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社会・暮らしの問題

【クローズアップ現代】高齢者のペット「もしもの時」誰が世話する?

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2026年3月16日放送のクローズアップ現代では、高齢者のペット問題が取り上げられました。飼い主の入院や死亡で行き場を失う犬や猫――誰が世話するのか? 医療・介護の現場では深刻な負担が広がっています。この記事では、番組で紹介された具体的な事例や新たな連携の動き、海外との比較まで詳しく解説します。いざという時に慌てないための備えを、今から一緒に考えてみませんか。


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高齢者のペット問題―医療・介護の現場で起きている深刻な実態

愛犬や愛猫と穏やかな老後を過ごしたい――そう願う高齢者は少なくありません。実際、東京都健康長寿医療センターの研究では、犬を飼っている高齢者は飼っていない人と比べて認知症の発症リスクが40%低いというデータも報告されています。ペットが飼い主の生活の質(QOL)を高めてくれるのは間違いないでしょう。

しかし今、その「ペットとの暮らし」が医療・介護の現場に深刻な問題をもたらしています。番組で紹介された名古屋市の「人とペットの共生サポートセンター」には、年間1,200件もの相談が寄せられているそうです。センターの小出幸雄さんによると、相談の多くは高齢者が飼うペットの引き取り手探しで、飼い主募集中のペットは常時200件を超える状態が続いているとのことでした。

とりわけ深刻なのは、認知症を患う飼い主のケースです。番組では、3匹の猫と暮らす70代の認知症女性の自宅を、ケアマネジャーの窪優子さんが訪問する様子が映し出されていました。部屋には猫の餌や糞尿が散乱し、作業時間の多くがその掃除に費やされている状況。窪さんは「果たしてこれは介護保険の範囲内なのか、外なのか、もうわからなくなっている」と率直な葛藤を語っていました。

筆者が特に注目したのは、この問題が単なる「動物の問題」ではなく、「人の福祉の問題」として医療・介護の現場を直撃しているという点です。ペットの世話は介護保険の想定外。しかし、飼い主にとって猫は「いない生活なんて考えられない」存在であり、ペットがいることが施設入所を拒む理由にもなっています。高齢者の意思を尊重しつつ、適切な介護サービスを提供するという、非常に難しいバランスが現場に求められているのです。


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ペットがいるから入院できない!置き去り問題と訪問看護師の葛藤

高齢者のペット問題は、入院時にさらに深刻な形で表面化します。

番組では、大腿骨骨折で救急搬送され、2か月近く入院していた藤村貴子さん(86歳)のエピソードが紹介されました。一人暮らしの藤村さんがずっと気にかけていたのは、自宅に残してきた15歳の猫・ミーちゃんのことでした。「一日も、ミーちゃんを一人にしたことない。早く帰りたい」と語る藤村さんの言葉が、ペットへの深い愛情を物語っていました。

置き去りにされたミーちゃんの面倒を見ていたのは、訪問看護師の吉田翠さんです。相談窓口や預け先が見つからず、ボランティアで近隣住民と世話を続けてきたといいます。実は吉田さんが患者のペット問題に対応するのはこれが初めてではなく、過去にも亡くなった患者の犬と猫を2度にわたって自ら引き取っていたのです。いずれも家族から引き取りを拒否され、吉田さんが対応するしかなかったとのことでした。

「業務ではないので自分の余暇を使ってやっている。それはずっとは続かないし、健全なシステムではない」――吉田さんのこの言葉には、医療・介護の現場が抱える構造的な問題が凝縮されています。

藤村さんの退院後、ミーちゃんとの再会シーンは感動的でした。しかし吉田さんは「次にあったらどうか、正直わからない」と、将来への懸念も正直に口にしていました。高齢者にとってペットが「生きがい」であり「家族」であることは間違いありません。けれども、そのケアを医療・介護従事者の善意と自己犠牲に頼り続ける現状は、明らかに持続可能ではないと感じます。


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殺処分ゼロの裏側―ペットを手放したくても引き取り先がない現実

飼い続けることが困難になった時、最後の選択肢として浮かぶのが「ペットを手放す」ことです。しかし、それすら簡単ではない現実があります。

番組で取り上げられた河合正也さん(71歳)は、肺気腫を患い、17年飼ってきた猫を手放す決断をされました。「自分ではもうこれ以上面倒を見きれない」と、やむにやまれぬ事情です。河合さんが頼ったのは、地元の名古屋市動物愛護センター。しかしそこでは「まずは自ら引き取り手を探してほしい」と告げられ、親族や各地の団体に当たったものの、条件の合う引き取り先は見つからないまま4か月が経過していました。

