。さらに地域密着の「リージョナルランドマークストア」では、その土地の歴史的建造物を活用するなど、地元に根付いた戦略を展開しています。
一方、異業種から多数の新規参入があり、競争が一層激化。うどん王者の「丸亀製麺」を展開するトリドールがハワイ気分のカフェ「コナズ珈琲」を42店舗立ち上げ、焼肉最大手の「焼肉キング」が運営する「果実屋珈琲」ではフレッシュフルーツを使った高級路線を狙っています。
異業種参入で加速する”珈琲チェーン戦争”~「果実屋珈琲」や「コナズ珈琲」の狙い
珈琲チェーン業界への異業種からの参入ラッシュが続いています。そのきっかけは2020年初頭に発生した新型コロナウイルスの影響でした。
外食業界は過去に例のない甚大な打撃を受け、当時、1500店舗近くが閉店の危機に見舞われていました。その対策として、閉店した店舗の2~3割が焼肉店やカフェに業態転換すると予測されていたのです。
実際、焼肉チェーン最大手の「焼肉キング」を運営する物語コーポレーションの加藤央之社長は、2021年2月の時点で、「次なるチャレンジ」としてカフェ業界への参入を念頭に置いていました。
そして2023年、同社から高級フルーツ専門の「果実屋珈琲」がスタート。1杯1000~1500円の価格帯を開拓し、都内の閑静な高級住宅街・調布市に1号店をオープン。一流ホテルの食材同等の高級フルーツを使用することで、他とは一線を画す特別な空間を提供しています。
「果実屋珈琲」
一方、うどん王者「丸亀製麺」の運営企業トリドールは、2022年に「コナズ珈琲」をスタート。ハワイの雰囲気を再現したリゾート空間と、本場ハワイのコーヒーや専門店レベルのスイーツを提供。現在42店舗に増えています。
物語コーポレーションとトリドールの思惑は、主力業態での成長余力の限界に直面する中、新たな成長の種を見出そうというものです。加えて、自社の既存事業とのシナジーを生かしながら差別化を図り、激戦区への参入を狙っています。
このように、さまざまなカフェチェーンが生まれ、業界の勢力図は一層複雑化。奇をてらした新業態の登場で、「珈琲チェーン戦争」はさらに熾烈さを増しています。
地方発の新星「サザコーヒー」の急成長の裏側
珈琲チェーン業界で、急激な勢力伸長を遂げているのが茨城県出身の「サザコーヒー」です。
2024年現在、17店舗を展開するサザコーヒーは、地元茨城に本店を構える老舗ながら、東京・丸の内の複合商業施設「KITTE」にも出店。首都圏での人気を確立しつつあります。
「サザコーヒー」
サザコーヒーの魅力は、コーヒー自体の絶品の味わいにあります。取り扱う豆は25種類もの多様性を誇り、産地と直接取引するなどして、最高級の品質を維持。バリスタの入念な手作業で抽出されたコーヒーはコアな愛飲家からも高い評価を受けています。
さらに、同店のコーヒーの最高峰ともいえる「パナマゲイシャ」は、1杯3000円という極上の価格帯ながら人気を集めています。
サザコーヒーの社長である鈴木太郎氏は、「茨城は納豆と水戸黄門だけじゃない」と語るように、地元の名物以外の新たな魅力を発信することで、地方発の挑戦者として確固たる地位を築きつつあります。
珈琲チェーン業界で最も重要な「本物のコーヒーの提供」を貫徹し、強みを一層際立たせることで、ブランド力の向上を狙う同社の戦略が奏功しているといえるでしょう。
スターバックスの地域密着戦略「リージョナルランドマークストア」とは
国内最大手のスターバックスも、独自の地域密着戦略を展開し、業界をリードしています。同社CEOの水口貴文氏が語るように、地域住民にとって「特別な存在」となるスターバックスづくりを目指しているのです。
具体的には、地域を象徴する歴史的建造物に出店する「リージョナルランドマークストア」を主力としています。2024年現在で全国に28店舗を設置し、その土地の文化発信拠点としての役割を担っています。
例えば鹿児島では、登録有形文化財の島津家の建物を利用。神戸では異人館をリノベーションするなど、地域の歴史に配慮しながら、新たな価値を創出しています。先人が残した資産を大切に活用することで、地域とのつながりを深める狙いがあります。
加えて、47都道府県それぞれの特色をいかした「地元フラペチーノ」の開発も進めています。秋田の塩キャラメル風、山梨のブドウチョコレートなど、地域の味覚を体現したメニューを生み出し、地元愛着の醸成を狙っています。
スターバックスは、商品やサービスを通して「日常に活力と潤いを」という存在意義を追求。人と人のつながりを提供できる特別な空間づくりを展開し、業界のパイオニアとしての地位を今後も守り続ける構えです。
勝者の条件は”心に響くカフェ体験”を提供できるか
このように珈琲チェーン業界は過熱する一方で、大手から新興勢力まで入れ替わりも激しくなっています。
勝ち残るための鍵は、単に美味しいコーヒーやおいしいスイーツを提供するだけでは不十分であると言えます。
業界の先駆者である横川氏は、「コーヒーやパンケーキといった有形の商品以上に、無形の価値が重要だ」と説きます。つまり、お客様の心に響く体験価値の提供こそが何より大切なのです。
横川氏が手がける「高倉町珈琲」では、上品でゆったりとした空間作りと、リコッタパンケーキなどの拘りのメニューで、地域密着型のブランディングに成功してきました。創業から10年で39店舗を展開する実績を重ね、特に首都圏で高い支持を得ています。
「高倉町珈琲 高崎店」
一方で横川氏は自身のチェーン展開ペースを「遅い」と評し、出店のスピードには企業による差があると指摘しています。店舗数を増やす際は、ブランド価値を損なうリスクに十分注意を払う必要があると説いています。
ほかにも、「カフェには喫茶店と違って、コーヒー以外の価値があるべき」と主張。お客様のストレス解消の場、日常から非日常への”気分転換”を提供できるかどうかが肝心であると説きます。
このように”心に響く特別な体験”を提供できるかどうかが、珈琲チェーン各社の明暗を分ける大きな条件となりそうです。サービスとおもてなしの質を高めながら、新たなブランド価値の創造と発信に努める必要があります。
まとめ:「日本外食10年戦争」における珈琲チェーンの行方
珈琲チェーン業界を巡る”日本外食10年戦争”は今後も熾烈を極めると予想されます。既存の大手から異業種の参入、さらには地方発の挑戦者までもが割拠し、各社が思惑を賭けて璺れ合っています。
競争が過熱する中で勝ち残る条件は、”お客様に心に残る特別な体験”を提供できるかどうかにかかっています。美味しいコーヒーやスイーツといった有形の商品以上に、人々の心に響く無形の価値を創造できるかが問われているのです。
この点で、地域に密着した戦略を展開するスターバックスが業界をけん引する一方、フレッシュフルーツ専門の「果実屋珈琲」や地方の名門「サザコーヒー」なども立ち位置を確立しつつあります。
いずれのプレイヤーも、ブランド価値の構築と発信力の強化に腐心しています。単なる飲食店ではなく、人々のライフスタイルに寄り添うトータルなカフェ体験を提供できるかが鍵を握ると言えそうです。
コメント