救急車内での無神経な撮影行為は、重症患者の命を脅かすだけでなく、救急現場の混乱を招く深刻な問題です。本記事では、SNSの普及に伴い増加するこうした事例の背景と実態、現場での対策、そして専門家の適正利用を訴える声などを丁寧にお伝えします。救急車を「映えスポット」と勘違いしたインフルエンサーによる倫理観の欠如なども指摘し、課題の本質に迫ります。命を守る尊い現場を正しく理解し、適切に救急車を利用するための方策を学べる内容となっています。
救急車内での撮影が問題視される背景とは?
救急車の現場での撮影が問題視される背景には、近年のSNSの普及と動画投稿文化の広がりがあります。特に若年層を中心に、自らの体験を動画で記録し、インターネット上で共有することが一般化してきました。
しかしその一方で、プライバシーの侵害や公共の秩序を乱すなどの弊害も生じています。中でも、緊急時の医療現場での無節操な撮影行為は、大きな問題視されるようになってきました。
救急車内で患者やスタッフを撮影し、その様子をリアルタイムで配信するケースが後を絶たない状況です。2024年3月には、ある有名インフルエンサーが救急搬送中に自身の様子をYouTubeで生中継したことで、多くの批判が集まりました。
このように、プライバシーや公序良俗に反する撮影行為が横行するようになり、緊急時の医療現場を守る必要性が高まっているのが背景にあります。
救急隊員の本音「撮影は活動への阻害」
救急現場での撮影が問題視される最大の理由は、救急隊員の活動に多大な支障をきたすことにあります。
3月にSNSで救急救命士から投稿された「内心の本音」こそ、その証左と言えるでしょう。
「たまに救急車で搬送中に自撮りしてる人がいます。内心『そんな余裕あるなら タクシーで行けよ』って全隊員が思っています」
この投稿から、患者の撮影行為に対する救急隊員の強い憤りがうかがえます。重症者の命を守るために懸命な救命活動に従事する最中に、患者が気軽に自撮りしている有様に、隊員たちは愕然とするばかりです。
実際、都内で働く救急隊員の男性は「こちらが必死に活動する中、SNSにアップするため撮影されると、やる気を失います」と打ち明けています。
命がけで患者を病院に運ぶ救急車内で、無神経な撮影が行われれば、隊員の集中力が削がれ、適切な対応を阻害してしまう恐れがあります。このため、撮影は厳に慎むべきだと救急隊員たちは訴えているのです。
「撮影禁止」ステッカー導入の自治体も
救急車内の撮影が問題視されるようになり、一部の自治体では対策を講じる動きがみられます。
埼玉県川口市が注目すべき取り組みを行っているのです。川口市消防局によると、全19台の救急車に「撮影禁止」のステッカーを貼り付けているそうです。2020年から導入を始め、その後の新車にも全て同様のステッカーを設置しているといいます。
実際に、撮影を試みる人に対しては、断る対応を取っているとのことです。
このステッカー導入の理由を、川口市消防局は次のように説明しています。
「救急隊が行う救急活動は、傷病者の観察と必要な応急処置を行い、速やかに医療機関に搬送することが目的です。撮影行為は関係者間でのトラブルにつながりかねず、撮影された動画がSNSで拡散されるリスクもあります」
SNSでの拡散に懸念「救急車の肥やし要求も」
救急車内での撮影が問題視される大きな理由の1つに、SNSでの動画拡散への懸念があります。
東京消防庁の担当者は「撮影された映像がSNSにアップされると、刺激を受けた人から軽症でも写真や動画のために救急車を要求されかねません」と危惧しています。
確かに、救急隊が様々な現場の映像をSNSで公開すれば、見た人の中に「自分も撮影してもらいたい」と思う者が出てくるでしょう。そうなれば、適切な理由がなくても救急車を要請するケースが増え、本来の目的である重症者の搬送に支障をきたす恐れがあるのです。
こうした事態を避けるために、SNSへのアップロードを前提とした撮影そのものを防ぐ必要があると、専門家は指摘しています。
実際、X(旧Twitter)ではすでに「救急車を有料化して、お金を取るべき」との声も上がっており、救急車の肥やし要求への懸念から「撮影禁止」を求める機運が高まっているのが現状です。
救急車の適正利用を呼びかける専門家の声
増加の一途をたどる救急出動件数に対し、専門家から救急車の適正利用を求める声が上がっています。
総務省消防庁によると、2023年の救急出動件数は過去最多の763万7,967件に達し、その後も増加が続いています。各地で新型コロナウイルスやインフルエンザが流行したことで、救急医療現場は深刻な逼迫(ひっぱく)状況に陥っているのが実情です。
そうした中で、救急車の適正利用が強く求められています。東京消防庁の公式サイトでは、「意識がない」「大量出血」「広範囲のやけど」など、明らかに緊急性の高い症状が救急車の適正利用事例として挙げられています。
つまり、軽症の場合はなるべく救急車を要請せず、自力や家族の付き添いでの受診を促しているのです。
このように、専門家からは「命にかかわる重症事例以外で、無節操に救急車を要請することは控えるべき」と呼びかけられています。撮影目的の要請は、まさに適正利用に反する行為と言えるでしょう。
インフルエンサーの倫理観の欠如が浮き彫りに
一方で、今回の問題では、インフルエンサーの倫理観の欠如が批判の対象となっています。
救急隊の活動は、人命rescue(レスキュー)に直結する重大な業務です。そういった緊迫した現場で、インフルエンサーがSNS映えを意識して撮影や配信を行うことは、極めて無神経な行為と受け止められているのです。
「救急車は命の現場です。承認欲求は他で満たしてください」
SNSでは、このような医療従事者からの痛烈な指摘が数多くなされています。命がけで働く救急隊の業務への深い理解があってこその言葉と言えるでしょう。
倫理観に欠ける一部のインフルエンサーによって、救急医療現場が冒涜(ぼうとく)されているという批判が高まっている現状は看過できません。
ソーシャルメディア上では、このような無神経な行為を制する目的で、より厳しい取り締まりを求める声すら上がっているのが実情です。
まとめ:命を守る現場を尊重し、適切に利用を
救急車内での撮影問題をめぐっては、救命活動への支障や、SNSでの動画拡散による二次被害が懸念されています。
救急現場は、重症患者の命を守るための緊迫した舞台です。そのような場で、無神経な撮影行為が行われれば、救急隊員の集中力が削がれ、適切な対応ができなくなる恐れがあります。
実際に、撮影に伴うトラブルを避けるため、一部自治体では救急車への「撮影禁止」ステッカー設置などの対策を講じる動きがあります。
また、動画がSNSで拡散された場合、軽症者から「自分も撮影してもらいたい」との要請が殺到し、本来の目的である重症者搬送に支障をきたすリスクも指摘されています。
増加の一途をたどる救急出動件数に鑑みれば、救急車の適正利用が強く求められており、撮影目的の要請は控えるべきだとの専門家の声もあります。
さらに、命がけで働く救急隊の業務への理解を欠いたインフルエンサーによる無神経な撮影が、倫理観の欠如として批判を浴びる事態にもなっています。
救急車を取り巻く課題は多岐にわたりますが、基本は「命を守る現場」を尊重し、適切に利用することにあります。撮影行為といった無神経な行為は自重すべきです。関係者全員がこの問題の本質を理解し、救命現場の環境改善に努めることが何より重要でしょう。
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