この背景には、動物の殺処分をめぐる大きな方針転換があります。動物愛護管理法は2013年の改正で「殺処分ゼロ」の方向性が強く打ち出されました。名古屋市ではこの10年間、犬の殺処分は行っておらず、猫も9割以上削減し、3年以内にゼロを目指しています。その成果自体は素晴らしいのですが、一方で行政による引き取りをできるだけ減らす方針が、飼い主側に重い負担としてのしかかっているのです。

名古屋市動物愛護センターの山岸純二郎所長は「無制限に引き取っていけば、センターはすぐにいっぱいになってしまう。殺処分ゼロを達成するために、飼い主にもご協力をお願いしたい」と話していました。

帝京科学大学教授で獣医師の佐伯潤さんは、番組の中でこのジレンマについて重要な指摘をしています。動物愛護管理法は議員立法で5年を目処に改正が行われてきましたが、殺処分を減らす方法の一つとして行政による引き取りを減らしていくという方針が、やむにやまれない事情で動物を手放したい人にもすぐに対応できない状況を生んでいるのだと。

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帝京科学大学の佐伯潤教授                         (引用:「帝京科学大学」HPより)

ここには「動物の命を守る」という理念と「飼い主の福祉」という現実の間に、深い溝があると感じます。殺処分ゼロは社会として目指すべき方向ですが、その負担を高齢の飼い主や医療・介護の現場だけに押し付けてしまっては、結局誰も幸せになれないのではないでしょうか。


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動物政策監とは?港区が始めた福祉と動物の専門家の連携

では、この複雑な問題にどう対処すればいいのか。番組が注目したのは、「人の福祉」と「動物の専門家」が連携するという新しい動きです。

東京都港区では今年度から、「動物政策監」と呼ばれる区の獣医師が、飼い主や福祉担当者からのペットに関する相談を受け、訪問支援を行う取り組みを始めています。番組では、80代の飼い主を訪問する動物政策監の様子が紹介されていました。福祉担当者から犬の散歩中に軽い怪我をしたと聞き、今後万が一入院となった場合の餌の問題について相談に乗っていたのです。

動物政策監の獣医師・黒澤泰さんは「福祉の人と動物の専門が常に連携しながら、犬も健康であり、人も元気になる。そういう繋ぎ役を担えればいい」と語っていました。こうした「繋ぎ役」の存在は、これまで医療・介護従事者が個人の善意で担ってきた負担を、制度として支える重要な一歩だと思います。

もう一つ注目すべきは、岐阜の在宅医療クリニックの医師・白神真乃さんが始めた多職種連携の取り組みです。白神さんは医療者とペット・飼い主支援を行うNPOとのオンライン会議を開催し、「医療者が第一発見者になることが多いので、動物福祉の専門家と一緒に早い段階から考えたい」と呼びかけています。

白神さん自身、認知症が進んだ飼い主が亡くなった時、放置された犬・マリリンの行き先が何も決まっておらず、自ら引き取ったという経験があります。「持続可能な方法ではない」と葛藤しながらの引き取りだったそうです。

この経験を踏まえ、白神さんは患者がペットとの暮らしができているうちから、ペットの既往歴や性格などの情報を事前に聞き取る取り組みを始めています。もしもの時に動物の専門家へスムーズに情報を引き継ぐためです。いわば「ペット版のエンディングノート」を医療の現場から作っていく発想であり、これは非常に実践的で効果的なアプローチだと感じました。


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獣医療ソーシャルワークと愛玩動物看護師の役割―佐伯潤教授が解説

番組に出演した帝京科学大学教授の佐伯潤さんは、連携のあり方についてさらに踏み込んだ提言をしていました。

注目すべきは、「動物の方から人の方へ」というアプローチです。佐伯さんが紹介した「獣医療ソーシャルワーク」とは、動物のケアを起点にして人のケアにも広がっていくという考え方。動物福祉と人の福祉を連動させていこうという取り組みです。

