2025年3月27日放送のテレビ東京系「カンブリア宮殿」では、空調設備工事業界のナンバーワン企業「高砂熱学工業」が特集されました。番組では小島和人社長が登場し、創業100年を超える老舗企業の知られざる技術力や経営哲学が紹介されています。今回は、その内容を深掘りしながら、高砂熱学工業の魅力に迫っていきましょう。
高砂熱学工業とは?空調設備工事のナンバーワン企業の実力
高砂熱学工業は、空調設備工事で国内ナンバーワンの実績を誇る企業です。売上高は3,600億円を超え、業界では圧倒的なシェアを持っています。同社の主な仕事は、オフィスビルや商業施設の「天井裏」に水を通す配管と空気を通すダクトを設計・施工し、快適な空気環境を提供することです。
小島和人社長は「建物の主治医」という表現で自社の役割を説明しています。単に温度や湿度を調整するだけでなく、清浄度や気流なども含めた総合的な空気環境をコントロールすることが、高砂熱学工業の仕事なのです。
近年新たに建設された施設である国立競技場、麻布台ヒルズ、東急歌舞伎町タワーなど、名だたる建造物の空調を手掛けています。特に麻布台ヒルズは高さ330mの日本一高いビルであり、地下5階には巨大な冷凍機やボイラーが設置され、館内全体の空調を司っています。また、館内に入っている150もの店舗それぞれに対応した空調設計も手掛けており、その技術力の高さがうかがえます。
カンブリア宮殿で紹介された高砂熱学工業の知られざる仕事①「シャーベットアイス技術」
高砂熱学工業は本業の空調設備工事だけでなく、その技術を応用した「知られざる仕事」も手掛けています。番組では、東京の居酒屋で提供される鮮度抜群の沖縄の魚に秘密があると紹介されました。
その秘密とは、高砂熱学工業が開発した「シャーベットアイス」です。この特殊な氷は、海水を混ぜた水を冷やし特殊な超音波を当てて製造されます。マイナス1℃に維持されたシャーベット状の氷は、魚が凍ることなく芯まで均一に冷やすことができるのです。
従来のブロック氷では部分的にしか冷えなかったのに対し、シャーベットアイスは魚全体を均等に冷やせることがサーモグラフィーの映像で示されていました。この技術により、沖縄で獲れた魚が東京はもちろん、さらに遠い東南アジアにも新鮮な状態で運べるようになったのです。
国頭漁業協同組合の村田佳久組合長によれば、この技術の導入により、以前は値段がつかなかった魚も売れるようになり、魚の単価が5倍、6倍に上昇したケースもあるとのこと。収入が倍近くになった漁師もいるそうです。空調技術が水産業の流通革命を起こしつつあるという好例です。
カンブリア宮殿で紹介された高砂熱学工業の知られざる仕事②「最先端空調システム」
高砂熱学工業のもうひとつの「知られざる仕事」として、半導体工場向けの最先端空調システムが紹介されました。
現在、北海道千歳では次世代半導体の量産を目指すラピダスの工場(ラピダスⅡM-1)が建設中です。経済効果18兆円とも言われるビッグプロジェクトですが、ナノレベルの回路を作る半導体工場では、ちりやほこりは厳禁です。そこで採用されたのが、高砂熱学工業の独自技術でした。
この技術は、従来の天井から風を吹く空調方式と異なり、横から空気を流し天井で吸い込むシステムになっています。実験映像では、従来の方式ではチリやほこりが人の作業する高さで舞ってしまうのに対し、高砂の技術では作業高さには降りてこないことが明確に示されていました。
しかも、この方式は効率が良く、消費電力を従来より4割もカットできるという環境にも優しい技術です。この効率性によって、ラピダスや三菱電機など50以上の工場で採用を勝ち取っており、会社の株価も過去2年で2倍に跳ね上がるなど好調が続いています。
小島和人社長が語る100年企業の経営哲学「ワクワクする研究開発」
高砂熱学工業の小島和人社長は、創業以来のDNAである「世にないものを作る」という企業文化を大切にしています。番組では、小島社長が自社の経営哲学について語る場面がありました。
特筆すべきは、同社の研究開発に対する姿勢です。小島社長は「社員がワクワクするだけでなく、会社としてもワクワクする」研究開発を重視し、長期的な視点で投資を続けています。
例えば、カーボンニュートラル事業開発部の加藤敦史氏は、約20年間ほぼ一人で水電解装置の研究を続けてきました。小島社長は「本人がもうダメだと言うまでは」研究を続けさせる自由な社風を大切にし、「これがなくなってただの請負の建設業になってしまうとそれは高砂熱学じゃない」と語っています。
さらに、小島社長が2020年に就任した時は研究開発スタッフが50名強だったものを、毎年10〜20人ずつ増やし、2026年には100人弱にまで拡大する計画だと明かしました。研究の成功率は「100に1つ」から近年は「50に1〜2つ」に向上しているとのことですが、短期的な利益よりも「未来の世の中を良くしようとする研究」を重視する姿勢が伝わってきます。
また、小島社長は建設業界では異例の「売上高目標を外す」という方針を打ち出しました。「目指すことは売上高ではなくお客さんの企業価値向上が1番」「社員が幸せになる仕事をやりたい」「利益はその後についてくる」という経営哲学は、100年企業ならではの長期的視点に基づいているといえるでしょう。
高砂熱学工業が手掛けた有名施設と空調技術の秘密
