「カンブリア宮殿」で特集されたP&Gジャパン社長・木葉慎介氏。「消費者がボス」という理念を掲げ、年間数十万人への訪問調査や大ヒット商品ジェルボールの開発秘話など、世界180カ国で売上13兆円を誇るP&Gのマーケティング術が明かされました。この記事を読めば、番組で紹介された木葉社長の経営哲学と具体的施策が丸わかりです。
P&Gジャパン木葉慎介社長が貫く「消費者がボス」マーケティング術の核心
2026年4月16日放送のカンブリア宮殿(テレビ東京系)では、P&Gジャパン社長・木葉慎介氏(49歳)が登場し、同社の根幹をなす「消費者がボス(Consumer is Boss)」という経営理念と、その実践としてのマーケティング術が紹介されました。
P&Gのマーケティング術の核心は、一言で表すと「上司の言うことよりも、消費者の声を最優先にする」という文化にあります。番組内で木葉社長は「消費者がボスであるという文化を深める」と繰り返し強調していました。筆者が注目したのは、この理念が単なる標語ではなく、会議より訪問調査を優先するレベルまで現場に浸透している点です。木葉社長自身、事業部門のトップ時代にプロジェクトリーダーが会議を欠席した際、その理由が「消費者調査に行った」ことだと知り、上司である木葉氏が代わりに説明役を務めた、というエピソードを披露していました。一般的な日本企業では考えにくい発想ですが、これこそがP&Gの強さの源泉なのだと感じます。
アリエール、ファブリーズ、ジョイ、パンパース、レノア、パンテーン、ブラウン、SK-IIなど、日本の家庭に浸透しているブランドの多くがP&G製品です。ところが番組の冒頭で紹介された通り、消費者の多くは「P&G製品である」ことを意識せずに使っています。木葉社長はこれについて「アリエールを使うと匂いも汚れも落ちると理解していただく方が重要」と語り、ブランド価値の訴求に徹する姿勢を明確にしていました。会社名を前面に押し出さない謙虚さも、消費者ファーストの一つの表れといえるでしょう。
年間数十万人に聞き取り!P&Gの訪問調査が生む消費者理解の深さ
カンブリア宮殿で特に印象的だったのが、P&Gが徹底的に取り組む「訪問調査」です。P&G社員が消費者の自宅を直接訪ね、洗面所や台所まで立ち入って商品の使い方や家事のタイミングを聞き取ります。驚くべきはその規模で、年間でおよそ数十万人の消費者から話を聞いているとのこと。多い月には20軒、1日に5軒はしごすることもあるそうです。
さらに驚かされたのは、訪問時に「P&G社員である」ことをほとんどの場合名乗らないという点。これについて木葉社長は「P&Gと名乗ると、お客様が気を遣って良いことばかりおっしゃる可能性がある。バイアスを避けるためにあえて伏せている」と説明していました。番組MCのヒャダインさんが「ドラマの水戸黄門みたいですね」と例えていましたが、まさに正体を隠してこそ見えてくる本音があるのだと思います。
さらに特筆すべきは、訪問調査を外部委託せず、商品開発に直接関わらない研究員や経理・人事部門の社員まで参加させている点です。番組には入社23年目の研究員・二木麻衣さんが登場し、「科学を知っている身が消費者の困りごとを見ることで、なぜ困っているかの本質が理解できる」と語っていました。木葉社長は就任後、この機会を全社員に広げています。消費者調査を「専門家任せ」にしない姿勢こそ、P&Gが世界で勝ち続ける秘訣なのだと考えさせられます。
木葉慎介が生んだP&Gの大ヒット商品ジェルボール誕生秘話
P&Gのマーケティング術が具体的な形となった大ヒット商品が、2014年に日本で世界に先駆けて発売された洗濯洗剤「ジェルボール」です。1回分の洗剤をポンと洗濯機に入れるだけという手軽さで、今では家庭用洗濯洗剤のシェア2割を占めるまでに成長しました。
このジェルボール開発のきっかけこそ、木葉社長自身が訪問調査で得た気づきでした。液体洗剤をキャップで計量する際、どの家庭でも「ほんの少しこぼす」「投入口を汚す」という小さな出来事が起きていたのです。消費者自身は「洗濯とはそういうもの」と諦めていて、不満として表面化もしていませんでした。しかし木葉氏は、こぼれるたびに拭き掃除が発生し、それが洗濯の一工程になっていることに注目。「この煩わしさを丸ごと消せないか」と考え、5年がかりで開発に挑みました。
筆者がここで最も共感したのは、木葉社長の次の言葉です。「お客様が当たり前だと思って問題にすら取っていないことまで解決していけるような商品を作ることで、新しいイノベーションが生まれる」。誰かが不満を声に出してから応えるのではなく、顕在化していない潜在ニーズを掘り起こす――これこそ本質的なマーケティングの極意ではないでしょうか。その後、ジェルボールには消臭・抗菌効果も内包したタイプが加わり、進化を続けています(2024年には4層構造の「アリエール ジェルボール プロ」シリーズへリニューアル)。
ブランド別組織が強いP&G|JOY逆さボトル・さらさコラボの開発力
もう一つ、P&Gの強さを支える独自の仕組みが「ブランド別組織」です。一般的な企業は営業・製造・マーケティングといった機能別に部署が分かれていますが、P&Gでは「アリエールチーム」「JOYチーム」というように、ブランドごとに一つの事業体を形成しています。番組では食器用洗剤JOYチームのリーダー・常川翔平さん(入社8年目、32歳)が「いわばJOY会社の社長」として紹介されました。
この組織形態のメリットは、消費者ニーズに対する意思決定スピードが圧倒的に速いこと。木葉社長も「ブランドごとに承認者がいて、社長である僕が知らないうちに決まっていることも多々あります」と認めていました。むしろ、そうした分権的な運営こそが組織を健全に機能させているという考え方です。
