2024年12月3日、韓国のユン・ソンニョル大統領が突如宣言した非常戒厳により、韓国の政局は大きな混乱に陥っています。慶応大学教授の西野純也氏をはじめとする専門家たちは、この事態を韓国の民主主義における重大な危機として指摘しています。今回は、この非常事態の全容と背景、そして今後の展望について詳しく解説していきます。
ユン・ソンニョル大統領による非常戒厳宣言の全容と背景
韓国で発令された非常戒厳は、一切の政治活動の禁止、すべてのメディアの統制、さらには令状なしでの逮捕・拘束を可能とする、市民の権利を強く制限する措置でした。この非常戒厳は、キム・ヨンヒョン前国防相の進言により実施されました。キム前国防相は、ユン大統領の高校の先輩で、強硬な保守派として知られています。
韓国のユン・ソンニョル大統領
非常戒厳の背景には、4月の総選挙での与党「国民の力」の大敗があります。与党は全300議席中わずか108議席にとどまり、北朝鮮との対話を重視する野党が過半数の議席を獲得。この結果、ユン大統領は予算や人事案を通せない困難な政権運営を強いられていました。
非常戒厳宣言で明らかになった韓国政治の分断と課題
神戸大学の木村幹教授は、韓国社会における左右の深刻な分断を指摘しています。特に注目すべきは、SNSを通じて広がる極端な主張の影響力です。一部の保守系ユーチューバーが、4月の総選挙での野党勝利は北朝鮮による操作だったとする説を展開し、その動画は数百万回以上再生されるなど、大きな影響力を持ちました。
韓国政治を研究している神戸大学の木村幹教授 （引用：「Youtube」より）
「従北」発言の真相と西野純也教授による分析
ユン大統領は非常戒厳を正当化する際、「破廉恥で”従北”である反国家勢力を一挙にあぶり出し、自由憲政秩序を守るため」と述べました。この発言について西野純也教授は、「大統領の個性とパーソナリティが強く作用している」と分析。政治経験の乏しさや、適切な助言者の不在が、極端な決断につながった可能性を指摘しています。
韓国政治に詳しい慶應義塾大学の西野純也教授
韓国市民の反応と弾劾をめぐる与野党の攻防
NHKソウル支局長の大谷暁氏によると、国会前には15万人を超える市民が集まり、弾劾を求める声が上がっています。一方で、ユン大統領を支持する保守派の集会も開かれており、社会の分断が一層深まっている状況です。
NHKソウル支局の大谷暁支局長
ジャーナリストのソ・テギョ氏は、1980年の光州事件を想起させる今回の事態に強い危機感を示しています。特に、軍事政権時代と同じ戒厳令が今も大統領の権限として残されている制度的問題を指摘しています。
ジャーナリストのソ・テギョ氏
国際社会への影響と日米韓関係の行方
元ホワイトハウスNSCアジア部長のビクター・チャ氏は、北朝鮮の脅威が高まる中での韓国の政治的混乱を懸念しています。特に、バイデン政権下で確立された日米韓の協力体制への影響を重要視しています。
元NSC国家安全保障会議のアジア部長 ビクター・チャ氏
西野教授は、この事態が日韓関係と日米韓協力にマイナスの影響を与える可能性を指摘。特に、ユン大統領のリーダーシップに依存していた日韓関係の改善が停滞する可能性を危惧しています。
まとめ：韓国民主主義の岐路と今後の展望
今回の非常戒厳をめぐる混乱は、韓国の民主主義が直面する課題を浮き彫りにしました。ノーベル文学賞作家のハン・ガン氏は、「2024年に再び戒厳状況が展開されたことに大きな衝撃を受けた」と述べつつ、「全てが生中継で放送され、すべての人が目撃することができた」という現代ならではの特徴も指摘しています。
今年、ノーベル文学賞に選ばれたハン・ガン氏
今後の展開は世論の動向が大きな鍵を握ると見られています。与党内での態度変更の可能性や、継続的な市民の声が、この政治的混乱の行方を左右することになるでしょう。
※本記事は、2024年12月9日放送のNHK番組「クローズアップ現代」を参照しています。
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