「新NISAを始めたけれど、周りに比べて自分は出遅れているのでは」と焦りを感じていませんか。2026年10月20日放送のNHK「クローズアップ現代」は、「投資しないと取り残される」という空気の正体に迫りました。この記事では、生活を切り詰めて投資する人々の実例、専門家が示した背景、そして韓国の教訓までを整理します。読み終える頃には、自分に合った投資との距離感が見えてくるはずです。
クローズアップ現代「投資しないと取り残される」とは?放送内容の要点
2026年10月20日放送のNHK「クローズアップ現代」のテーマは「投資しないと取り残される?広がる“お金の焦り”」でした。物価高や老後への不安から「働くだけでは豊かになれない」と感じ、生活を切り詰めてまで投資に向かう人々を、日本と韓国の現場から追った回です。
スタジオには、星麻琴キャスターのもと、関東学院大学経済学部教授・経済学部長の島澤諭さんと、エコノミストの河田皓史さんが出演しました。
番組が示した「焦りの正体」を先にまとめると、次の3つに集約できると感じました。
- 景気が良くなっても実質賃金が上がらず、働くことへの期待が薄れていること
- 年金への不信から、老後資金を自分で用意しなければという圧力があること
- 周りが資産を増やしているのに、自分だけが置いていかれるという感覚
つまり、新NISAの広がりは単なる「投資ブーム」ではなく、働き方や社会保障への不安が形を変えて表れたものだというのが、この回の大きなメッセージだったと思います。
手取り20万円で月11万円を新NISAへ|31歳会社員と専門家が説く生活防衛資金
最初に登場したのは、名古屋でシステムエンジニアとして働く31歳の木田さんです。番組によれば、2年半前にNISA口座を開設し、500万円あった預金のほとんどを投資に回しました。現在も手取り20万円のうち11万円を毎月の投資に充てているそうです。
生活費は、家賃4万3000円、光熱費などの固定費が2万2000円、食費などが2万5000円ほど。食事は3食自炊で、昼食は毎日パスタと決めています。250gで75円ほどのパスタを買い、冷凍野菜は2割引きの日にまとめ買いするという徹底ぶりでした。
資産はおよそ30%増え、200万円近く増加したといいます。年収が大きく上がる見込みは薄いと考え、30代のうちに3000万円を目指しているそうです。「NISAは人生のパートナー」という言葉が印象的でした。
一方で、ファイナンシャルプランナーの深田晶恵さんは、手元資金をほとんど残さず投資に回す人が目立つことを心配していました。毎月の支出の少なくとも6か月分は預金で持っておきたい、という指摘です。株価が上がっても、売るまでは利益は確定しません。急な病気やけがでお金が必要になったときに相場が下がっていれば、必要な額を確保できないおそれがあります。
個人的には、木田さんの計画性には素直に感心しました。ただ、資産の数字を見ることが「ストレス解消」になっているという話には、少し危うさも感じます。下落局面で、その数字が逆にストレスの源になりかねないからです。
大学進学資金400万円を投資に|19歳で資産1000万円超の若者が失ったもの
さらに衝撃的だったのが、19歳のゆうさんです。番組によれば、親が大学進学のために用意していた400万円を元手に投資を始めました。「大学に行かずに就職するなら、そのお金はあげる」と親から言われたのがきっかけだったそうです。
ゆうさんの考えは、高卒で4年早く働き始め、その収入を投資に回せば、資産収入で大卒に勝てるのではないか、というものでした。現在は実家暮らしで工場に勤め、収入のほとんどを投資に回しています。
投資について学んだのはSNSの動画でした。運用期間が長いほど有利だと強調され、「もっと若いうちから始めればよかった」という先輩投資家の声に背中を押されたといいます。
資産は2年半で1000万円を超えました。しかしその一方で、仕事へのモチベーションは失われていったそうです。「会社は投資資金を稼ぐ場所」という言葉には、考えさせられるものがありました。
19歳で1000万円という結果だけを見れば、成功例に映るかもしれません。ただ、10代から20代は、仕事を通じてスキルや経験を積み、自分の稼ぐ力を育てる大切な時期でもあります。お金の複利だけでなく、経験の複利も手放してしまっていないか。そこが一番気になったポイントでした。
なぜ投資に駆り立てられるのか|河田皓史さんが示す「報われない労働」
では、なぜ人々はここまで投資に駆り立てられるのでしょうか。河田皓史さんは、投資への期待が高まる裏で、働くことへの期待が下がっていると指摘しました。
その理由の一つが、物価の影響を差し引いた実質賃金が長く伸びていないことです。いわゆる「失われた30年」の時期は、景気が悪いのだから仕方がないと受け止められていました。ところがここ数年は、企業収益が伸び、株価も大きく上がっているのに、実質賃金は上がっていません。「景気が良くても上がらないなら、この先もずっと上がらないのでは」というムードが広がっている、という分析です。
番組では、企業の利益がどこに分配されているかを示すグラフも紹介されました。人件費に回る割合は30年前と比べて下がり、株主への配当は長期的に増え続けています。企業の分配が、従業員より株主への還元を重視する形に変わってきたということです。
こうした状況では、働いて収入を増やすより、株主として企業の成長の恩恵を受けるほうが合理的に見えてしまいます。木田さんやゆうさんの行動は、決して極端な個人の問題ではなく、この構造に対する「合理的な反応」でもあるのだと、このグラフを見て腑に落ちました。
