2025年11月1日放送のテレビ東京系「ブレイクスルー」で紹介された相田卓三氏のプラスチック再発明技術が、今、大きな注目を集めています。燃えない、割れても自己修復する、そして環境に優しい―これまでの常識を覆す革新的なプラスチックは、どのように私たちの未来を変えるのでしょうか。本記事では、番組内容を詳しく解説し、この画期的な技術の全貌をお届けします。
相田卓三が開発した3つの革新的プラスチック技術とは
理化学研究所のグループディレクターである相田卓三氏は、”マテリアル界の魔術師”と呼ばれ、ノーベル賞候補とも評される研究者です。今回の放送では、100年以上続く石油由来プラスチックの歴史を塗り替える3つの革新技術が紹介されました。
1つ目は「塩で溶けるプラスチック」です。前回放送の続編として取り上げられたこの技術は、海水や土壌中のわずかな塩分で完全に分解されます。原料は石油由来ではなく、アメリカ当局が安全性を認める2つの物質のみで構成されており、マイクロプラスチック問題の解決策として期待されています。
2つ目は「自己修復プラスチック」です。真っ二つに割れたプラスチックが、断面を合わせて約20秒待つだけで元通りにくっつきます。しかも修復剤などは一切不要で、素材自体が持つ特性によって自己修復するのです。
3つ目は「燃えないプラスチック」です。800度の炎で炙っても燃えず、炭化するだけで炎が出ません。火災時の延焼を食い止める効果が期待でき、建材分野での活用が見込まれています。
これら3つの技術は、それぞれが独立した革新でありながら、「環境負荷がない」という共通点を持っています。相田氏が目指すのは、単なる新素材の開発ではなく、プラスチック社会そのものの「再発明」なのです。
自己修復プラスチック|割れても20秒で元通りになる仕組み
番組内で最も驚きの声が上がったのが、この自己修復プラスチックでした。真っ二つに割れたプラスチック片の断面を合わせて20秒ほど待つと、なんと完全にくっついてしまうのです。その強度は、2リットルのペットボトルを持ち上げられるほどです。
この驚異的な性質の秘密は、相田氏が独自に開発した「ポリエーテルチオ尿素」という素材にあります。通常のプラスチックは割れると分子同士の結合が切れて元に戻りませんが、この素材は分子同士が互いに引き合う特性を持っているため、再び結合できるのです。
相田氏は「材料は老化するので捨てなきゃいけなくなる。でも自分で壊れたところを直していく性能があれば、いつまでも使い続けることができる。それはプラスチックゴミの削減につながる」と説明しています。
この技術の応用範囲は広大です。老朽化が問題となる社会インフラのパイプ、住宅の雨どいや排水管、さらには自動車のコーティングにも活用が見込まれています。特に自動車では、常に振動が来る部分に見えない亀裂が生じて突然壊れることがありますが、自己修復プラスチックなら傷が自然に治っていくため、修理の必要性が大幅に減るのです。
従来の「使い捨て」から「長く使い続ける」へ―この発想の転換こそが、持続可能な社会を実現する鍵となるでしょう。
燃えないプラスチックが建材を変える|800度の炎にも耐える素材
火で炙っても燃えないプラスチック―これもまた、常識を覆す発明です。通常のプラスチックは火をつけると瞬時に燃え広がり、火災時には炎を拡大させる要因となってきました。しかし相田氏が開発した燃えないプラスチックは、800度の炎で炙っても焦げて炭化するだけで、炎が出ないのです。
この特性は、石油由来ではない原料に「燃えない部品」が含まれているためです。番組内で実際に炎で炙る実験が行われましたが、白く変色するものの、プラスチック自体から炎が出ることはありませんでした。
相田氏は「火災が起こった時、プラスチックは火災をどんどん拡張する方向になる。でもこれは火が来ても炎が出ない形で鎮火につながる」と述べています。つまり、燃えないだけでなく、延焼を食い止める「防火壁」としての役割も期待できるのです。
作家の相場英雄氏が「建材とかすごくいい素材になりますね」と指摘したように、この技術の最大の応用先は建築分野です。火災時に化学物質が燃えて発生する有毒ガスによる被害も防げるため、人命を守る観点からも重要な意義を持ちます。
プラスチックが「燃える素材」から「防火素材」へと変わる―これは建築業界における大きなパラダイムシフトとなるでしょう。
塩で溶けるプラスチックは土壌でも分解|環境に負荷なしの新素材
前回放送から引き続き紹介されたのが、塩で溶けるプラスチックです。海水に入れると数時間で完全に分解され、マイクロプラスチックのような微粒子にもならず、跡形もなくなってしまいます。
今回特に注目されたのは、海水だけでなく土壌でも分解されるという点です。実験映像では、ガーデニング用の土に埋めるだけで生物学的に分解されることが確認されました。土壌に含まれるわずかな塩分でも溶けてゆくのです。
相田氏は「廃プラスチックの最終的な使い方として、土に埋めたらそれが土に帰る。肥料になる成分もあるので、不用土を作るのと同じような感じ」と説明しています。これまで「ネガティブなゴミ」だったプラスチックが、「土に帰る循環型の素材」へと変わるのです。
