外国人への不安が日本全国で広がっています。2025年11月11日放送のNHK「クローズアップ現代」では、SNSで拡散される誤情報が自治体を混乱させ、外国人との共生を脅かす実態が明らかになりました。この記事では番組内容を詳しく解説し、なぜ不安が拡大しているのか、そして真の共生に向けて何が必要なのかをお伝えします。
クローズアップ現代が報じた外国人不安の実態とは
2025年11月11日に放送されたNHK「クローズアップ現代」は、日本全国で広がる外国人への不安と、その背後にある誤情報の問題を取り上げました。
番組によると、9月のJICAホームタウン事業の撤回以降、全国の自治体などへの抗議や問い合わせはNHK調べでおよそ60に及んでいます。中には事実と異なる情報にもかかわらず、政策が中止や延期になるケースも出てきているのです。
特に深刻なのは、これまで外国人との共生を模索してきた地域で歯車が狂い始めていることです。番組では「特に不満はなかったが、SNSなどで不安を感じるようになった」と語る住民の声も紹介されました。一方で、外国人労働者の存在抜きには事業が成り立たないと語る企業経営者の姿も映し出されています。
出演した成蹊大学の伊藤昌亮教授は、メディア研究と社会学の専門家として、この問題の構造を分析。キャスターの桑子真帆さんとともに、増え続ける外国人と私たちはどう向き合っていくべきなのかを考察しました。
江別市パキスタン人への誤情報とSNS拡散の実態
番組が最も詳しく取り上げたのが、北海道江別市で起きている問題です。人口およそ12万人の江別市には、市の調査によると224人のパキスタン人が暮らしています。
しかし、9月末から「パキスタン人が江別市を占拠」「パキスタン人地区ついに誕生」「土地を奪われる」といった真偽や根拠が不確かなYouTube動画やSNS投稿が相次ぎました。その結果、市には11月6日時点で450件以上の抗議や問い合わせが殺到しています。
取材班が現地を訪れると、近隣住民の女性は「挨拶をしていただいて、とても気さくな感じ。すごい悪い人っていうのは一切なかった」と証言。「パキスタン人地区なんてことは一切ない。騒がれていることがもう迷惑に感じています」と語りました。
ただし、全くのデマというわけではありません。市内では市街化調整区域にパキスタン人の工場を含む76の建物が違法な状態で建てられていたという事実がありました。工場経営者の1人は、北海道から営業許可は取得したものの、江別市の建築規制のルールを理解していなかったと明かしています。
伊藤昌亮教授は「全くのデマというわけではなく、違法建築というファクトはあった。しかしそれがどんどん壮大なストーリーになっていき、イスラム教徒に日本人が侵略されるというような、ものすごく拡大解釈される」と指摘。ファクトに基づくフェイクが拡大していく典型例だと分析しました。
さらに深刻なのは実害です。ある工場の防犯カメラには、夜9時過ぎに4人の人物が車から現れ、工場内に一斉に花火のようなものを約40発打ち込む様子が映っていました。経営者は「ガソリンの車がいっぱいある。もう一回ファイヤーすると、全部会社がなくなる」と恐怖を語り、「日本をやめて帰るか、違う国に行くか。毎日頭が痛い」と苦悩を吐露しています。こうした嫌がらせは10月以降、分かっているだけでも4回発生しており、映像から不特定多数の人物が関与していることが判明しました。
JICAホームタウン事業撤回と外国人不安の連鎖
今回の外国人不安の拡大は、9月末に撤回されたJICAホームタウン事業がきっかけでした(JICA|外務省)。SNSなどを通じて「移民を定住させる制度だ」といった誤情報が広がり、抗議や問い合わせが相次いだのです。
この騒動以降、同様の問題が全国に波及しています。札幌市では廃校を利用したインターナショナルスクールの開校を巡り、「移民促進政策だ」との投稿が拡散され、売買契約が延期となりました。このスクールはすでに全国6箇所に展開しており、生徒の半分以上は日本人で「移民促進の意図はない」としています。
