精神疾患を抱える人が603万人に達し、国民の20人に1人という状況の中、患者を支える家族の疲弊が深刻な社会問題となっています。2025年2月12日放送のNHK「クローズアップ現代」では、医師の夏苅郁子氏を招き、家族支援の在り方について議論が交わされました。
精神疾患患者の家族が抱える深刻な現状とは
現在、うつ病や統合失調症、双極症など、さまざまな精神疾患と診断される患者が増加の一途をたどっています。国は精神科病院での長期入院から地域ケアへの移行を推進していますが、その受け皿となる家族の負担は計り知れません。
都内の患者家族会約570人へのアンケート調査によると、およそ3割の家族が患者の看護を周囲に伝えていないことが明らかになりました。「差別や偏見の恐れがある」「理解されない」といった声が多く、家族の孤立が浮き彫りとなっています。
夏苅郁子医師が語る「精神疾患と家族の向き合い方」
精神科医の夏苅郁子氏は、自身も統合失調症の母を持つ経験から、「人を憎まず、病を知る」という重要な視点を提唱しています。精神疾患は脳の病気であり、決して患者の性格や怠慢が原因ではないと強調します。
夏苅医師は、早期発見・早期治療の重要性を説きながら、現代の日本では「医療につながらないと支援を受けられない」という現状を指摘。特に、患者本人が病識を持ちにくい特徴があることから、家族による適切な初期対応の重要性を訴えています。
精神科の訪問看護が家族の負担を軽減する仕組み
全国に6000余りある精神科の訪問看護は、患者と家族の支援に大きな役割を果たしています。ソレイユ訪問看護ステーションの西島暁子所長は、「家族だけでどうにかしようというのは、むしろ良くない方向に行くことが多い」と指摘し、専門家による支援の必要性を強調しています。
同ステーションでは20人の看護師が約300人の患者を担当し、服薬管理や精神状態のチェック、さらには家族の高齢化に備えた将来的な支援体制の構築にも取り組んでいます。
精神疾患の家族を支える3つの支援制度
- 訪問看護制度:医師の指示のもと、専門の看護師が定期的に自宅を訪問
- 成年後見人制度:患者の権利や財産を守るための法的支援
- 家族会によるピアサポート:同じ経験を持つ家族同士の支え合い
当事者と家族の声から見える課題と解決策
精神障害当事者会「ポルケ」代表理事の山田悠平氏は、社会の理解促進に向けて積極的な情報発信を行っています。「症状を克服するのではなく、症状とともに豊かに生きていける社会づくり」の重要性を訴えています。
実際に双極症の妻を支える前田直さん(45)は、訪問看護やヘルパーの利用を始めてから、家族全体に余裕が生まれたと語ります。こうした支援の活用が、家族の負担軽減に効果を上げている実例といえます。
精神疾患患者の家族が活用できる相談窓口
- 各地域の保健所・精神保健福祉センター
- 精神科訪問看護ステーション
- 地域の家族会
- 社会福祉協議会
まとめ:精神疾患の家族支援に必要な取り組みとは
精神疾患患者の家族支援には、医療・福祉サービスの充実と、社会全体の理解促進という両輪が必要です。夏苅医師が提唱する「人を憎まず、病を知る」という考え方を社会全体で共有し、患者と家族が孤立することなく、地域で安心して暮らせる環境づくりが求められています。
家族だけで抱え込まず、早期に専門家に相談し、利用可能な支援制度を積極的に活用することが、持続可能な介護の実現につながります。
※本記事の内容や、本文中の数値や固有名詞は、2025年2月12日放送のNHK「クローズアップ現代」の内容に基づいています。
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