さらに驚くべきは、この素材の多様性です。塩で溶けるのに、高い弾力性や従来品を上回る硬さを持たせることができ、アルミ合金に匹敵する引っ張り強度まで実現しています。「環境に優しい」と「高性能」が両立しているのです。
相田氏が最も期待しているのは、パッケージ分野での活用です。「一番公害を引き起こしているのがパッケージ。企業はステークホルダーから早くそういうのをやめましょうと言われている。これが次の社会実装に向けた大事な部分になる」と語っています。
プラスチック再発明の社会実装|パッケージから建材・自動車まで
相田氏がこれらの技術開発で目指しているのは、スティーブ・ジョブズが初代iPhoneで実現した「re-invent(再発明)」です。ジョブズは電話機の概念を打ち壊し、人々の生活を一変させました。相田氏も同様に、100年続くプラスチックの概念を根本から変えようとしているのです。
「全くゼロのものではなく、基本的には別のものがあって、それに私たちは依存してきた。それを全く違うアプローチで違う素材で似たものを作ってきた。その意味でre-inventだと思った」と相田氏は語ります。
現在、最も引き合いが多いのはパッケージ分野です。食品包装や商品パッケージは使い捨てが前提で、環境問題の大きな要因となっています。塩で溶けるプラスチックに置き換われば、この問題は大きく改善されるでしょう。
建材分野では、燃えないプラスチックが防火性能を持つ新しい建築資材として期待されています。自己修復プラスチックは、インフラ設備の長寿命化に貢献します。水道管や排水管に使えば、メンテナンスコストの削減にもつながります。
自動車業界では、コーティング材としての活用が見込まれています。傷が自然に治るため、車の美観を長期間保つことができます。また、振動による見えない亀裂が自己修復されることで、安全性の向上も期待できます。
相田氏は「100年作ってきたメーカーさんたちがいて、新しい研究で製品が出てくる。それを乗り越える覚悟は必要だが、ポジティブなボイスがいっぱいあるので、それを力にしていきたい」と述べています。そして「消費者も『こういうもの使おうよ』と声を上げていくことが大事」と、私たち一人ひとりの意識改革の必要性も訴えています。
相田卓三の研究哲学|世界中から研究者が集まる理由
相田氏の研究室には、世界中から研究者が集まっています。理化学研究所にある相田氏の研究室では、外国人の留学生や研究生が8割にも上ります。ロッカーに貼られた名札を見ると、外国人の名前ばかりが並んでいます。
なぜこれほど多くの優秀な研究者が相田氏のもとに集まるのでしょうか。その理由は、相田氏独特の研究哲学にあります。
相田氏の研究室は「ノック不要」です。「いつでも入ってこい」というスタンスで、学生たちとの距離を縮めています。相田氏は「大きな仕事ほど、最初の予定と違う形で見つかっている。1+2が3になる研究ではなく、1+2が10になる研究は、最初デザインできない」と語ります。
学生が余計なことをやっているうちに、予想外の発見が生まれる―そんな瞬間を逃さないために、いつでもドアを開けているのです。実際、今世界に知られている相田氏の業績のほとんどは、そうした偶然から生まれたものだといいます。
「研究をやっていることで一番楽しいのは、国境を越えて、言語の壁を越えて、文化の壁を越えること」と相田氏は言います。パッション(情熱)があるかどうか―それが研究者として最も大切な資質だと考えているのです。
相田氏が研究者を志したきっかけは、大学院時代の深夜3時の実験でした。2年間うまくいかず自信を失っていた時、期待通りの結果が出て体が震えるほど感動した経験が、人生を変えました。今、相田氏はその感動を学生たちと「シェア」することに喜びを見出しています。
相田氏は大学の正規教員の年限を終え、特別なポジションであと10年間研究を続けられることになりました。「残りの時間で、今まで本当にやれてなかった社会貢献が何かできるだろうか」という思いが、今回のプラスチック開発プロジェクトの原動力となっているのです。
まとめ
相田卓三氏が開発した3つの革新的プラスチック技術―自己修復、燃えない、塩で溶ける―は、それぞれが単独でも画期的ですが、「環境に負荷がない」という共通の理念で貫かれています。
これらの技術が社会実装されれば、プラスチックゴミ問題の解決、火災被害の軽減、インフラの長寿命化など、私たちの生活が大きく変わる可能性があります。パッケージ、建材、自動車、インフラと、応用範囲は極めて広範です。
相田氏が目指す「プラスチックの再発明」は、まさにスティーブ・ジョブズがiPhoneで実現したような、社会の常識を覆すブレイクスルーとなるでしょう。そして、その実現には私たち消費者の意識改革と支持が不可欠です。
「答えがないことに挑戦すること」―これが相田氏の考えるブレイクスルーの本質です。世界中から集まった情熱ある研究者たちとともに、相田氏は今日も未来のプラスチック社会を創造し続けています。
※ 本記事は、2025年11月1日放送(テレビ東京系)の人気番組「ブレイクスルー」を参照しています。
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