東京御徒町では、建設途中のモスクを巡って「ムスリムに日本を侵略される」などの投稿が相次ぎました。このモスクは20年続いている施設で、インバウンド増加によりモスク利用者が増えたため、来年3月により大きな施設に移転する計画でした。代表のモハメッド・ナズィールさんの元には無言電話や「日本から出ていけ」といった脅迫まがいのメールが届いています。ナズィールさんは「今まではなかったことだからすごく悲しくなりました。間違って言ってることをちゃんと説明して理解してほしい」と訴えました。
伊藤昌亮教授が解説する不安拡大のメカニズム
番組では、X(旧Twitter)上での「外国人」というキーワードの投稿数の推移が示されました。2025年7月の参議院選挙で大きく伸び、その後のJICAホームタウン事業を巡っても再燃しています。
伊藤昌亮教授は「JICAのホームタウン騒動では1ヶ月で400万件の投稿がありました。これは今までの動きから比べるともう桁違いで、量的に新しいフェーズに入った」と指摘します。
さらに重要なのは質的な変化です。「元々は騒音やゴミ出しといった具体的な不満から出発している。これが『税金が外国人に使われる』という一般的な不満に転換され、参入してくる人が増える。そして不満が不安に変わっていく」と教授は説明します。
特に「犯罪が増える」という治安に関わる不安、さらには「土地が乗っ取られる」「自然が壊される」といった壮大なストーリーへとエスカレートし、漠然とした大きな不安が際限なく加速されていくのです。
番組が分析したところ、JICAホームタウン事業を巡って投稿が拡散された上位10のアカウントは、全て批判的な投稿を繰り返すものでした。これらのアカウントが発信した727の投稿が引用拡散され、160万の投稿に膨れ上がっています。さらに批判的な投稿と誤情報を正す投稿の数が40対1という圧倒的な差がついていることも明らかになりました。
東京大学の鳥海不二夫教授は「センセーショナルな情報は一言で分かりやすく説明してくれるので伝えやすい。単純化されたナラティブ(物語)を駆使した情報の拡散の仕方が今非常に多くなっている。海外の方に対して批判的な発言をすることを否定されないような環境が今ネット上では整いつつある」と指摘しました。
伊藤教授は、この2、3年の急速な円安とインフレも影響していると分析します。「市民の暮らしが圧迫されている一方で、円安を背景に外国人観光客や外国人投資家がどんどん日本に来るようになり、豪遊している姿を見て、自分たちの生活が苦しい人たちが憤満の気持ちを抱く。そういった気持ちが身近な外国人に投映されている」と述べました。
外国人労働者なしでは成り立たない日本の現実
こうした不安が広がる一方で、日本社会は外国人労働者なしには成り立たない現実があります。日本に暮らす外国人の数は過去最高を更新し続けており、2035年の推計では日本人のみの場合、労働力の不足が761万人になるというデータもあります。
高市総理大臣も「人口減少に伴う人手不足の状況で外国人材を必要とする分野があるのは事実」と認め、来年1月を目処に排外主義とは一線を画しつつも、外国人に関する既存のルールや制度の適正化について基本的な考えをまとめるとしています。
番組では全国で100店舗を展開する飲食チェーン「てんぐ大ホール」(テンアライド株式会社)を取材しました。この店舗では店長を含むスタッフの3分の2が外国人で、日本人スタッフがいない時間帯が多くあります。
ベトナムから来日して9年目の主任ニュンさんは「お客さんが優しくて、いつも楽しい話をしてくれました。しかし最近だけですね。『あなた外国人でしょ?』とか、何も悪くしないけど『何で日本人じゃないの?』という言葉が多くなった。日本で長く働いて住みたいと思いますけど、このままだと嫌われちゃうかな」と不安を語ります。
