2025年6月21日放送のテレビ東京系「ブレイクスルー」で紹介された株式会社Splink(スプリンク)。同社CEOの青山裕紀氏が挑む、AI技術を活用した認知症予防の最前線が大きな注目を集めています。認知症は今後500万人以上、高齢者の実に7人に1人がなるとされる中、青山氏の革新的な取り組みが新たな希望をもたらしています。
スプリンク青山裕紀とは?AI脳ヘルスケアの革新者
株式会社Splink(スプリンク)の代表取締役CEO青山裕紀氏は、AI技術で認知症診断の最適化に挑む注目の起業家です。慶應義塾大学法学部を卒業後、大手電子機器メーカーのキーエンスに入社し、入社2年目の24歳という若さで最年少トップセールスを記録した実力者でもあります。
青山氏がキーエンスで培った営業力は、後に医療現場での信頼獲得に大きく活かされることになります。同社では北米ビジネスの事業開発、ブラジル法人設立、メキシコ法人マネジメントなど国際的な業務に従事し、その後シリコンバレーのベンチャーキャピタルでEiR(Entrepreneur in Residence)を経験しました。
2015年にキーエンスを退社した青山氏が起業を決意したきっかけは、父・重造さんの脳疾患でした。10年に渡り複数の病院で検査を行ったものの、結局原因を特定できなかった父の闘病生活と、それを支える母の姿を見て「自分にも何かできることがないか」という強い思いを抱いたのです。2017年1月に株式会社Splinkを設立し、「すべての人につながりを、その日まで」をビジョンに掲げ、脳のヘルスケア事業に乗り出しました。
AIで認知症を見える化する技術とは?MRI画像解析の仕組み
Splinkが開発したAI技術の核心は、MRI画像から海馬の体積を精密に測定し、「脳年齢」として数値化することです。海馬は記憶や空間認知に関わる脳の重要な部位で、大きさは大人の小指ほど。認知症の原因となる萎縮は、この海馬から始まることが多いとされています。
従来の画像診断では、海馬が小さく目視での判別が困難なため、誤診や見落としが生じる可能性がありました。Splinkでは膨大な脳のMRI画像をAIに学習させ、海馬の体積を立方ミリメートル単位で正確に算出できるソフトウェアを開発しました。
具体的な測定結果として、健康な60代男性では海馬の体積が7,600立方mm以上で海馬年齢は50代後半と評価される一方、認知症を患った同年代では海馬の体積が5,500立方mm未満、海馬年齢は70代後半と評価されます。この数値化により、同年齢の平均値との比較や将来の萎縮予測まで可能になり、医師の診断を強力にサポートします。
さらに、MRI画像解析に加えて認知症の専門医と共同開発した認知機能テストを組み合わせることで、より精度の高い診断が実現します。このテストは計算、色の識別、図形を使った空間把握など全5種類の問題で構成され、所要時間はわずか約10分。反応速度も含めて総合的に脳の状態を評価できる画期的なシステムです。
認知症予防の新アプローチ「自分ごと化」で健康意識改革
青山氏が特に重視しているのが、脳の健康を「自分ごと化」させることです。これまで糖尿病などの生活習慣病について「食事や運動が大事」と指導しても、多くの人が真剣に受け止めなかったのが実情でした。しかし「脳にこのままだと影響がありますよ」と具体的な数値で示すと、患者は本気で聞いてくれるようになったのです。
この効果について、青山氏は「健康が気になってくる40、50代の世代は、親の認知症が心配になってくる時期でもあり、まだ自分だったら何とかできると思った時に、脳の状態を数値で示されると自分ごと化する」と説明しています。単なる健康診断の数値ではなく、将来の認知症リスクという切実な問題として捉えられることで、生活習慣の改善への強い動機づけが生まれるのです。
早期発見の重要性について青山氏は「適時適切に診断をしていく、ないしはもっと前に予防していくという世界を作り出すことによって、診断がうまくつかない、ないしは見落とされる患者さんやその家族の方々に貢献できる」と語っています。認知症は一度進行すると根本的な治療が困難とされているため、早期段階での発見と投薬治療の開始が極めて重要なのです。
キーエンス営業力が医療現場に革命をもたらす戦略
医師でも研究者でもない青山氏が医療現場での信頼を獲得するのは容易ではありませんでした。「先生方が口を揃えて『君は何にも分かってないね』と。50人に49人が」という状況から、キーエンスで培った営業戦略を駆使して突破口を見つけていきました。
青山氏の戦略は、まず徹底的な戦略立案から始まります。「誰の何の課題を解決するのか」を明確に整理した上で、医師特有の作法や考え方を理解してからアプローチするのです。そして理解のある医師を見つけて製品を使ってもらい、評判が広がることで徐々に導入が拡大していく手法を取りました。
