「大地震を事前に知ることができたら――」誰もが一度は思ったことのある願いに、リモートセンシング技術が答えを出しつつあります。2026年3月11日放送のBSテレ東「いまからサイエンス」では、千葉大学の服部克巳教授が、電離圏の異常から地震を3〜4日前に察知できる可能性を語りました。この記事では、番組で紹介されたリモートセンシングによる地震予測の仕組みや津波早期警報の最新研究、気象衛星ひまわりの驚くべき観測力まで、わかりやすくまとめています。
リモートセンシングで地震予測は可能か?電離圏に現れる前兆とは
2026年3月11日は、東日本大震災から15年の節目にあたる日です。この日に放送された「いまからサイエンス」では、まさに地震予測の最前線がテーマとして取り上げられました。
番組に出演した千葉大学環境リモートセンシング研究センターの服部克巳センター長は、電離圏(電離層)の変化を観測することで、大地震の前兆を捉えられることを明らかにしています。
具体的には、地上から80〜100キロ以上の高度に広がる「電離圏」と呼ばれる領域に、大きな地震の前になると電子密度の異常が現れるというのです。服部教授のチームが2011年の東日本大震災のデータを解析したところ、地震発生の3〜4日前に震源地上空で電子密度に明確な変化が起きていたことを突き止めました。
さらに驚くべきは、その再現性です。2000年から2010年の間に発生した大地震7例のうち6例で、同様の電離圏異常が確認されたといいます。約85%という高い確率で前兆が現れているわけですから、これは偶然とは言い難い数字です。
もちろん、現時点では「いつ・どこで・どの規模の地震が来る」とピンポイントで予測することはまだ難しい状況ですが、「こういうデータが出たら3日後から4日後に注意してください」といった形での警報は、将来的に実現できる可能性があると服部教授は語っています。
個人的に注目したいのは、地震の「予知」ではなく「予測」という表現を使っている点です。100%の的中を求めるのではなく、統計的な確率に基づいた情報提供として活用するという現実的なアプローチは、非常に説得力があると感じます。
そもそもリモートセンシングとは?気球から人工衛星への進化
リモートセンシングとは、その名の通り「遠くのものを感知する(remote+sensing)」技術のことです。人工衛星や航空機、ドローンなどに搭載したセンサーで、離れた場所から光や電磁波を捉えて地球の状態を観測・分析します。
番組では服部教授がその歴史を紹介してくれました。始まりは今から100年以上前、気球にカメラを載せて上空から地上を撮影するというもので、もともとは軍事目的で敵の位置を探るために使われていたそうです。そこから航空機、そして人工衛星へと観測の「高さ」が上がるにつれて、より広い範囲を一度に見渡せるようになり、現在の形に発展してきました。
センサーには大きく2種類あります。太陽光の反射や赤外線など、自然に発せられるエネルギーを受け取る「受動型」と、自ら電磁波を照射してその反射を受信する「能動型」です。最先端の能動型センサとして注目されているのが、マイクロ波を使った合成開口レーダー(SAR)です。
SARの画期的なところは、雲があっても、雨が降っていても、さらに夜であっても地表の様子を観測できる「全天候型」であること。従来の光学衛星では雲があると地表が見えないという致命的な弱点がありましたが、SARはそれを克服しました。日本でもこのSAR衛星を複数機上げて毎日同じ場所を観測できる体制が進められており、災害発生後の被害状況をいち早く把握できるようになってきています。
こうした「見えないものを見る目」が、災害対応だけでなく農業や環境モニタリングなど、幅広い分野で活用されているのがリモートセンシングの現在地です。
気象衛星ひまわりの観測力がすごい!2.5分に1回の高頻度データ
「ひまわり」と聞くと、天気予報でおなじみの気象衛星というイメージが強いかもしれません。しかし、番組で紹介された実力は、私たちの想像を大きく超えるものでした。
現在運用中のひまわり9号(ひまわり8号はバックアップとして待機中)は、地球全体を10分ごとに、日本周辺は2.5分間隔で撮影しています。番組で加藤浩次さんが「山手線ぐらいの頻度」と表現していましたが、まさにそのレベルです。10年ほど前のひまわり7号は1時間に1回の撮影だったことを考えると、その進化は劇的です。
ひまわりは約3万6000キロメートル上空の静止軌道に位置しています。一般の低軌道衛星が500〜1000キロ程度であることを思えば、ケタ違いの高度です。地球と同じ速度で回っているから常に日本を含む同じエリアを見続けることができるわけです。
この高頻度観測が科学研究にも大きなメリットをもたらしています。地球上では24時間のうち約6割が雲に覆われていますが、2.5分に1回撮影すれば、雲の切れ間をとらえて地表を観測できる確率が大幅に上がります。これにより、植生の日変化や季節変化をより正確に把握できるようになりました。
千葉大学では、ひまわりの観測データをリアルタイムに活用し、東南アジアの熱帯雨林の植生分析でも高精度な成果を上げています。従来の手法では太陽と衛星の位置関係の変化で正確なデータが得にくかったのですが、新手法でその角度を一定に保つことが可能になり、森林の状態変化をより的確にとらえることに成功しています。
「気象衛星」という名前に収まらない、地球観測のスーパー衛星。それが今のひまわりの姿なのです。
電離圏の揺らぎから津波を早期警報できる仕組み
服部教授の研究で特に実用性が高いと感じたのが、津波の早期警報への応用です。