高砂熱学工業が手掛けた有名施設の一つとして、東京ドームが紹介されました。東京ドームといえば野球をはじめとする様々なイベントが開催される場所ですが、実は完成した当初は屋根がペシャンコ状態だったのです。
高砂熱学工業は巨大な送風ファンで空気を作り出し、観客席最上段のさらに上から送り出すことで屋根を膨らませています。また、空気が逃げないよう出入り口は回転ドアにし、ドーム内の気圧を0.3%高く保っているのです。このような工夫があってこそ、あの巨大なドーム形状が維持されているのです。
他にも、麻布台ヒルズカフェのような開放的な店舗では、厨房の匂いが客席に回らないよう空気の流れを精密に計算。客席から厨房方向に空気が流れるよう設計し、厨房の上にある換気システムでカフェ全体の空気を吸い込むことで快適な環境を実現しています。
こうした細部への配慮は膨大な設計図となり、麻布台ヒルズの場合はその量が段ボール30箱に及んだとのこと。普段私たちが気にも留めない快適な空間の裏には、高砂熱学工業による緻密な設計と技術が隠されているのです。
未来を見据えた技術開発「水電解装置」とアイスペースとの宇宙プロジェクト
2025年1月、月に打ち上げられたロケットには、高砂熱学工業が開発した「水電解装置」が搭載されていました。これは宇宙ベンチャー「ispace(アイスペース)」の月面着陸船に積まれたもので、水に電気を流すことで水素と酸素を取り出す装置です。
月には水があると言われており、この装置が月で動けばエネルギーとなる水素と人が生きるための酸素を取り出すことができます。アイスペースのCEO袴田武史氏も「月にこれから水があれば、水電解の技術が本当に重要になってくる」と期待を寄せていました。
この水電解装置を開発したのが、20年間ほぼ一人で研究を続けてきた加藤敦史氏です。彼の研究によって、二酸化炭素を排出せずに水素を製造することが可能になりました。この技術は地球上でも活用され、大手飲料メーカーのキリンが採用し、2026年にはビールの製造過程で水素を使い始める予定だとのことです。
また、技術研究所では二酸化炭素を吸収する錠剤のような物質の研究も進められています。これらの「ムーンショット型研究」は、小島社長が「素晴らしい未来に向かって中長期的な研究は投資のためもある」として予算をつけたものです。目先の利益よりも未来を見据えた研究開発に力を入れる姿勢がうかがえます。
建設業界の課題に挑む高砂熱学工業の新しい取り組み
建設業界の深刻な課題である人手不足に対して、高砂熱学工業は「T-Base」という工場を作りました。この工場の特徴は、これまで建設業界には縁遠かった女性や高齢者など多様な人材を積極的に採用していることです。
工場では、空調設備の一部分を組み立てています。従来は建設現場で1から組み立てていたものを、工場で組み立ててから現場に運ぶことで、現場での作業時間を1/10に短縮することに成功しました。
さらに、鉄でできていた部品の大部分を1/3の重さのアルミに変えるなど、女性や高齢者も働きやすいよう工夫しています。コストはかかりましたが、働きやすさを優先した結果、多様な人材が活躍できる環境が整いました。
また、工場内にはカフェのような広々とした休憩スペースも設けられており、従業員からは「天国です」との声も。現場の作業員も「普通の現場の詰め所だと狭いところにギュウギュウに詰まっているので、この広さは天国」と評価しています。
小島社長はこの取り組みについて「この工場も面白い」と評価し、仙台、厚木、姫路に加え、今後は北陸にも工場を作る計画だと語りました。人手不足対策と生産性向上を同時に実現する、高砂熱学工業らしい革新的な取り組みといえるでしょう。
まとめ:高砂熱学工業 小島和人社長が描く空調技術の未来
カンブリア宮殿で紹介された高砂熱学工業は、空調設備工事のナンバーワン企業でありながら、常に新しい技術開発に挑戦し続ける革新的な企業であることがわかりました。
初代社長の柳町政之助氏が掲げた「世の中にないものを作る」というパイオニア精神は、8代目となる小島和人社長にも脈々と受け継がれています。シャーベットアイス技術や水電解装置、半導体工場向けの最先端空調システムなど、空調技術を応用した様々な分野で革新を起こしている姿は、まさに「見えない空気を影で操る業界トップの黒子企業」という表現がぴったりです。
特に印象的なのは、小島社長が語った「社員が幸せになる仕事をやりたい」「お客さんが幸せになる仕事をやりたい」「利益はその後についてくる」という経営哲学です。この理念のもと、高砂熱学工業は売上高3,600億円超の企業へと成長しました。
また、建設業界の常識を破る「売上高目標を外す」という決断や、20年以上前から取り組んできた水素研究の成果が実を結ぶなど、長期的視点に立った経営が今、花開いています。
村上龍氏が番組の最後で「約100年空調に命を得てきた自信だ」と語ったように、高砂熱学工業は単なる建設業ではなく、空気環境という目に見えない価値を提供し続けることで、100年企業としての地位を確立しました。そして今後も、小島和人社長のもと「ワクワクする」技術開発を続けていくことで、さらに新しい価値を社会に提供し続けることでしょう。
※ 本記事は、2025年3月27日放送のテレビ東京系人気番組「カンブリア宮殿」を参照しています。
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