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テクノロジー・サイエンス

【クローズアップ現代】「極限の代償」アスリート襲うトレーニングの進化

【クローズアップ現代】「極限の代償」アスリート襲うトレーニングの進化 closeup-athlete-training-shinka
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2026年4月27日放送のNHKクローズアップ現代「極限の”進化” 追い込まれるアスリート」では、最新の科学やデータが選手を強くする一方で、命を脅かすほどのリスクを生み出している現実が描かれました。本記事では、トレーニングの進化がアスリートに何をもたらしたのかを、ボクシングやMLBの具体例とともに整理し、私たちが選手を守るために何を考えるべきかを掘り下げてご紹介します。読み終える頃には、スポーツを見る目がきっと一段深くなっているはずです。


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クローズアップ現代「極限の進化」が描いたアスリートを追い詰める異常事態とは

NHKクローズアップ現代「極限の”進化” 追い込まれるアスリート」(2026年4月27日放送)は、近年のスポーツ界に広がる深刻な”歪み”を真正面から取り上げた回でした。番組のメインキャスター桑子真帆さんとともに、東京科学大学副学長で元スポーツ庁長官の室伏広治さんがゲストとして登場しました。

室伏広治

東京科学大学副学長の室伏広治氏

冒頭で映し出されたのは、ボクシングのリングで意識を失う選手の生々しい映像でした。番組によれば、日本のプロボクシング界では2年間で3人の選手が亡くなるという、戦後でも極めて異例の事態が起きています。同時に、海の向こうのMLB(メジャーリーグ)では、投球の高速化に体がついていけず、ピッチャーの肘の故障が次々と発生しているといいます。

つまり、このクローズアップ現代が問いかけたのは、「強くなる方法が確立したからこそ、選手が壊れていく」という逆説です。データやトレーニング理論の進化は本来、選手を守るためにあるはずでした。それなのに現場では、進化そのものがアスリートを限界まで追い込む装置になってしまっている。私自身、長くスポーツ報道に触れてきましたが、ここまで踏み込んで「光と影」の両面に光を当てた特集は、近年でも特筆すべき内容だと感じました。


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ボクサーの相次ぐ死亡事故と「水抜き減量」が脳に及ぼす深刻なリスク

番組がまず取り上げたのは、元IBF世界ミニマム級王者・重岡銀次朗さん(25)のケースでした。2025年5月、大阪・インテックス大阪で行われた世界タイトルマッチ。フィリピンの王者ペドロ・タドゥラン選手と再戦した重岡さんは1―2の判定で敗れ、その直後にリング上で意識を失います。診断は「急性右硬膜下血腫」。緊急開頭手術を経て命はとりとめたものの、左半身に麻痺などの重い後遺症が残り、現役続行は叶いませんでした。現在は故郷・熊本に戻り、兄でやはりボクサーだった優大さんに支えられながらリハビリの日々を送っています。

重岡銀次郎さんと兄の優大さん

重岡銀次郎さんと兄の優大さん                               (引用:「NHKニュース」より)

さらに番組では、2025年8月、東京・後楽園ホールで行われた東洋太平洋スーパーフェザー級タイトルマッチ後に亡くなった神足(こうたり)茂利さん(享年28)の遺族にも取材がなされました。兄の昌冶さんは「いかに自分を追い込めるかを日頃から言っていた」と語ります。神足さんは、栄養学やスポーツ科学の専門書を読み込み、専属トレーナーの指導を受けて科学的トレーニングに取り組んでいた選手でした。スクワットの重量は90キロから180キロまで上がり、強靭な肉体を手に入れていたといいます。

神足茂利

タイトルマッチ後に亡くなった神足茂利さん                     (引用:「スポーツ報知」より)

しかし、長年リングドクターを務めた野次(のじ)雅人医師が指摘したのは、強い体ゆえに「160ラウンドという自己最多のスパーリング」をこなせてしまったことの危険性でした。ヘッドギアと大きなグローブをつけたスパーリングでも、回数を重ねれば脳の血管に小さな傷が積み重なる。そこに本番の打撃が加わり、致命的な出血につながったのではないか――そう示唆されています。

そしてもう一つ、番組が深く掘り下げたのが「水抜き減量」と呼ばれる新しい減量法の問題でした。これは、普段は水分を摂りながら練習し、試合数日前から塩分を遮断、最後に塩分濃度の高い風呂に浸かって浸透圧の作用で一気に体内の水を抜くという方法です。元世界王者の京口紘人さんがSNSで紹介したこともあり、多くのボクサーに広まりました。

ところが、香川大学の荻野祐一教授の研究で、水抜き減量を行ったボクサーは脳全域にわたって縮小していることが画像で確認されました。脳の水分まで抜けることで、脳と頭蓋骨をつなぐ血管が引っ張られ、出血リスクが高まるというのです。荻野教授が「水抜き減量はボクシングには向いていない」と明言したのは、研究者としては相当に踏み込んだ発言だと感じました。広まりすぎた手法は、もはや「危ない」と言わなければ止まらない――そんな現場の切実さが伝わってきました。


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MLBで急増する投手の故障 ── 球速高速化とトレーニングの進化が招く代償

舞台はアメリカへ。MLBでは直球の平均球速がこの15年でおよそ5キロ上昇する一方、肘の手術件数は同じ15年で3倍近くに増えました。MLBが2年前にまとめた報告書では、球速上昇と投手の肘負担増加に因果関係があると明記されています。