同社では対策も始めています。本部の役員も参加する研修で、客の発言が店の改善につながる意見なのか、会社として対策を取るべき差別なのか、外国人の店長らが自ら判断できる基準を検討しています。専務取締役の吉澤聡さんは「暴力を振るったり土下座を要求するのはカスハラにあたる。お店側で起こったことについては当然謝りますが、行きすぎた言動に対しては毅然とした対応していいと会社で認めてあげないと。10年20年先を見た時に、さらに海外の方の力を借りながら成長していくのは必要なこと」と語りました。
外国人との共生に向けた地域と企業の取り組み
外国人自らが摩擦が起きる前に課題を洗い出し、対処しようという動きもあります。
富山県射水市にはおよそ500人のパキスタン人が暮らしています。地域のモスクの代表カーン・ナディームさんは、37年前に留学のために来日し、日本人女性との結婚を機にこの地に移り住んできました。
6年前、増え続ける外国人に対応しようとモスクの新設を計画したカーンさんですが、住民1人1人の理解を得るのは容易ではありませんでした。最終的には礼拝の音を外に漏らさないことなどを条件に建設にこぎつけています。「何回も何回ミーティングした。モスクの形をこうじゃなくてこうしてくださいとか。何ヶ月もかかった、全部オッケーもらうだけで」とカーンさんは振り返ります。
現在カーンさんが危惧しているのは、モスク周辺で集団礼拝の日に車が集中し、事故や住民とのトラブルにつながりかねないことです。この日、警察の担当者を招いて交通安全の講習会を開きました。パキスタンとは交通事情が異なるため、事故になりやすいケースについて細かく説明してもらったのです。
「外国から来る人はもう子供みたいにルール教えてないといけない。日本人の場合は当たり前だけど、外国人の場合は分からない。日本のシステムと外国のシステムはみんな同じじゃないから。ちっちゃいちっちゃいことだけど、まずそれ考えないといけない。お互い会って話してルール決めて、それでやりましょう」とカーンさんは語ります。
静岡県磐田市の平野ビニール工業株式会社は、30年以上前から外国人社員を受け入れ、今では社員の6割およそ90人を占めるまでになった縫製メーカーです。国籍を問わず実績を上げれば役職につけるなど、従業員が力を発揮できる環境作りに力を入れてきました。
日本人従業員は「手先とかすごい器用で教えてもらうこといっぱいあって、本当に自分が今までできなかったこととかすごい吸収させてもらってる」と語ります。社長の平野利直さんは「外国人全部だめって言ったらもう僕らの生活が成り立たないっていうのが本当に現実なので、一括り外国人じゃないんだっていうところは、みんなで理解してもらうのが大事かなと思う」と強調しました。
まとめ
伊藤昌亮教授は、一括りに「外国人=不安」と捉えないことの重要性を強調します。「外国人問題と言われているものは実際にはいろんな問題の寄せ集め。本当に外国人だけの問題なのか、日本人も対象として考えるべき問題なのか、規制すべき分野なのか、共生を考えるべき分野なのか、そこを腑分けしていく必要がある」と指摘します。
例えば土地利用や不動産保有は外国人だけの問題ではなく、日本人も含めて規制を考えるべきところがあります。ゴミや騒音は実際の共生のための具体的な仕組みに関わるもので、雇用の問題は日本人と外国人が共同していくための仕組みを考える必要があります。
教授はまた、この問題がメディアや情報との向き合い方の問題でもあると述べます。「SNSの中で都合のいいストーリーがどんどん膨らんでいってしまう。当事者ではない人も、この情報との接し方を含めて考えていく。それを通じて情報を通じて日本人と外国人がお互いをよりよく知っていく、そういったことが必要」と語りました。
桑子キャスターは番組の最後に「外国人を巡って議論を避けたまま現状維持というのは、もう難しい状況に思えます。どうすれば一部で過剰に膨らんだ不安を抑えながら建設的な議論ができるのか。これからも取材をしていきます」と締めくくりました。
※ 本記事は、2025年11月11日放送のNHK「クローズアップ現代」を参照しています。





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