2025年6月12日放送のテレビ東京系「カンブリア宮殿」で、負債77億円という絶望的な状況から奇跡の復活を遂げたビジョンメガネの安東晃一社長が登場しました。彼が語った経営哲学「2つのアイ」とは何なのか、そしてどのようにして眼鏡業界の価格競争に巻き込まれた老舗チェーンを「メガネの専門家集団」へと変貌させたのか、番組内容を詳しく解説いたします。
安東晃一社長が語るビジョンメガネ「2つのアイ」の経営哲学
安東晃一社長が番組で語った「2つのアイ」という経営哲学は、彼の復活劇の核心となる考え方です。一つ目の「アイ」は「愛情の愛」、そして二つ目の「アイ」は「見る目のeye」を指しています。
「会社やビジネス、スタッフに対する愛情を持って、良いところを本当に感じること」と安東社長は説明します。これは単なる経営理論ではなく、民事再生法適用申請の2週間前という絶体絶命の状況で社長に就任した彼の実体験から生まれた哲学です。「ビジョンメガネが好きだから」という理由で、誰もが尻込みする重責を引き受けた安東社長の根底にあるのが、この「愛情の愛」なのです。
そして「見る目のeye」については、「従業員の強みやビジネスの強みを見逃さない目」と表現しています。これは危機的状況にあっても、組織や事業の本質的な価値を見極める洞察力を意味します。実際に安東社長は、ベテラン社員の技術力や接客力という隠れた強みを発見し、それを「眼鏡のマエストロ制度」として体系化することで復活の原動力としました。
この「2つのアイ」の考え方は、先の見えない時代におけるサバイバル術として、多くの経営者にとって参考になる普遍的な経営哲学といえるでしょう。
カンブリア宮殿で話題!ビジョンメガネに客が集まる秘密
番組で紹介されたビジョンメガネに客が集まる秘密は、他社との圧倒的な差別化にあります。現在の眼鏡業界では一式の平均購入価格が2万1000円とされる中、ビジョンメガネの平均客単価は3万3000円を実現しています。これは決して高額商品を押し売りした結果ではなく、顧客が納得して高付加価値を選択している証拠です。
その背景にあるのが、他店では体験できない独自の接客サービスです。番組では初来店の男性客に対して行われた45分間におよぶ詳細な視力測定の様子が紹介されました。一般的な眼鏡店では10分程度で終わる検査を、ビジョンメガネでは17項目もの検査を実施しています。
特に印象的だったのは15分間かけて行う問診です。「デスクで見る時の目線の位置とノートで見る時の目線の位置が違います」と、使用環境や用途を詳しく聞き取る様子が放送されました。これにより、単に「よく見える」だけでなく、お客様一人ひとりの生活スタイルに最適化された眼鏡を提供できるのです。
また、28のカラーバリエーションから選べる女性向けプライベートブランド「華色」シリーズの接客シーンでは、「瞼と瞳の色が茶色っぽい方にはこちらの茶色系が自然に出てる」といった専門的なアドバイスを行う様子も紹介されました。これらの細やかな接客が、中高年のお客様を中心に高い評価を得ている理由です。
負債77億円からの奇跡の復活劇:安東晃一社長の経営改革
1996年にビジョンメガネに入社した安東晃一氏(現52歳)は、当時「テレビでコマーシャルやってるぐらい有名な会社に入りたい」という理由で同社を選んだといいます。しかし2000年代に入ると、JINSやZoffといった格安チェーンが台頭し、「レンズ込みで1万円以下」が当たり前の時代となりました。
ビジョンメガネも格安ブランド「MAXA」を展開しましたが、全国16店舗をオープンさせるも3年後には撤退を余儀なくされました。安東社長は振り返って「変に対抗してしまって価格を破壊してしまった」と当時の判断を反省しています。
その後も業績悪化は続き、2007年度には赤字転落、2009年には上場廃止、そして2013年には負債77億円を抱えて民事再生法適用申請という最悪の事態を迎えました。この時、親会社ビジョンホールディングスのトップが突然辞任し、責任者不在という状況で安東氏に社長就任が持ちかけられたのです。