番組に登場したのは、タンパベイ・レイズのドリュー・ラスムッセン投手。彼はすでに肘の手術を3回経験していますが、それでも常に160キロ近くのボールを投げ込みます。「かつてのように70%で投げて、ここぞという時に全力を出す時代は去った。今は常に全力が求められる」という彼の言葉は、現代野球の構造を鋭く突いています。

その背景にはデータ攻防の激化があります。バッターはピッチャーの投球データを、ピッチャーはバッターのスイングデータを見て対策を立てる。番組によると、外角高めのボールが5キロ速くなれば、空振りを奪える確率は20%も高まるそうです。だからこそ投手は球速を追い求めざるをえないのですが、筋力は鍛えられても靭帯を鍛えることはできない。そのギャップが故障の温床になっているのです。

レイズで12年トレーナーを務める福田紳一郎さん、マッサージセラピストの渡邊誉さんは、リリースポイントや回転数の変化から疲労を予測してケアにつなげる試みを続けています。それでも福田さんは「フォームを変えるとは僕の立場では言えない」と限界を率直に語ります。球団編成本部長のエリック・二―アンダー氏が「パフォーマンス基準に引き上げつつ、出場し続ける状態を保つ。両立はとても難しい」と漏らしたのも印象的でした。


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トレーニングの進化がもたらす「光と影」── 若い世代のアスリートに広がる危険性

番組が見逃さなかったのは、この潮流が若年層にも及んでいる点です。アメリカの17歳、アラン・ジマーマンさんは、高校生30万人がランキングされるサイトを毎日チェックしています。球速など20項目のデータで順位がリアルタイムに動き、去年のドラフトでは上位100人のうち52人が指名されたといいます。プロへの登竜門であると同時に、選手たちを「データの檻」に閉じ込める仕組みでもあるのです。

ジマーマンさんは14歳で肘の手術を経験しながら、それでもランキングを上げるために自主練を1時間以上続けています。「また手術かもと思うと不安。でもランキングが下がると、自分の努力が足りないと感じる」――この葛藤は、子どもに背負わせていい重さなのでしょうか。サイト運営会社のリック・サーマン会長自身も「若い選手の怪我の原因は大リーグの影響がある。球速ではなく投球技術を重視するようになれば、若い選手の怪我は減る」と認めています。

スノーボードでは、1998年長野五輪では1〜2回転ほどだった技が、今年のミラノ・コルティナ五輪では縦横に複数回転する技が当たり前になり、骨折リスクが増しました。陸上でも反発力の強い厚底シューズの登場で、番組放送の前日にあたる2026年4月26日にはロンドンマラソンでケニアのセバスチャン・サウェ選手が1時間59分30秒を記録し、男子マラソンで公式レース初の2時間切りという世界新記録が生まれた一方、股関節への負担が増しているといいます。トレーニングの進化が「光」だけを残すことはなく、必ず「影」を引き連れている。これが、番組が一貫して伝えたかったメッセージだと私は受け取りました。


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室伏広治が示すアスリート保護の道 ──「ヒューマンセンタード」とルール改正の必要性

スタジオでは、室伏広治さんが繰り返し「ヒューマンセンタード」という言葉を使いました。アテネ五輪ハンマー投げ金メダリストであり、スポーツ科学の研究者でもある室伏さんならではの含蓄ある発言です。

具体的な動きとしては、日本ボクシングコミッション(JBC)と東京科学大学病院などが連携し、事故発生時に即座に搬送できる医療体制を構築。さらにMRIによる脳震盪の研究を進め、いずれはガイドライン策定や国の政策にもつなげたいと語っていました。

ルール改正の動きも紹介されました。フィギュアスケートでは国際スケート連盟が女子ジュニアのショートプログラムでの4回転ジャンプを禁止し、ジャンプ本数自体を減らす議論も進んでいます。バドミントンも、世界バドミントン連盟が1ゲーム21点制から15点制への変更を発表したばかりです。

室伏さんは「データを鵜呑みにせず、サイエンスをもってどう料理するかが大事」と語り、選手を球速など一つの指標だけで評価する風潮にも警鐘を鳴らしました。私もこの視点には強く共感します。アスリートは数値で測れるロボットではなく、家庭環境も睡眠も人間関係も含めた一人の人間です。ファンとして応援する私たちもまた、データだけで選手を評価しない目を持つ必要があるのではないでしょうか。


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まとめ:トレーニングの進化と向き合い、アスリートを守るために

クローズアップ現代「極限の”進化” 追い込まれるアスリート」が描いたのは、科学やテクノロジーがアスリートを高みへ引き上げる「光」と、同時に選手を限界まで追い詰める「影」の両面でした。ボクシングの水抜き減量も、MLBの球速至上主義も、若年層を巻き込むランキングサイトも、すべて「強くなりたい」という純粋な願いの先で起きてしまった悲劇です。

しかし、フィギュアスケートやバドミントンのルール改正、JBCと東京科学大学の医療連携など、確実に状況を変えようとする動きも始まっています。室伏広治さんが語った「ヒューマンセンタード」の発想こそ、これからのスポーツ界に欠かせない視点だと感じます。アスリートは数値ではなく人間です。そのことを忘れずに、観る側の私たちもスポーツの輝きと安全の両立を支えていきたいですね。

※ 本記事は、2026年4月27日放送のNHK「クローズアップ現代」を参照しています。

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