2026年3月25日放送(2025年2月5日初回放送の再放送)のBSテレ東「いまからサイエンス」に、JAMSTEC高知コア研究所の隕石ハンター・富岡尚敬上席研究員が登場しました。恐竜絶滅の原因となった巨大隕石の真相から、はやぶさ2が持ち帰ったリュウグウの試料が示す「地球の水の起源」、そして奥様のサイエンス誌表紙を飾る大発見まで、番組の見どころをギュッと凝縮してお届けします。この記事を読めば、隕石研究の最前線がまるごと分かりますよ!
隕石が語る恐竜絶滅の真相!直径10kmの衝突で何が起きたのか
番組で加藤浩次さんが真っ先に切り込んだのが、やはり「恐竜の絶滅は隕石で確定なのか?」という疑問でした。
富岡尚敬先生の答えは明快で、「確定してますね」とのこと。かつては巨大火山説と巨大隕石説の間で長く議論が続いていましたが、2010年に科学的な決着がついています。結論は巨大隕石の衝突であり、その落下地点がメキシコ・ユカタン半島にあるチクシュルーブ・クレーターです。
では、どれほどの大きさの隕石だったのでしょうか。富岡先生によると、地球上にほとんど存在しないレアな元素「イリジウム」の量から逆算すると、衝突した隕石の直径はおよそ10kmと見積もられています。地球の直径が約1万2000kmですから、スケール的には「粒」のようなものです。加藤さんも「全然デカくないですね!」と驚いていましたが、問題はそのエネルギーです。
富岡先生は2016年に世界の科学者約30人が集結したチクシュルーブ・クレーターの掘削プロジェクトに参加し、800メートル以上の掘削を行って衝突の痕跡を詳しく調べました。その結果、衝突地点の地層には硫黄を多く含む岩石があり、隕石がぶつかった際に大量の酸化硫黄が放出されたことが判明しています。このガスがエアロゾルとなって地球全体を覆い、太陽光を遮断したのです。
シミュレーションの結果、地球全体の地表温度が約20度も低下し、その寒冷化が約30年も続いたと見積もられています。恐竜を含む当時の生物の7割以上が死滅したというのですから、まさに壊滅的な環境変化だったわけですね。
一方で興味深いのは、その後の回復の速さです。爆心地付近ではほぼ全ての生物がいなくなったにもかかわらず、掘削試料を調べると約6年ほどでプランクトンが堆積し始めていたそうです。海中は地上に比べて温度変化が少なく、生物にとって「避難所」のような役割を果たしていたのかもしれません。ちなみに、チクシュルーブ級の衝突が起きる頻度はおよそ100万年に1回とのこと。我々の世代は安心できそうですが、地球のタイムスケールでは「いつか」必ず起こりうる出来事なのです。
個人的に驚いたのは、たった直径10kmの天体が、直径1万2000kmの惑星の環境をここまで激変させるという事実です。高速で衝突した際のエネルギーは想像を絶するもので、サイズだけで危険性を判断できないという教訓は、現代の小惑星監視の重要性を改めて実感させてくれます。
隕石ハンター富岡尚敬とは?新鉱物発見とポワリエライトの衝撃
富岡尚敬先生は、JAMSTEC(海洋研究開発機構)高知コア研究所に所属する上席研究員で、「隕石ハンター」の異名を持つ方です。JAMSTECといえば「しんかい6500」など海洋研究のイメージが強いですが、太古の昔に地球に衝突した隕石が海を作ったと考えられていることから、隕石研究も行われているのです。
番組でスタジオに持ち込まれたのが「テンハム隕石」。1879年にオーストラリアに落下した石質隕石で、購入時はグラム500円ほどだったそうです。ところが、この隕石からさまざまな新鉱物が見つかったことで価値が上がり、現在はグラム約5000円に。なんと10倍です。加藤さんの「先生が上げたんですか」というツッコミには笑いましたが、まさにその通りなのですね。