この組織力が生んだ具体例として、番組では2つの商品が紹介されました。一つは「逆さJOY」。ボトルをひっくり返す一手間を省き、しかもキャップ不要で漏れない設計。もう一つが2026年2月に発売された、洗濯洗剤「さらさ」と食器用洗剤「JOY」のコラボ商品です。食器を洗うと手が荒れる、手袋を使うしかない――そんな声に応え、手肌への優しさと洗浄力を両立させました。このように、ブランド横断のコラボまで柔軟に実現できるのは、現場に権限が委ねられているからこそだと感じます。
P&Gの人材育成術「Day 1」と木葉慎介のワン・オン・ワン年間680人
マーケティング力と並んでP&Gが誇るのが、独自の人材育成法です。入社初日から裁量権を持って仕事に取り組む「Day 1(デイ・ワン)」という企業文化が存在します。番組では、入社1年目にもかかわらず部下9人を束ねる生産ラインのチームリーダーを任された増田穂さんが紹介されました。「1年目がこんなことをしていいのか」という不安もあったそうですが、周囲のサポートを受けながら確実に成長しているとのこと。
さらにP&Gは「トレーニング・カンパニー」とも呼ばれるほど研修に力を入れており、プレゼン方法から消費者への質問テクニックまで数百種類の研修を実践しているといいます。番組では管理職向けの研修で、木葉社長自らが英語で「ビジョンとは夢と現実の中間にあるもの」とプレゼンする場面が映されました。
そして、木葉社長が就任後に特に注力しているのが社員との「ワン・オン・ワン(1対1面談)」です。その規模が圧巻で、週15人、年間でおよそ680人もの社員と個別に対話しているとのこと。韓国赴任が決まった社員には家族の心配をし、シニア層の女性社員には「ポジションが上がるほど多くの人と頻繁に話した方が理解できる」と助言する姿が映されました。社員3500人のトップが、ここまで現場と向き合う姿勢は、大企業経営者としては異例だと感じます。
なお、2025年8月にはファブリーズお風呂用防カビ剤の広告表示で消費者庁から景品表示法違反(優良誤認)の措置命令を受けるという試練もありました。木葉社長は番組で「厳粛に受け止め、消費者庁と連携し再発防止策を実施している」と真摯に答えていました。このように順風満帆ばかりではない中で、人材育成に力を注ぎ続ける姿勢は注目に値します。
木葉慎介の経歴|35カ国を渡り歩いた生粋のマーケターの歩み
最後に、木葉慎介社長の経歴をまとめておきます。木葉氏は大阪府出身、関西学院大学総合政策学部卒業後、2001年にプロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インク(現P&Gジャパン)へ入社しました。
入社当初は英語も話せず、「3、4年頑張れればいい」程度の気持ちだったといいます。そこから25年、日本・シンガポール・スイスなどの拠点を渡り歩き、主な経歴は次の通りです。2005年にヘアケア担当ブランドマネージャー(日本)、2009年アジア太平洋・インド地域パンテーン担当ブランドマネージャー(シンガポール)、2010年ボールド担当ブランドマネージャー(日本)、2012年アジア太平洋・中国・台湾・香港地域洗濯洗剤事業アソシエートブランドディレクター(シンガポール)、2016年アジア太平洋地域柔軟剤/洗濯洗剤事業ディレクター、2018年グローバルデザイン兼インド・中東・アフリカ地域柔軟剤事業ディレクター(スイス)、2020年ファブリック&ホームケア日本・韓国事業統括責任者シニアバイスプレジデント。そして2025年4月1日、P&Gジャパン社長に就任しました。
過去15年間で訪問した国は35カ国。番組でも語られたフィリピンの柔軟剤エピソードが象徴的です。現地スタッフは「フィリピン人は香りが好きだから売れる」とだけ説明しましたが、木葉氏が実際に訪問調査に行くと、ムシムシした部屋の中で家族が「柔軟剤のいい香りで家族みんながハッピーになる」と語る姿を目にし、「香りが好き」の本当の意味を腑に落として理解したといいます。現地に足を運ぶ習慣がなければ決して得られなかった洞察です。
日本人のP&Gジャパン社長就任は、2015年に退任した奥山真司氏以来およそ10年ぶり。前任のヴィリアム・トルスカ氏(スロバキア出身)、さらにその前任はチェコ出身の社長だったとのことで、大阪出身の関西人社長の登場は社内でも大きなニュースとなりました。
まとめ
【カンブリア宮殿】で特集されたP&Gジャパン社長・木葉慎介氏のマーケティング術の核心は、「消費者がボス」という理念を徹底的に実践する文化にありました。年間数十万人への訪問調査、会議より消費者を優先する風土、ブランド別組織による意思決定の速さ、入社1年目から裁量を与える「Day 1」文化、そして社長自ら年間680人と対話するワン・オン・ワン――そのすべてが「消費者の本当の声を商品とサービスに還元する」ための仕組みとして機能しています。
木葉社長がジェルボール開発で示したように、消費者自身が気づいていない不満を解決することこそ、真のイノベーションです。35カ国を渡り歩いた現場主義のマーケターが率いるP&Gジャパンが、今後どんな新商品・新サービスを世に送り出すのか。金原ひとみさんの編集後記にあった「消費者がボス。そしてボスもボス」という言葉が示すように、私たち消費者もまたP&Gのマーケティングの担い手であるのかもしれません。これからのP&Gジャパンの動きに注目していきたいですね。
※ 本記事は、2026年4月16日放送(テレビ東京系)の人気番組「カンブリア宮殿」を参照しています。
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