その中で重要な役割を担うと期待されているのが、「愛玩動物看護師」という新しい国家資格です。2019年に愛玩動物看護師法が制定され、2022年から施行されています。第1回の国家試験は2023年2月に実施され、約18,000人が合格しました。獣医師の指示のもとで採血やマイクロチップ挿入などの診療補助が行える、動物医療の専門資格です。

佐伯さんによれば、この愛玩動物看護師による訪問看護のようなものが実現すれば、人の介護で訪問するヘルパーに加えて、動物看護師が訪問することで高齢者を「多くの目で見守る」ことができるようになるといいます。人の福祉と動物の福祉、両方を同時に守ることができる仕組みが、獣医療ソーシャルワークの目指す姿なのです。

現状では、ペットに関する公的サービスは非常に限定的です。佐伯さんが番組内で指摘したように、ペットホテルは一泊数千円、ペットの後見や引き取りとなると民間では数十万円から数百万円の費用がかかることもあります。高齢者にとって経済的なハードルは決して低くありません。

だからこそ、獣医療ソーシャルワークのように「公的な仕組み」として動物と人の福祉を一体的に支える体制づくりが急務なのだと、番組を通じて強く感じました。


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国によって違うペット政策―フランスは同伴OK・オーストラリアは自己責任

高齢者とペットの問題は日本だけのものではありません。番組では、対照的な2つの海外事例が紹介されました。

まずフランスです。フランスでは2024年4月に「ビアン・ビエイール法(高齢者のより良い生活に関する法律)」が制定され、原則としてすべての公的介護施設(EHPAD)で入居者がペットを同伴できる権利が法的に認められるようになりました。動物の世話ができることや衛生・安全条件を満たすことが条件ですが、「ペットと暮らす権利」を社会として守るという明確な姿勢が打ち出されています。もともとフランスは国民の約半数がペットを飼うペット大国であり、法律で賃貸住宅におけるペット飼育の権利も保障されているなど、動物との共生が社会の前提になっている背景があります。

一方、オーストラリアでは2025年11月から新しい高齢者ケア制度「サポート・アット・ホーム」が開始され、在宅介護の枠組みが大きく変わりました。この制度では、ペットの世話は政府助成の対象外と明記されています。介護認定動物(アシスタンスアニマル)を除き、ペット関連の費用は補助されません。ペットの飼育はあくまで個人の責任という立場です。

同じ先進国でもこれほどアプローチが異なるのは非常に興味深い点です。佐伯さんは番組の中で、日本の動物愛護管理法が「人と動物の共生社会」を目指すと謳っている以上、飼い主の福祉と動物の福祉の両方を支える仕組みが必要だと述べていました。そして「可愛い」「可哀想」という感情論だけでなく、人と動物が暮らす意義や支え合いの価値について、動物が好きではない方も含めた社会全体で考えるべきだと訴えていました。

筆者としては、フランス型の「権利として保障する」方向性に共感しつつも、その分のコストを社会がどう負担するかという現実的な議論が不可欠だと考えます。少なくとも日本では、まず医療・介護と動物福祉の「連携の仕組み」を全国に広げることが、最初の一歩になるのではないでしょうか。


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まとめ

2026年3月16日放送のクローズアップ現代は、高齢者の「もしもの時」にペットを誰が世話するのかという、多くの人が見て見ぬふりをしてきた問題に正面から切り込んだ番組でした。

名古屋市に寄せられる年間1,200件の相談、認知症の飼い主の自宅で掃除に追われるケアマネジャー、業務外で患者のペットを引き取る訪問看護師、殺処分ゼロと引き取り困難のジレンマ――こうした現場のリアルは、この問題がもはや個人の問題ではなく社会の課題であることを突きつけています。

一方で、港区の動物政策監、岐阜の白神医師による多職種連携、そして獣医療ソーシャルワークや愛玩動物看護師の活用といった新しい取り組みも確実に始まっています。大切なのは、「もしもの時」が来てから慌てるのではなく、元気なうちから備えること。ペットの情報をまとめておく、信頼できる引き取り先を探しておく、地域の相談窓口を把握しておく。こうした一つひとつの準備が、飼い主にとってもペットにとっても、安心につながるはずです。

人と動物の共生社会は、理念だけでは成り立ちません。制度・連携・そして一人ひとりの備え。この三つが揃って初めて、高齢者もペットも幸せに暮らせる社会が実現するのだと思います。

※ 本記事は、2026年3月16日放送のNHK「クローズアップ現代」を参照しています。

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