「もう、潰してはいけないの方が必死になったので、借り入れがどうとか考えてる余裕がない」と当時の心境を語る安東社長。民事再生法適用申請からわずか2週間後には、全体の4分の1にあたる42の赤字店舗を閉店し、約100人のリストラを断行するという厳しい決断を下しました。
電話が鳴るたびに恐怖を感じ、新幹線移動中は携帯電話をマナーモードにもしないほど精神的に追い詰められた状況でしたが、「ビジョンメガネのことが自分事のようにすごく感じた」という強い使命感が彼を支えました。
他社を圧倒する17項目の視力測定システムとは
ビジョンメガネの最大の特徴である17項目45分間の視力測定システムは、他社との決定的な差別化要因となっています。番組で紹介された検査項目は以下の通りです。
- オートレフ測定(目の屈折状態を調べる機械による検査)
- 問診(15分間かけた詳細な聞き取り)
- 視線移動テスト
- カバーテスト
- PD測定(顔の中心から左右の瞳孔までの距離測定)
- 裸眼視力測定
- 前度数測定
- 雲霧法
- 乱視測定
- 球面測定
- レッドグリーンテスト
- 両眼均衡
- 近用測定
- 利き目テスト
- 仮枠装用テスト
- 度数決定
- 装用テスト
【ビジョンメガネで行われる検査項目(引用:「カンブリア宮殿」より)】
特に注目すべきは、双眼鏡のような機械を使ったPD測定です。「黒目と黒目の距離って左右で違ったりして、そこが定まってないと実際のものの見え方にずれがある」と説明されるように、黒目の位置に合わせてレンズの焦点を調整することで、見え方のずれをなくすという高度な技術が使われています。
この徹底した検査により、番組に登場した男性客は一式12万9000円のハイグレードレンズを購入し、「ここまで説明してくれるんだって感じ。期待以上で満足です」とコメントしています。丁寧な検査が高価格帯商品の販売につながっている好例といえるでしょう。
眼鏡のマエストロ制度:職人技のフィッティング技術
2019年に導入された「眼鏡のマエストロ制度」は、ビジョンメガネの技術力向上の要となっています。この社内資格制度は4つのランクに分かれており、最高ランクのSS級ゴールドは販売スタッフ241人中わずか26人という狭き門です。
- SS級ゴールド:26人
- SS級シルバー:76人
- SS級ブロンズ:55人
- S級:63人
番組では若葉台店の店長でSS級ゴールドを持つ小宮清氏の技術が紹介されました。購入した眼鏡のフィッティング調整では、まず手で触って顔への適合具合を確認し、鼻に当たる部分を微調整。バックヤードでヒーターを使ってつるの部分を曲げる様子は、まさに職人技そのものでした。
「熱が当たらなさすぎても調整不可能だし、やりすぎてしまったら溶けちゃったりする。適度な与え方が必要」と小宮氏が説明するように、手の感覚だけで行う微妙な調整技術は長年の経験と訓練の賜物です。
この制度導入により、従来は価格競争に巻き込まれがちだった若手スタッフの技術と知識が大幅に向上し、顧客満足度の向上と売上アップの両立を実現しています。
手厚いアフターフォローとビジョンパーフェクト保証
ビジョンメガネに客が集まる秘密の一つが、「眼鏡のかかりつけ医」を目指す徹底したアフターフォローシステムです。来店したことのあるお客様の情報はすべてカルテに記録され、視力や生活習慣、使用環境まで詳細に記載されています。
番組では「電車通勤だったのを車通勤」といった細かな生活の変化まで記録されている様子が紹介されました。これにより、再来店時には前回の情報を踏まえた的確なアドバイスが可能となり、お客様からも「自分の目の情報をしっかり把握しておいてもらえると、店に来た時にすぐ対応してもらえるので助かる」と高評価を得ています。
