NHK「クローズアップ現代」で取り上げられた朝ドラ「虎に翼」。脚本家・吉田恵里香さんが描く”生きづらさ”の正体とは何でしょうか? 100年前の物語が、現代社会に潜む差別や不平等を鮮やかに映し出します。「はて?」という問いかけを通じて、私たちは自分自身と社会を見つめ直すきっかけを得られるでしょう。この記事を読めば、より平等で包摂的な社会への第一歩を踏み出すヒントが見つかるはずです。
「虎に翼」が問いかける現代社会の生きづらさ
2024年9月26日、NHK「クローズアップ現代」で放送された特集「『虎に翼』が描く”生きづらさ”の正体 脚本家・吉田恵里香」は、多くの視聴者の心に響きました。2024年4月から放送された連続テレビ小説「虎に翼」は、日本初の女性弁護士を主人公に据え、大正から昭和にかけての物語を通して、現代社会にも通じる様々な差別や不平等、そして性別や立場に関わらず多くの人が抱える”生きづらさ”を鮮やかに描き出しました。
この朝ドラは、単なる歴史ドラマではありません。100年前の物語を通して、現代社会に潜む根深い問題を浮き彫りにしているのです。女性に対する偏見や差別、性的マイノリティの人々の苦悩、障害者や高齢者が直面する困難など、社会の様々な層に存在する”生きづらさ”が丁寧に描かれています。
吉田恵里香が語る「はて?」の意味と重要性
脚本家の吉田恵里香さんは、主人公の寅子が繰り返し発する「はて?」という言葉に、重要な意味を込めています。この「はて?」は、社会の不条理や偏見に対する疑問符であり、対話を促す呼びかけでもあるのです。
吉田さんは「はて?」について、「対話しましょうよ、みたいな気持ちで『はて?』って言ってるつもりでした。否定したりとか誰かを怒ったりするってよりは、私はこれがわからないとか疑問を持ってるっていう意味で」と説明しています。この「はて?」は、視聴者にも自分の周りの環境や社会の仕組みを見つめ直すきっかけを与えているのです。
朝ドラが描く多様な声なき声の存在
「虎に翼」は、社会で声を上げにくいさまざまな人たちの存在を丁寧に描いています。性的マイノリティ、障害者、認知症が進む高齢者、在日コリアンなど、従来のドラマではあまり焦点が当てられなかった人々の物語が織り込まれています。
吉田さんは、「省かれてきた人たちじゃないですか?それを省かないで書こうと思ってるだけなので、なんか盛り込むとか、入れてやろうというよりは、ちゃんと誠実にいた人を書きたいなっていう」と語っています。この姿勢が、多くの視聴者の共感を呼んだ要因の一つと言えるでしょう。
ロバートキャンベルと安田菜津紀が語る共感の理由
日本文学研究者のロバートキャンベルさんと、フォトジャーナリストの安田菜津紀さんは、「虎に翼」に強く共感したと語っています。
キャンベルさんは、同性のパートナーと暮らしている立場から、ドラマに描かれた同性婚の法的認知の問題に深く共感しました。「私たちはアメリカで結婚してるんですけど、日本に帰ってくると、何もそれは無効、何も意味しないんですよね」と、現実の問題を指摘しています。
安田さんは、在日コリアン二世の父を持つ経験から、ドラマに登場する朝鮮半島からの留学生の物語に強く共感しました。「出自を明らかにするっていうことによって、差別の矛先を向けられるリスクが高まる」という現実を、ドラマが鋭く描き出していると評価しています。
エンタメの力で社会を変える:吉田恵里香の思い
吉田さんは、エンターテインメントの力を信じています。「エンタメっていうのは、その切り口とか味付けとか風味とかを調整できて、その度合いを変えれる」と語り、社会問題を伝える上でのエンターテインメントの可能性を示唆しています。
さらに、「やっぱりこれだけ格差とかが生まれてしまう世の中なので、なんかそれを私は僕はエンターテイメントという業界にいるから、何もタッチしませんっていうのがもう理屈として通じなくなってる世の中かな」と、創作者としての責任感を語っています。
マジョリティーの無意識の偏見と向き合う重要性
「虎に翼」は、マジョリティー側の無意識の偏見や差別的な態度も鋭く描いています。吉田さんは、「もうマジョリティー、何かのマジョリティーに入ってる以上、必ず誰かを傷つけたり、誰かが持ってない特権とかの上にあぐらをかいてるっていうことが絶対ある」と指摘します。
この認識は、社会の変革には当事者だけでなく、マジョリティー側の意識改革が不可欠であることを示しています。「自分に関係ないじゃなくて、いろんなマジョリティー側が変えること。自分に関係ないと思わないってことが世の中を変える」という吉田さんの言葉は、視聴者一人一人に自己省察を促しています。
憲法第14条が示す平等な社会への道のり
ドラマの象徴として繰り返し描かれた日本国憲法第14条は、法の下の平等を謳っています。「すべて国民は法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分、または門地により政治的、経済的、または社会的関係において差別されない」という条文は、1947年の制定から77年が経った今でも、私たちの社会の理想像を示しています。
吉田さんは、この条文について「当たり前のことなんですけどね。でもなんかこれがあるから救われている人もいるし。これをね、残さないとダメな人間というかそうですね、社会なんですよね」と語っています。この言葉は、私たちがまだ理想の社会からは遠いところにいることを示唆しつつ、そこに向かって努力し続ける必要性を訴えかけています。
まとめ:「虎に翼」が投げかける現代社会への問い
「虎に翼」は、100年前の物語を通して現代社会に鋭い問いを投げかけています。差別、不平等、生きづらさ—これらの問題は形を変えながらも、今なお私たちの社会に存在しています。
吉田恵里香さんが描いた物語は、私たち一人一人に「はて?」と問いかけることの大切さを教えてくれます。社会の不条理に疑問を持ち、声なき声に耳を傾け、対話を重ねていくこと。そして、自分自身の中にある無意識の偏見や特権性に気づき、向き合っていくこと。
2024年の今、私たちはこのドラマを通して、より平等で包摂的な社会を目指すためのヒントを得たのではないでしょうか。「虎に翼」が投げかけた問いに、私たち一人一人が自分なりの答えを見つけ、行動に移していくことが、よりよい社会への第一歩となるのです。
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