仕組みを簡単に説明すると、まず海底で大地震が起きて津波が発生すると、海面が大きく持ち上げられます。この衝撃が音波のように上空に伝わり、5〜7分ほどで高度100キロ以上の電離圏に到達して、そこの電子を大きく揺らすのです。この電離圏の揺らぎをGPS衛星と地上の受信機で観測することで、「津波が発生したかどうか」を判定できるとされています。
現状の研究では、地震発生から約20分後に津波の発生の有無を判定でき、さらに電離圏の変位量から津波の高さも推定できる可能性があるとのことです。
既存の津波観測は、海に浮かべたブイや海底ケーブルの圧力計を使って津波の第一波が通過してから検知するものが主流です。電離圏モニタリングを組み合わせれば、これらの手法を補完し、津波情報の精度を高めることができるのです。
ただし、服部教授自身が番組で指摘していたように、この手法が有効なのは東北の日本海溝のように、ある程度沖合で発生する海溝型の地震に伴う津波です。2024年1月の能登半島地震のように、すぐ近くで発生した地震では津波の到達が早すぎるため、万能ではありません。それでも、南海トラフ地震のような海溝型巨大地震への備えを考えると、非常に心強い技術だと言えるのではないでしょうか。
服部克巳教授が発見した「地震3〜4日前の電離圏異常」とは
服部教授がこの研究分野に足を踏み入れたきっかけは、1995年1月17日の阪神・淡路大震災でした。当時20代半ばで、富山県立大学の工学部に助手として勤務していた服部教授は、テレビで見た被害の凄まじさに大きな衝撃を受けたそうです。
恩師からスタンフォード大学のフレイザースミス博士の論文を紹介されたことがきっかけで、電磁気的な手法で地震の前兆を捉える研究を始めました。その後、阪神大震災を機に国が立ち上げた「地震国際フロンティア」プロジェクトに参加し、理化学研究所で地磁気データの測定を本格化。以来、約30年にわたってこの分野の研究を続けてきた方です。
服部教授らが発見した現象のポイントは、大地震の3〜4日前に震源上空の電離圏で電子密度の異常パターンが現れるというものです。これは、地震の準備過程でプレートが何らかの変化を起こし、それに伴う電流や電場の変化が地上から電離圏まで影響を及ぼしているためと考えられています。
現時点での課題は、データの量が十分でないことです。電離圏にはいつも太陽活動に伴う波が飛び交っているため、地震由来のシグナルを正確に切り分ける作業が必要で、その精度を上げるにはさらなる観測データの蓄積が求められます。特に、現在は陸上のGPS受信機を使って観測しているため、海上のデータが不足しているのが課題です。
服部教授は5〜6年以内の実用化を目指しているとのこと。まずは賛同する方々に確率付きの情報を提供するところから始めたいと話していました。「地震予知は不可能」という常識を覆すかもしれない研究として、今後の進展に注目したいところです。
温室効果ガス観測衛星いぶきや農業への応用も進むリモートセンシング
リモートセンシングの活用範囲は、防災だけにとどまりません。番組ではそのほかの応用例もいくつか紹介されました。
まず、温室効果ガス観測衛星「いぶき」(GOSAT)です。これは環境省、国立環境研究所、JAXAが共同で推進するプロジェクトで、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスを宇宙から観測する世界初の人工衛星として2009年に打ち上げられました。光を分光スペクトルに分解して大気中の物質の濃度を測定する仕組みで、いぶきの観測データは気候変動対策の国際的な基礎資料としても活用されています。
服部教授によれば、コロナ禍で人間活動が制限された時期には、窒素酸化物の減少が衛星データからもはっきり確認できたとのこと。長年問題になっていた中国のPM2.5についても、長期観測の結果、徐々に改善傾向にあることがデータとして裏付けられています。人間の活動が地球にどう影響しているのかを、宇宙からの目で定量的に捉えられるのは、まさにリモートセンシングならではの強みです。
農業分野でも、衛星やドローンを使った「スマート農業」が進んでいます。植物の光合成の状態を色で可視化することで、作物の健康状態や病害虫の発生、土壌の水分状態などを把握し、収穫量の予測にもつなげられるそうです。広大な農場を人の目だけで管理するのは限界がありますが、リモートセンシングを活用すれば効率よく精密な管理ができるようになります。
こうして見ると、リモートセンシングは私たちの暮らしのあらゆる場面に静かに浸透しつつある技術だと実感します。
まとめ
2026年3月11日放送の「いまからサイエンス」で紹介されたリモートセンシングの世界は、まさに「天空からの科学の目」と呼ぶにふさわしいものでした。
番組の核心は、服部克巳教授が率いる千葉大学の研究チームによる、電離圏の観測から地震の前兆を捉えるという画期的な研究です。大地震の3〜4日前に電離圏に現れる電子密度の異常、約20分で津波発生の有無を判定できる可能性――これらの研究が実用化されれば、防災のあり方が根本から変わるかもしれません。
服部教授がサイエンスとは「挑戦」だと語っていたのが印象的でした。一つ解決するとまた新しい謎が出てくる。その繰り返しに諦めず向き合い続ける。阪神大震災から30年以上をかけて地道に積み上げてきた研究が、今まさに実を結ぼうとしている段階です。
東日本大震災から15年を迎えた日に放送された今回の内容は、改めて科学の力で命を守ることの意味を考えさせてくれるものでした。リモートセンシングが私たちの未来をどう変えていくのか、引き続き注目していきたいと思います。
※ 本記事は、2026年3月11日放送(BSテレ東)の人気番組「いまからサイエンス」を参照しています。
※ 千葉大学環境リモートセンシング研究センター公式サイトはこちら。



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