2025年2月18日放送のNHK「クローズアップ現代」で話題となった「スポットワーク」。スマホ一つで始められるこの新たな働き方は、スキマ時間を有効活用したい方々に注目されています。しかし便利さの裏には課題も。川上敬太郎氏が解説する成功事例とリスク、そして安全な活用法を知ることで、あなたも自分らしい働き方を選択できるようになります。
スポットワークとは？スキマ時間で稼ぐ新たな働き方の全容
スポットワーク（またはスキマバイト）とは、履歴書や面接なしでスマートフォン一つから申し込み、最短15分から働ける新しい働き方です。2025年2月18日放送のNHK「クローズアップ現代」では、この急拡大するスポットワーク市場について特集が組まれました。
現在、スポットワークの登録者数は延べ2,100万人に達し、大手IT企業も次々と参入している成長市場です。従来の働き方では履歴書作成や面接などのプロセスが必要でしたが、スポットワークではスマホ一つで企業と働き手がマッチングします。
「隙あらば働きたい」という方や、「子育ての合間に時間を選んで働きたい」という主婦の方々にとって、自分のライフスタイルに合わせた働き方を実現できるのが大きな魅力です。多様な働き方が求められる現代社会において、デジタル技術の進化がもたらした革新的なワークスタイルといえるでしょう。
クローズアップ現代で紹介されたスポットワークの急拡大の実態
2025年2月18日のNHK「クローズアップ現代」では、キャスターの桑子真帆さんが「スポットワークの登録者数は5年で6倍に増加し、延べ2,100万人を超えている」と紹介しました。
番組では、スポットワーカーの増田さんの一日に密着。増田さんは高齢者施設の介護士という本業を持ちながら、多い時には月に20回以上もスポットワークを活用していました。彼は仕事にスマホから数分で応募し、翌朝には皿洗いの仕事に就いていました。働く前にはQRコードをスマホでかざして出勤を記録し、3時間弱の仕事で約4,000円が即日口座に振り込まれたのです。
「人間関係にこだわらず、自分の空いた時間に働ける」という増田さんの言葉からは、スポットワークが従来の雇用形態にはない自由さを提供していることがわかります。スポットワークは正社員の副業や、主婦・シニア層の社会参加の新たな選択肢として、多くの人の働き方を変えつつあります。
スキマ時間活用の成功事例：温泉旅館の金内靖雄さんの取り組み
新潟県長岡市の温泉旅館では、総務主任の金内靖雄さんがスポットワークを活用して人手不足問題を解決しました。従来、旅館業は季節による繁閑の差が大きく、タイミングよく人材を確保することが困難でした。また、既存スタッフの高齢化による人手不足も深刻な問題となっていました。
金内さんはスポットワークのアプリを導入し、一年間で延べ2,000人以上を採用することに成功。このシステムにより、繁忙期には必要な人数を確保し、閑散期には人件費を抑えるという柔軟な人材運用が可能になりました。
さらに「自社メンバー」と呼ばれる機能を活用し、優秀な人材をつなぎとめる工夫も行っています。企業はスポットワーカーの働きぶりを評価し、再度働いてもらいたい人を「お気に入り登録」。その中から長期雇用に結びついたケースもあるそうです。
「スポットワークを始めてみると、働きたいという人はたくさんいることがわかった」と金内さんは語り、人材確保の新たな可能性を見出しています。
平山徳治さんに見る居酒屋のスポットワーク活用法と職場環境改善
根室食堂の店主・平山徳治さんは、スポットワークアプリに搭載された「評価機能」を活用して職場環境の改善に取り組みました。このアプリでは、働いた人が企業を評価できる仕組みになっており、平山さんの店には「階段の上り下りが厳しい」などの意見が書き込まれていました。
根室食堂の平山徳治さん （引用：「朝日新聞」より）
「こういったレビューを重要視して働く場所を選ぶ人が多い」と考えた平山さんは、客席が四つのフロアにまたがる店舗の仕事内容を見直すことにしました。具体的には、仕事を細かく切り分けて分担し、一人の従業員がなるべく一つのフロアに留まれるよう工夫したのです。
この改善により、店に寄せられる評価は向上。働く人からは「やることがしっかり明確でやりやすい」という声が上がるようになりました。平山さんは「レビューを見て、世の中がこう変わっているんだと気づかされた」と語り、評価システムが経営者の意識改革につながった例として注目されています。
スポットワークの課題：報復レビューと労災補償の問題点
便利な一方で、スポットワークには課題も浮き彫りになっています。「クローズアップ現代」では、スポットワーカーへの調査で約半数が何らかのトラブルを経験していると報告されました。
特に問題となっているのが「報復レビュー」と呼ばれる評価制度の副作用です。一年ほど前からスポットワークを始めた女性は、求人内容と実際の仕事が異なっていても、企業からの評価が悪くなることを恐れて抗議できなかったと証言しています。「企業からの評価が悪くなったら、他の企業も自分の評価を見ているので、応募した時に印象が悪くなってしまう」という懸念から、職場での不満を我慢するケースが増えているのです。
また、労災補償の問題も深刻です。複数のスポットワークで生計を立てていた男性が宅配の仕事中にバイクで転倒し、けがを負った事例が紹介されました。国の制度では、複数の仕事を行う人が怪我をした日に労働契約の期間が重なっていない場合、補償の対象は怪我をした職場一つだけになります。この男性は月に約20万円の収入を失いましたが、補償額は9万円ほどにとどまり、「生活はできない」と訴えています。