新NISA利用者の6割強が年収500万円未満|島澤諭さんが指摘する「二重の負担」
番組が事前に募った視聴者アンケートでは、「年金だけで老後の生活が苦しくなければ、投資はしていない」という声が紹介されました。
社会保障に詳しい島澤諭さんは、今の現役世代は、社会保険料を払って現在の高齢者を支えながら、自分の老後のためにNISAなどで資産形成も求められる「二重の負担」を背負っていると指摘しました。その背景には、年金制度への不信や、老後資金は自分で備えるよう促す政府の姿勢があるといいます。
新NISA利用者の年収分布も紹介されました。最も多いのは年収300万円未満の層で、年収500万円未満の人が全体の6割強を占めています。島澤さんは、NISAが一部の富裕層ではなく、平均的な所得かそれ未満の人に利用されていると説明し、「貯蓄から投資へ」という政策の効果がようやく表れてきたと評価しました。
ただし、島澤さんは懸念も示しました。投資は元手が大きい人ほど利益も大きくなるため、もともとの資産や収入の格差が、投資を通じてさらに広がるおそれがあります。そこに「自分だけ取り残される」という焦りが加わると、短期間で大きな利益を求め、リスクの高い投資へ向かう人が増えかねない、という指摘です。
韓国の投資熱とKOSPI急落|信用取引・レバレッジ型ETFで資産を失った人も
その「焦りの行き着く先」として番組が取り上げたのが、投資熱が高まる韓国でした。
ソウルでは大学生も投資サークルで真剣に議論しています。若者の間では、積極的に投資しなければ車も家も買えないという考えが広がっているそうです。番組によれば、ソウルのマンション平均価格は日本円でおよそ1億9000万円に達しています。
株式市場の活性化を公約に掲げたイ・ジェミョン政権のもと、世界的なAI需要を追い風に半導体株が急上昇し、株価指数KOSPIは史上最高値を次々に更新しました。この流れの中で広がったのが、証券会社から資金を借りて自己資金以上の取引をする信用取引です。番組で紹介されたイスンホさんも信用取引に踏み出し、資産は一時、当初の数倍に膨らみました。
さらに政府は、一つの企業の株価の値動きを2倍にして取引するレバレッジ型ETFを国内で解禁しました。2026年4月のことで、対象となったのはサムスン電子とSKハイニックスです。専門家によれば、背景にはウォン安への懸念と、こうした商品を求めて海外市場へ資金が流れ出ていたことがあったといいます。投資は株高を牽引していた半導体メーカー2社に集中し、新たな金融商品がその値動きをさらに増幅したとみられています。KOSPIは2026年6月に史上最高値を付けたあと急落に転じ、7月の1か月だけで約22%下落しました。10月中旬には、最高値から約4割安い水準まで落ち込んでいます。
イスンホさんは投資で得た資金のほとんどを失いました。それでも「投資しないと取り残される。投資は必須の時代」と語る姿には、焦りの根深さを感じずにはいられません。韓国の専門家は、社会保障の代わりに個人が投資で生活する社会について、韓国は「反面教師」になると警鐘を鳴らしていました。
投資しないと取り残される社会の行方|FIRE・人手不足と「働いて稼ぐ力」
日本もこうした状況の入り口に立っているのでしょうか。島澤さんは、今の日本が韓国と同じ状況にあるとは思わないとしつつ、将来への備えを個人の投資に委ねすぎれば、韓国のようになりかねないと述べました。そもそも日々の生活で精一杯で、投資に回す余裕がない人もいます。島澤さんは、誰もが安心して老後を送れる最低限の年金をすべての人に保障し、制度を頻繁に変えないことが大切だと提言しました。
河田さんは、働くことへの期待が薄れれば、資産を蓄えて早期リタイアする「FIRE」が広がる可能性を指摘しました。20代・30代では3〜4割がFIREしたいと答えているという結果もあるそうです。人口減少で人手不足が深刻になる中、FIREが増えれば、お金をいくら持っていてもサービスが受けられない社会になりかねません。
そのうえで河田さんは、働いて収入を得る力を決して過小評価すべきではないと強調しました。賃上げ交渉では物価上昇率も考慮されるため、労働所得は物価高に合わせて増える余地があります。つまり「働いて稼ぐ力」こそ、誰もが持てる、物価高に強い資産だという見方です。あわせて企業に対しても、働き手を確保するために従業員への分配を見直すことが重要だと述べていました。
この「稼ぐ力は資産」という視点は、投資一辺倒になりがちな今の空気に対する、とても健全な処方箋だと感じました。
まとめ
2026年10月20日放送のクローズアップ現代は、新NISAの広がりの裏にある「投資しないと取り残される」という焦りの正体を、日本と韓国の現場から描きました。
- 手取りの半分以上を投資に回す会社員や、大学進学資金を投資に使った19歳の若者が登場した
- 背景には、実質賃金の停滞、企業の利益配分の変化、年金への不信と「二重の負担」がある
- 韓国では信用取引やレバレッジ型ETFが広がり、急落で資産を失う人も出た
- 専門家は、生活防衛資金の確保、社会保障の見通しの明確化、そして「働いて稼ぐ力」の大切さを訴えた
投資そのものは、無理のない範囲で続ければ心強い味方になります。ただ、焦りから生活や仕事を犠牲にしてしまっては本末転倒です。周りと比べるのではなく、自分の生活と将来設計に合ったペースを見つけることが、何より大切なのだと改めて感じた回でした。
※本記事は番組内容の紹介と考察を目的としており、特定の投資を勧めるものではありません。投資の判断はご自身の状況に合わせて慎重に行ってください。
※ 本記事は、2026年10月20日放送のNHK「クローズアップ現代」を参照しています。



コメント