この地道な努力が実を結び、現在では100を超える医療機関でSplinkの技術が導入されています。さらに2024年からはトヨタ自動車が認知機能テストを従業員向けの健康診断に採用するなど、企業での導入も拡大しています。企業にも従業員の健康管理が求められる現代において、脳の健康チェックは新たなニーズを生み出しているのです。
青山氏は「こういった脳の画像をしっかりと解析をしながら、そしてそれに生活習慣を含めて、これをオールインワンでやってる会社というのは世界中に私どもだけ」と自信を示しており、独自性の高いビジネスモデルが競争優位性を生んでいます。
脳の萎縮からの回復を目指す次世代研究
Splinkの取り組みは認知症の早期発見に留まりません。青山氏は「海馬という領域は、一度萎縮したら終わりではなく、戻れる」として、脳機能の再生という新たな領域にも挑戦しています。
現在、慶応義塾大学医学部の岸本泰士郎教授と共同で、軽度認知障害(MCI)の患者に対する脳機能回復の研究を進めています。岸本教授によると「軽度認知障害の方々の一定の割合は、一定の訓練等を行うことで認知機能が元に戻ることもある」とされており、個人に合った行動変容の提案によって脳の活性化を図る取り組みが行われています。
具体的には、日立製作所の子会社とも連携し、人それぞれに合ったオーダーメイドのプログラムを開発中です。脳トレーニングや食生活、運動などを個別にアドバイスすることで、脳を活性化し萎縮して失った機能の一部分を取り戻すことができるかどうかの検証を進めています。
この画期的な取り組みは国も支援しており、2027年度の実用化を目指しています。岸本教授は「脳の健康、身体の健康が気になり出す中高年あるいは高齢期の方々、60、70代からしっかり取り組まれることで一定程度の効果は出せる」と期待を寄せています。
世界展開で目指す「脳の病気のない世界」の実現
青山氏の野望は日本国内にとどまりません。海外展開を見据えた製品開発を最初から視野に入れており、特にアメリカ、中東、東南アジアへの展開を計画しています。2025年には日本貿易振興機構(ジェトロ)主催の「HealthTech Gateway “AI Medical in the US”」Phase 2にも選出されるなど、国際的な注目も集めています。
日本の強みについて青山氏は「日本は高齢化という文脈で世界第2位のドイツに対して要は10年先行っている。課題先進国だが、つまり未来の国」と説明しています。高齢化先進国として蓄積された検証機会やデータを活かし、世界に先駆けて脳ヘルスケアのソリューションを確立できるアドバンテージがあるのです。
また、日本は世界に類を見ないMRI技術を誇る国でもあります。高画質で精密な画像による診断技術と、AIによる解析技術を組み合わせることで、海外の競合他社との差別化を図っています。
青山氏が掲げる最終目標(ブレイクスルー)は「脳の病気のない世界を作ること」です。「認知症やその他の病気というのは加齢、老化によって起きてくるところも多分にあり、実際そういった病気になってしまって患者さんは本当にめちゃくちゃ困っています。本当にいいものを作って診断できる世界。そしてその先には脳の病気が治療できるという世界を目指していく」と語る青山氏の想いが、次世代ヘルスケアの可能性を切り開いています。
まとめ
テレビ東京系「ブレイクスルー」で紹介されたスプリンクCEO青山裕紀氏の取り組みは、AI技術を活用した認知症予防の新たな可能性を示しています。元キーエンス最年少トップセールスという異色の経歴を持つ青山氏が、父親の脳疾患をきっかけに立ち上げた会社は、今や認知症の早期発見から脳機能再生まで幅広い領域で革新をもたらしています。
MRI画像のAI解析による海馬体積の数値化、認知機能テストとの組み合わせ、そして「自分ごと化」による健康意識改革。これらの技術と戦略により、100を超える医療機関やトヨタ自動車といった大企業での導入を実現しました。さらに2025年3月には経済産業省のJ-Startup第5次選定企業にも選出され、国からの期待も高まっています。
認知症が500万人以上の課題となる現代において、青山氏が目指す「脳の病気のない世界」の実現は、私たち一人ひとりにとって切実な願いでもあります。2027年度の脳機能再生技術実用化、そして世界展開への挑戦。青山裕紀氏とスプリンクの今後の動向から、目が離せません。
※ 本記事は、2025年6月21日放送(テレビ東京系)の人気番組「ブレイクスルー」を参照しています。
※ 株式会社Splink(スプリンク)のHPはこちら
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