スポットワークホットラインに寄せられる相談内容とトラブル事例
2025年1月、労働問題に詳しい弁護士たちが「スポットワークホットライン」という相談会を開催し、多くの声が寄せられました。主な相談内容には、前述の「報復レビュー」問題に加え、アプリの利用停止に関する相談もありました。
ある相談者は、「天候不順で仕事をキャンセルするとワーカー側の責任になってしまい、規定によってペナルティが課された」と訴え、1週間ほどアプリでの仕事申し込みができなくなったと証言しています。また、「ひどい目にあったことを書くと、次から仕事に入れてもらえなくなる」という懸念から、不満を表明できないケースも多いようです。
このような相談事例は、デジタル技術の進化によって生まれた新たな課題といえるでしょう。特に、双方向でリアルタイムに評価し合えるシステムが、かえって働く側の弱い立場を強化してしまうという皮肉な結果を生んでいます。
川上敬太郎氏が警鐘を鳴らすスポットワークの危険性
番組では労働問題の専門家である川上敬太郎氏（しゅふJOB総研研究顧問）が、スポットワークの危険性について警鐘を鳴らしました。
しゅふJOB総研研究顧問の川上敬太郎氏 （引用「毎日新聞」より）
川上氏によれば、スポットワークには報復的な評価や求人トラブルといった新たな課題がある一方で、労災補償や総労働時間の把握といった「ずっとあった課題」も解決されていないといいます。「少しずつ改善を進めていますが、さらに手を入れなければいけない」と指摘しています。
特に懸念されるのは、スポットワークの「便利さ」に慣れすぎることのリスクです。川上氏は「スポットワークに入るとそこから抜け出せなくなることがある」と警告し、本来は長期安定的な雇用を望む人が、常に新しい仕事があるスポットワークに依存してしまう危険性を指摘しています。
「自分がどうなっていきたいのかを客観的に見て、自分の意思でスポットワークを選んで使うことが大事」という川上氏の提言は、新しい働き方の光と影を見極める上で重要なポイントでしょう。
新潟県長岡市の自治体主導型スポットワークで野口仁課長が目指す安全対策
スポットワークの課題を解決する取り組みとして注目されているのが、新潟県長岡市の自治体主導型スポットワークです。長岡市では一昨年からアプリの運営を開始し、主婦や高齢者など7,000人の利用者が登録しています。
この取り組みの特徴は、自治体が責任を持ち、働く人や企業、アプリ事業者に目を配る点にあります。長岡市商工部の野口仁課長によれば、全ての企業に対して面談を実施し、雇用契約など法律のレクチャーを行うことで、適切な労務管理を求めているといいます。
また、闇バイトが疑われる求人や不適切な書き込みをチェックする体制も整備。アプリ事業者のマッチボックステクノロジーズ・功刀聖健マネージャーは「公共性の高い事業なので、テクノロジーを信用しきらないという姿勢も必要」と語っています。
さらに、トラブル対応をアプリ事業者だけに任せず、自治体でも相談を受け付ける体制を整えている点も特徴的です。野口課長は「長岡市が公式をうたうことで、トラブルを防ぐストッパー的な役割ができる」と説明しています。
スポットワークを安全に活用するためのチェックリスト
「クローズアップ現代」では、専門家監修のもとスポットワークを安全に活用するためのチェックリストが紹介されました。その主なポイントは以下の3つです。
- 募集している会社の確認: 基本的な確認として、企業が実在するか、ホームページがあるかどうかを確認することが重要です。手軽に応募できるからこそ、最低限の確認を怠らないようにしましょう。
- 労働条件通知書の確認: 業務内容や賃金などの条件をしっかり確認しておくことで、後から「思っていたのと違う」というトラブルを防げます。手軽に応募できるサービスだからこそ、条件確認は疎かにしないようにしましょう。
- 労災保険の適用確認: 基本的にスポットワークでも雇用形態を結ぶケースが多いため労災は適用されますが、「この求人は適用されません」といった記述がないか確認することが大切です。
また、何かトラブルが発生した場合は、早めに労働局へ相談することも推奨されています。
まとめ：スキマ時間活用の未来と川上敬太郎氏の提言
スポットワークは、人手不足が深刻化する日本社会において新たな可能性を秘めています。2025年現在、人手不足による倒産件数は342件と過去10年で最多を記録しており、スポットワークは企業の人材確保と人々の多様な働き方を支える役割を果たしつつあります。
川上敬太郎氏が指摘するように、スポットワークの広がりは地域経済の活性化につながる可能性があります。「採用できれば事業は活性化し、採用した人の収入が消費に回り、税収も入る」という好循環が期待できるのです。
一方で、スポットワークの便利さに依存しすぎることで、キャリア形成の機会を失うリスクも忘れてはなりません。川上氏は「自分自身がどうなっていきたいのかという観点から、自分の意思で選んで使うことが大事」と強調しています。
スキマ時間を活用した働き方は今後も進化していくでしょう。大切なのは、テクノロジーの恩恵を享受しながらも、自分のキャリアと向き合い、主体的に選択していく姿勢ではないでしょうか。働き方の多様化が進む中、スポットワークは選択肢の一つとして、私たちの生活にますます浸透していくことでしょう。
※本記事は、2025年2月18日放送のNHK「クローズアップ現代」を参照しています。
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