「毎日しっかり食べているから大丈夫」と思っていませんか?実は今、健康に気をつけている人にも隠れ栄養不足が広がり、深刻な病気のリスクにつながるケースが増えています。2026年2月24日放送のNHK「クローズアップ現代」では、全世代にわたる栄養不足の実態と、その予防法が詳しく紹介されました。この記事では、番組で語られた専門家のアドバイスや最新の知見をもとに、日常の食事で栄養不足を防ぐコツをわかりやすくお伝えします。
隠れ栄養不足とは?食べているのに栄養が足りない人が増えている実態
「隠れ栄養不足」とは、一見しっかり食事を取っているように見えても、特定の栄養素が不足している状態のことです。国の食事摂取基準では、実に30種類以上の栄養素について、その欠乏が国民の健康に影響を及ぼしているとされています。
番組で紹介された渡辺美奈子さん(58歳)のケースは、まさに典型的でした。渡辺さんはエステの仕事をされていますが、何年もの間、疲れやすさや不眠に悩んでいました。本人は「年のせい」だと諦めていたそうです。ところが、栄養管理アプリで食事内容を入力してみたところ、ほとんどの栄養素が基準値に足りていなかったのです。
渡辺さんは太らないように食事量を抑えていた結果、好きなフランスパンやガーリックパンなどに食事が偏り、必要な栄養素が大幅に不足していました。「栄養が偏ってるなんて思ってなかった。だって動けてたし」という言葉が印象的です。
沖縄科学技術大学院大学の客員研究員で、ベラルーシ出身の医師オリガ・エリセーバさんも同様の指摘をしています。オンラインで1,000人以上の婦人科の健康相談に乗ってきたエリセーバさんによると、体調不良を訴える人の多くが「しっかりご飯を食べています」と答えるものの、実際に内容を聞くと栄養不足の状態にあるそうです。
特に目立つのが、麺類やパンばかりの食事をしている人たちです。野菜や肉が足りず、炭水化物をエネルギーに変えるために必要なビタミンB1やマグネシウムが不足し、疲労が回復できない。鉄分不足から貧血にもなりがちだといいます。また、「野菜を食べていれば健康」と考え、タンパク質が足りていない人も多いとのこと。
個人的に思うのは、「しっかり食べている」と「しっかり栄養が取れている」は、まったく別のことだということです。量ではなく中身が大事――そんな当たり前のことを、私たちはつい忘れてしまいがちではないでしょうか。
「〇〇抜きダイエット」と加工食品が招く微量栄養素の不足
番組に出演した、国の食事摂取基準の策定に関わった佐々木敏さん(東京大学名誉教授・医師/栄養学)は、栄養不足に陥りやすい食べ方として「〇〇抜きダイエット」と「加工食品への過度な依存」の2つを挙げました。
まず「〇〇抜きダイエット」について。たとえば「炭水化物抜きダイエット」を実践しているつもりでも、実際にはお米やパンを抜いているだけのケースがほとんどです。佐々木教授が指摘するのは、お米やパンに含まれるのは炭水化物だけではないということ。ミネラルやビタミンといった微量栄養素、場合によってはタンパク質や良質な脂質まで一緒に抜いてしまっているのです。
炭水化物を減らすこと自体が悪いわけではありませんが、「何を抜いたか」ではなく「何が減ったか」を正しく把握しないと、思わぬ栄養不足に陥るリスクがあるわけですね。
次に「加工食品」について。佐々木教授によると、加工食品は便利で使うこと自体に問題はありませんが、製造過程で多くの栄養素が失われてしまうことがあります。代表的なのは食物繊維で、それ以外にもミネラル類やビタミン類もある程度抜かれてしまうとのこと。
忙しい現代の生活で加工食品を完全に避けるのは現実的ではありませんが、「頼りすぎ」には注意が必要です。栄養素がそぎ落とされた食品だけで食事を構成してしまうと、カロリーは足りていても肝心の微量栄養素が不足する――これがまさに「隠れ栄養不足」のメカニズムです。
サルコペニアと「負のドミノ」―高齢者に迫る病気のリスク
高齢になって栄養不足が続くと、より深刻な病気のリスクが待っています。その代表がサルコペニアです。
サルコペニアとは、栄養不足や運動不足などが原因で筋力が低下する病気のことです。特に体に取り入れるタンパク質が不足すると、体は筋肉に貯蔵されたものをエネルギーとして使おうとします。その結果、筋肉がどんどん減少し、運動不足や加齢の影響も加わって、体に様々な機能障害をもたらします。
番組では、4年前から低栄養専門の外来を行っている熊本リハビリテーション病院の事例が紹介されました。84歳の女性は、年齢とともに肉や魚を食べる量が減り、低栄養に陥っていました。その結果、握力はわずか7キロ。筋力低下が疑われる基準の18キロを大幅に下回り、さらに足の筋肉も衰え、介助なしでは歩けなくなってしまったのです。