さらに2019年からスタートした「ビジョンパーフェクト保証」は、保証金を支払うことで3年間レンズが合わなくなったり眼鏡が壊れたりしても無償で交換してくれるサービスです。現在の加入件数は11万8000件に達しており、特に子供を持つ親御さんから支持を受けています。
このサービスの特徴は、3年間保証を使わなかった場合は同額相当の割引券として戻ってくる点です。「損はないかな、無駄がない」とお客様にコメントされているように、顧客にとってメリットしかない画期的な保証制度となっています。
アフターフォローでは眼鏡購入後1週間、1ヶ月、3ヶ月、半年、9ヶ月、12ヶ月のタイミングで店舗から電話を行い、「初めての累進レンズなんですが、慣れていただけましたでしょうか」といった具合に、使用感を確認しています。
E2ケアホールディングス設立:グループ戦略の全容
競争が激しい眼鏡業界で生き残るため、安東社長は2020年に「E2ケアホールディングス」を設立し、グループ戦略を展開しています。ビジョンメガネの他に「弐萬圓堂」と「POKER FACE」の3社が参加し、それぞれの強みを活かした共存共栄を目指しています。
弐萬圓堂は東北を中心に展開する眼鏡チェーンで、均一価格での販売が特徴です。番組では安東社長が仙台の弐萬圓堂を視察し、価格帯別からブランド別への陳列変更をアドバイスする様子が紹介されました。「価格を重視して選ぶのは選びやすいと思うが、商品の品質の違いがお客様に伝わらない」という指摘により、ブランドごとの陳列に変更された結果、利用客からは「昔と比べたらブランド別に綺麗に陳列されて、自分のお気に入りの眼鏡が見つかって本当嬉しい」との反応を得ています。
POKER FACEは全国の都市部を中心に展開する眼鏡のセレクトショップで、若者がターゲットの都心型店舗です。このように3社がエリア、価格帯、ターゲットの棲み分けを行うことで、グループ全体での市場カバー率向上を図っています。
安東社長は個人経営の眼鏡店についても言及し、「後継者がいないということで眼鏡屋さん閉めてしまわれる方もたくさんいる中で、業務提携をしてその地域の視力を守る店をしっかりと継続する」という方針を示しています。これは単なる事業拡大ではなく、眼鏡業界全体の基盤維持という社会的使命を感じさせる取り組みです。
まとめ
安東晃一社長率いるビジョンメガネの復活劇は、「2つのアイ」という経営哲学に象徴されるように、愛情と洞察力を武器にした人間力経営の勝利といえるでしょう。負債77億円という絶望的状況から、平均客単価3万3000円を実現する優良企業への変貌は、価格競争一辺倒の業界に一石を投じる成功事例となっています。
17項目45分間の視力測定システム、眼鏡のマエストロ制度による技術力向上、カルテ管理による「かかりつけ医」的なアフターフォロー、そしてビジョンパーフェクト保証による顧客満足度向上。これらすべてが有機的に結びつき、「どこにでもあるメガネ店」から「メガネの専門家集団」への進化を実現しました。
E2ケアホールディングスを通じたグループ戦略は、個社の利益追求を超えた業界全体の発展を見据えた取り組みであり、先の見えない時代における新たなビジネスモデルとして注目されます。安東社長の「お客様が喜んでくださることを、スタッフも嬉しいというふうに感じられる」という言葉からは、真の顧客第一主義が会社の文化として根付いていることが伝わってきます。
今後もビジョンメガネの「2つのアイ」を軸とした経営手法は、多くの企業にとって参考となる経営哲学として、広く注目され続けることでしょう。
※ 本記事は、2025年6月12日放送のテレビ東京系人気番組「カンブリア宮殿」を参照しています。
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※ 弐萬圓堂のHPはこちら
※ POKER FACEのHPはこちら
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