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社会・暮らしの問題

【クローズアップ現代】ICC制裁はなぜ?トランプ政権と「最後の砦」

【クローズアップ現代】ICC制裁はなぜ?トランプ政権と「最後の砦」 kurogen-icc-sanctions-trump
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「トランプ政権はなぜICCそのものを制裁したのか」。2026年10月13日放送のクローズアップ現代は、ICC制裁の背景と揺らぐ法の支配を追いました。この記事では、元政権高官や元裁判官、専門家の証言から、制裁の中身と理由、日本の役割を整理します。読み終えるころには、遠い国のニュースを自分ごととして考えられるはずです。

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ICC制裁とは?トランプ政権が科した前代未聞の措置の中身

2026年10月9日、ノーベル平和賞が南アフリカ出身のナビ・ピレイ氏に贈られることが発表されました。ピレイ氏はICC(国際刑事裁判所)の元裁判官です。そのわずか数時間後、トランプ政権はICCという国際機関そのものを制裁対象に指定すると発表しました。

番組によれば、制裁の内容はアメリカを経由するすべての金融取引の原則禁止や、ICCの資産凍結などです。今後の活動が大幅に制限される恐れがあり、ICCにサービスを提供する企業まで影響が及ぶ可能性も報じられています。トランプ大統領はピレイ氏について「聞いたこともない人物だ」と切り捨てました。ルビオ国務長官も「ICCが手を引くか、我々がICCを解体するかだ」と強い言葉で迫っています。

アメリカは8月にも、ICCのトップである赤根智子所長を制裁対象にしていました。今回は「人」から「組織」へと矛先を広げたことになります。

裁判官個人への制裁でも十分に異例でしたが、組織そのものへの制裁は、裁判所の日々の運営を根元から揺さぶるものです。平和賞の発表とほぼ同時というタイミングにも、国際社会への明確な挑戦の意思が読み取れると私は感じました。

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トランプ政権がICC制裁に踏み切った理由|元高官が語る「国家主権」

トランプ大統領は9月の国連総会演説でも、ICCを「制御不能な組織」「邪悪な集団」と厳しく批判していました。なぜここまで敵視するのでしょうか。

番組で取材に応じたトランプ政権の元高官、フレッド・フライツ氏は、きっかけの一つとして2020年の出来事を挙げました。ICCが、アフガニスタンでの戦闘に加わったアメリカ兵の戦争犯罪について捜査を承認したことです。フライツ氏は、加盟していない裁判所が政府の同意なく自国民を逮捕するのは主権への重大な侵害だと語っています。

さらに一昨年の2024年、同盟国イスラエルのネタニヤフ首相に逮捕状が出されました。トランプ政権は去年公表した国家安全保障戦略で、国家主権の優位性を繰り返し強調しています。フライツ氏は「ロシアや中国には主権を譲れと言わないのに、なぜアメリカだけが求められるのか」という不満も口にしました。

「自国の兵士は自国で裁く」という主張だけを聞けば、うなずく方もいるかもしれません。ただ、この論理が本当に成り立つのかは、のちほど三牧聖子さんの解説で検証していきます。

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ICCとはどんな裁判所か|元裁判官・尾崎久仁子さんが語る設立の原点

ICCは、戦争犯罪や人道に対する罪を犯した指導者などの「個人」を裁く国際機関です。設立は24年前の2002年です。旧ユーゴスラビアの紛争やルワンダでの虐殺を受け、戦争犯罪を裁く常設の機関が必要だという声が高まったことが出発点でした。

2026年9月には、フィリピンのドゥテルテ前大統領が初めてICCの法廷に本人として姿を見せました。違法薬物の容疑者の殺害を主導した疑いなどで訴追されています。加盟は125の国と地域で、アメリカ、ロシア、中国は参加していません。

外交官として設立に関わり、のちにICCの裁判官を務めた尾崎久仁子さんは、冷戦後には自由や人権、民主主義が世界共通の価値になると多くの人が信じていたと振り返りました。

一方で尾崎さんは、安保理の常任理事国が自ら侵略に踏み切るような事態は想定していなかったとも語っています。ICCは強制捜査の権限を持たず、逮捕状を出しても執行が難しいからです。

いわば「警察を持たない裁判所」であり、加盟国の協力が生命線です。微妙なバランスの上に成り立つ仕組みが崩れかけているという尾崎さんの指摘は、関係者だからこその重みがありました。

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赤根智子所長の訴え「法の支配の最後の砦」とベネズエラの現実

所長の赤根智子さんは以前、ICCにできるのは事件を一つずつ地道に裁き、「ICCがあってよかった」という経験を積み重ねることだけだと語っていました。だからこそ「まどろっこしい」と言われるのだとも認めています。そのうえで、ICCは法の支配の最後の砦であり、被害者にとって最後の希望の光だと訴えました。

その真価が試されている現場の一つが、南米のベネズエラです。今年1月、トランプ政権は違法薬物でアメリカ国民が被害を受けたなどとして作戦を行い、マドゥーロ大統領を拘束しました。

アメリカで亡命生活を送るホセ・アントニオ・コリーナさんは、作戦前には「力で居座る体制は力で追い出すしかない」と介入に期待していました。しかし番組によれば、それから9か月たった今も旧政権の幹部や治安機関が権力を握り続けています。ICCは人道に対する罪の捜査を続けています。

コリーナさんは考えを改め、弾圧の証言や証拠を集めてICCに提出しています。「存在する限り希望は残されている」という言葉は、力による解決の限界を身をもって知った当事者だからこそ出てきたものだと思います。