また、75歳の男性は腰の骨を圧迫骨折し、入院は4度目。人参を10キロほど持っただけで骨折してしまい、「なんでこのくらいで」と驚いたそうです。骨密度は同年代の7割以下にまで低下していました。筋肉が減ると運動量も減り、骨への刺激が減ることで骨粗鬆症に繋がるという悪循環です。
同病院サルコペニア・低栄養研究センター長の吉村芳弘さんは、こう警鐘を鳴らします。「若い頃から”貯筋”、つまり筋肉を貯めておかないと、将来のサルコペニアのリスクが高くなる。転倒骨折がどんどん繰り返される。これは負のドミノと言われる、非常に危険な状態です」。
研究データを見ても、80歳以上では男性の約3割、女性の約半数がサルコペニアに該当するとされています。さらに番組では、東京大学の調査で高齢男性の4割、高齢女性の2割がタンパク質の目標量を下回っていたことも紹介されました。必要なエネルギー量は加齢とともに減りますが、必要なタンパク質の量はほとんど変わらない――ここにギャップが生まれるわけです。
佐々木敏教授は「年をとったから食べなくていいのではなく、エネルギーに対してタンパク質はやや多めに。少しだけ多めという意識を持つことがポイント」とアドバイスしていました。
肥満学会が警鐘を鳴らすFUS(ファス)とは?痩せ型でも要注意
高齢者だけの問題ではありません。2025年4月、これまで太りすぎやメタボ対策を啓発してきた日本肥満学会が、意外にも「痩せすぎ」による低栄養に問題を提起しました。
特に閉経前の女性について、低体重・低栄養が様々な健康障害の原因になるとして、新たな症候群「FUS(ファス)」(Female Underweight/Undernutrition Syndrome=女性の低体重/低栄養症候群)と名付け、対策を訴えたのです。
当時の肥満学会理事長は、「痩せましょうというメッセージが、逆に痩せすぎで困る方に誤って伝わると、健康障害をもたらし社会に大きな問題をもたらしてくる」と危機感を表明しました。日本の20代女性の約2割がBMI18.5未満の低体重に該当しており、先進国の中でも突出して高い割合です。
番組では、FUSによる健康障害の具体例として2つのケースが紹介されました。
1つ目は、痩せ型の女性が病院の検査で血糖値の高さを指摘されたケース。筋肉量が少ないと糖をうまく取り込めず、血糖値の上昇を招く可能性があるのです。「痩せているのになぜ糖尿病リスクが?」と驚かれる方も多いでしょうが、筋肉と血糖値にはこうした深い関係があります。
2つ目は、21歳の女性のレントゲン写真で、骨年齢が70代の数値を示していたケース。若くても栄養不足が続けば、骨粗鬆症のリスクは確実に高まります。
順天堂大学大学院医学研究科教授の田村好史さんは、「調子が悪いのは食べてないせいじゃないか、痩せているのがいけないのかと気づいていただきたい。生活習慣病の中にFUSも含まれていいのではないか」と語っています。
「痩せていれば健康」「太らなければ大丈夫」という思い込みは根強いですが、実は栄養不足による健康リスクは、肥満のリスクと同等か、それ以上に深刻な場合もあるのです。この思い込みを改めることが、健康への第一歩かもしれません。
佐々木敏教授に聞く!隠れ栄養不足を防ぐ健康的な食事のコツ
では、どうすれば隠れ栄養不足を防げるのでしょうか。佐々木敏教授が番組で紹介したポイントを整理します。
分食・間食もOK
一食一食でバランスを完璧に整える必要はありません。佐々木教授いわく、一日、さらには一週間から一ヶ月くらいで帳尻を合わせれば、栄養は十分とのこと。分けて食べたり、間食やおやつまで活用したりして、全体として栄養バランスを整えればよいのです。
ただし、おやつの選び方には注意が必要です。加工度の低いものがおすすめで、佐々木教授は果物、焼き芋、ナッツなどを具体的に挙げていました。「焼くだけのお芋はそのまま。栄養が整っていますね」という言葉に、なるほどと思いました。
食事の配分は自由に
三食のうちどの食事を多くすべきかという質問には、「ご自由にどうぞ」という回答でした。それぞれのライフパターンに合わせて、食べられる時に食べるのが大切。ただし、一食だけに固めると他で補いにくくなること、そして夕食が重すぎると寝付きが悪くなったり翌朝の食欲に影響したりする点には注意が必要です。
サプリメントは取りすぎ注意
視聴者から多く寄せられた「サプリメントで栄養補給してもいいのか」という質問に対し、佐々木教授は「取りすぎ注意」と明言しました。サプリメントは特定の栄養素がギュッと濃縮されているので、食事と違ってお腹がいっぱいにならず、過剰摂取になりやすいのです。あくまでも「補助」として位置づけるべきだとのことでした。
行動栄養学の視点 〜「知識と環境」、そして楽しさ〜
番組の最後に佐々木教授が紹介したのが、「行動栄養学」という新しい栄養学の分野です。これは、栄養素の摂取がうまくいっている人とそうでない人の行動パターンの違いに注目する学問です。
研究はまだ途中ですが、少しずつわかってきたこととして、佐々木教授は3つの要素を挙げました。
- 基本的な知識:食べ物や健康に対する確かな基本的知識があること
- 環境:食事を支える環境が整っていること(例えば家族の協力など)
- 楽しむ気持ち:食べることを楽しむという気持ち
佐々木教授自身が心がけていることとして、「何々だけにならず、いろんなものを食べて楽しむこと」と「ゆっくり食べること」を挙げていました。早く仕事を終えてゆっくり食べると、食べ物の味がわかって楽しくなる。そうするといろんなものを食べたくなる――この好循環が栄養バランスにもつながるのですね。
「知識と環境を揃えて、楽しく食べる」。シンプルですが、実に本質的なメッセージだと感じました。
在宅医療で広がる栄養ケア―「食べる楽しさ」が健康を支える
番組の後半では、栄養の重要性を医療や介護の現場で見直す取り組みが紹介されました。
在宅医療で食の支援に力を入れている医療法人社団悠翔会の理事長・医師の佐々木淳さんは、「栄養状態は健康に生きていくための基盤として一番重要。ここがうまくいかなくなると免疫力が落ちて、ちょっとしたことで感染を起こしやすくなる」と話します。
悠翔会では、管理栄養士が医師や看護師とチームを組み、在宅医療ではなかなか行き届かなかった栄養管理に取り組んでいます。たとえば、患者さんが大好きなカルボナーラをペースト状にして提供し、好きなものを食べてもらうことで食欲を高めるといった工夫をしています。
さらに印象的だったのは、専属の歯科医による「口から食べる支援」です。寝たきりで飲み込む力が低下した患者さんに対して内視鏡で喉の状態を確認しながら、どういう食事なら口から食べられるかを検査します。できるだけ流動食に頼らないことで「食べる力」を維持する取り組みです。
ある女性患者さんは、口から食べることを続けた結果、大好きなバームクーヘンが食べられるようになり、栄養状態も改善しました。「食べられるものが増えてどうですか?」と聞かれ、「やっぱり甘いものが出てくると、にんまりしちゃいます」と笑顔で答える姿が心に残ります。ご主人も「食べるようになってから、表情が明るくなった」と語っていました。
こうした多職種連携による栄養ケアの取り組みの効果もあり、悠翔会では患者の入院日数がおよそ7割減という成果が出ています。
佐々木淳さんは「栄養ケアや食支援は、まさにその人の人生の楽しみや充実、生きがいにつながっていく。穏やかにできるだけ長く楽しく暮らすための基盤が栄養ケアだ」と締めくくりました。
食べることは単なる栄養補給ではなく、生きる喜びそのものなのだと改めて感じます。医療の現場がその視点を持ち始めているのは、とても心強い変化ではないでしょうか。
まとめ
2026年2月24日放送の「クローズアップ現代」では、隠れ栄養不足が招く病気のリスクと、その対策が多角的に紹介されました。ポイントを振り返ると、次のとおりです。
- 隠れ栄養不足は、食事量ではなく「栄養の中身」が問題。30種類以上の栄養素に注意が必要
- 〇〇抜きダイエットや加工食品への頼りすぎは、微量栄養素の不足を招きやすい
- 高齢者のサルコペニアは負のドミノを引き起こし、骨粗鬆症や要介護リスクを高める
- 肥満学会が提唱した新症候群**FUS(ファス)**により、痩せ型でも病気のリスクがあることが明確に
- 予防のカギは、分食・間食の活用、サプリメントへの過信を避けること、そして食べる楽しさ
- 「知識と環境」を整え、楽しく食べることが行動栄養学の視点でも重要とされている
- 在宅医療の現場でも栄養ケアが広がり、「口から食べる力」の維持が患者の生活の質を大きく向上させている
佐々木敏教授が伝えた「知識と環境を揃えて、楽しく食べる」というメッセージは、すべての世代に共通する健康的な食事の原則だと言えるでしょう。まずは自分の食事を振り返り、「隠れ栄養不足」になっていないか、チェックしてみてはいかがでしょうか。
※ 本記事は、2026年2月24日放送のNHK「クローズアップ現代」を参照しています。






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