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三牧聖子さんが読み解く「ICC解体」の実態とアメリカの主張の矛盾

スタジオでは、同志社大学大学院教授の三牧聖子さんが解説しました。三牧さんは、アフガニスタンをめぐる捜査は現在優先度が低く、アメリカ人に訴追の危険が迫っている状況ではないと指摘しています。主権を脅かされているという主張は相当な誇張であり、かえって「アメリカはまた戦争をするのでは」という懸念を国際社会に生んでいると述べました。

アメリカの主な主張は「非加盟国の国民がなぜ裁かれるのか」と「ICCには政治的意図がある」の2点です。

1点目について三牧さんは、ICCが無制限に裁くわけではないと説明しました。加盟国で起きた犯罪について、その国がきちんと裁かない場合に出番があるという仕組みです。2点目については、政治的意図があるなら大国の激しい反発を招く国家元首への逮捕状は出さないはずだと反論しました。法と証拠で判断しているからこそ、プーチン氏やネタニヤフ氏に逮捕状が出ているという見方です。

ルビオ長官が口にした「ICC解体」については、実際には難しいとしています。狙いは送金網や情報網を断ち、捜査や裁判をできなくする「機能不全」だという分析です。「まず各国が自分で裁く」という原則を知るだけで、ニュースの見え方がかなり変わると感じました。

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ICC脱退の動きが拡大|ナウルの表明とコロンビアの推薦取り下げ

国際社会・外交の緊張感

トランプ大統領は、すべての加盟国に対してただちに脱退するよう呼びかけています。国連演説と同じ日には、南太平洋のナウルのアデアン大統領が脱退の方針を表明しました。脱退に動き出した国は、ベネズエラ、チャド、ブルキナファソ、マリ、ニジェールにナウルを加えた6か国に及びます。

いま動向が注目されているのが、南米のコロンビアです。国際法の専門家、カロリーナ・オラルテ・バカレスさんは、今年12月のICC裁判官選挙に推薦されていました。しかし先月、政府が突然推薦を取り下げています。本人は何らかの圧力があったと推測できると語りました。

コロンビアでは、8月に左派政権から一転してトランプ大統領との関係強化を掲げる新政権が発足しました。元上院議員のアルフレド・ランヘルさんは、推薦の取り下げはICCと距離を置き脱退しようとする意思表示だと見ています。

市民の声も割れています。「処罰されない犯罪が多く、ICCは機能していない」という声がある一方で、「離脱すれば人権や正義が尊重されなくなる」と心配する声もありました。前者の不満は、強制力を持たないICCの弱さの裏返しでもあり、決して無視できないと私は思います。

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最大の資金拠出国・日本にできること|署名17万筆と慶應義塾大学の挑戦

大学の図書館で資料を開いて議論する若い学生たちの姿

制裁の発表直後、高市総理大臣は自身のSNSで深い懸念を表明しました。日本、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、オランダ、デンマークの8か国の外相も共同声明を出し、制裁に強く反対してICCへの支援を打ち出しています。アメリカを除くG7の国々が足並みをそろえた形です。

三牧さんは、日本は対米関係と法の支配の板挟みにあると指摘しました。そのうえで、「アメリカ人を裁かせるな」という要求はICCの普遍的な原則に関わるため譲歩の余地はなく、法の支配を守る国々と結束すべきだと語っています。

ICCに最も多く資金を拠出している日本では、市民の動きも広がっています。番組によれば、赤根所長への制裁撤回に向けた協議を政府に求める署名は17万4602筆に達しました。6月には慶應義塾大学に、ICCと協力する学術拠点「国際刑事司法研究所」が開設されています。

所長のフィリップ・オステン教授が力を入れるのが、アジアでのネットワーク作りです。アジア・太平洋地域では53の国と地域のうち、加盟は19にとどまっています。学生の中には「揺らいでいる今だからこそ、そこに所属する意味がある」とICCを志す人も出てきました。

三牧さんは、アメリカの世論にも目を向けるべきだと語りました。ICCへの制裁を支持する人は3割で、トランプ大統領の岩盤支持層と重なるといいます。ICCについて説明したうえで加盟の是非を問う調査では、6割が加盟すべきと答え、共和党支持者でも過半数を超えていたそうです。

今後の焦点は、11月末からのICC締約国会議、11月3日のアメリカ中間選挙、そして来年3月に赤根所長の任期が満了した後の人事です。三牧さんは、制裁の猶予期間となる180日の間に、ICCが捜査や証拠保全を続けられる準備を整えることが重要だと強調しました。

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まとめ

今回のクローズアップ現代は、トランプ政権によるICC制裁を通じて、戦後の国際社会が積み上げてきた「法の支配」が岐路に立っている現実を描きました。制裁の背景にある国家主権の論理、強制力を持たないICCの弱さ、そして脱退へ傾く国々の動きは、どれも簡単には片づけられない問題です。

それでも、ベネズエラの亡命者が力による解決の限界を知ってICCに希望を託したことや、日本の若い世代がICCを志していることは、確かな希望の光だと感じました。

ICCは悲惨な歴史への反省から生まれた仕組みです。元裁判官が語ったとおり、一度失えば二度と作れないかもしれません。最大の資金拠出国である日本の行動が、この180日間に問われています。

※ 本記事は、2026年10月13日放送のNHK「クローズアップ現代」を参照しています。

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