富岡先生が命名権を得た新鉱物は2つあります。一つは「秋本石」で、日本の高圧地球科学のパイオニアである秋本俊一先生にちなんだもの。もう一つが「ポワリエライト」で、1980年代にこの鉱物の存在を理論的に予測していたフランスのジャン・ポール・ポワリエ教授の名前から命名されました。2021年に国際鉱物学連合に正式に認定されています。
これらの鉱物は、隕石の薄片に見られる「衝撃溶融脈(ショックベイン)」と呼ばれる黒い筋の中から、透過電子顕微鏡を使って発見されました。数万倍から数十万倍の倍率で、わずか数ミクロンの高圧鉱物を探し出すのですから、まさに職人的な技術と根気の世界です。
特に注目すべきは、ポワリエライトが地震研究にも応用できる可能性があるという点です。海洋プレートが地球内部に沈み込んでいく過程で、ペリドット(かんらん石)が高圧下でポワリエライトに変化すると、プレートの挙動に影響を与え、場合によっては断層を作って地震を引き起こす可能性があるというのです。富岡先生自身も16万気圧の実験でペリドットからポワリエライトを生成することに成功しており、今後の研究次第では地震予知の手がかりになるかもしれません。
隕石の中のナノサイズの鉱物が、巨大な地球の内部ダイナミクスを読み解く鍵になる。このスケールのギャップがたまらなく面白いですよね。
はやぶさ2×リュウグウが解明した「地球の水の起源」
番組で語られたもう一つの大きなテーマが、「地球の水はどこから来たのか」という根源的な問いです。
2020年に小惑星探査機はやぶさ2が持ち帰った小惑星リュウグウの試料(約5グラム)を、富岡先生らのチームが分析しました。その結果、リュウグウの鉱物の結晶構造の中に水酸基(水素と酸素)が含まれていることが確認されたのです。これは液体の水そのものではありませんが、加熱するとH2O(水)として放出されるもので、まさに「水の元」と言えるものです。
富岡先生の説明によれば、地球ができたばかりの頃は太陽に近く高温だったため、水分は蒸発して「カラカラ」の状態だったと考えられています。そこにリュウグウのような水を含んだ鉱物を持つ隕石が次々と衝突し、水がもたらされた。さらに場合によっては有機物も運ばれ、生命の元になった可能性すらあるというのです。
つまり、私たちが毎日飲んでいる水も、原始の地球を潤した隕石に由来するものかもしれない。それだけでなく、大気の形成にも隕石の衝突が関わっているとのこと。もし隕石がぶつかっていなければ、地球は水も大気もない「カラカラの惑星」だった可能性がある。この壮大なストーリーには、正直ゾクッとしました。
そして富岡先生が今、心待ちにしているのが、NASAの探査機オサイリス・レックスが2023年に持ち帰った小惑星ベンヌの試料です。ベンヌはリュウグウと似た組成で、やはり水を含む粘土鉱物が豊富な天体ですが、回収されたサンプル量はリュウグウの10倍以上にあたる100グラム以上。富岡先生のもとにも間もなく届く見込みとのことで、さらに新しい発見が期待されています。
はやぶさ2とオサイリス・レックス、日米の宇宙探査の成果が合流することで、地球と水と生命の起源という人類最大の謎に、一歩ずつ近づいている。こうした地道な積み重ねこそ、まさにサイエンスの醍醐味ではないでしょうか。
富岡尚敬の奥様・恭子さんがサイエンス誌表紙を飾った大発見
番組の後半で明かされたのが、富岡尚敬先生の奥様もまた世界的に注目される研究者だという事実です。
奥様の恭子さん(高知大学海洋コア国際研究所 特任講師 萩野恭子さん)は、円石藻(えんせきそう)という植物プランクトンの研究者。中でも、培養が極めて困難とされていた「ビゲロイ」という種に10年近くにわたって挑み続けました。年に1週間ほどしか出現しないこのプランクトンを、何十回も海に通ってサンプルを採取しては培養を試みるという気の遠くなるような作業を重ね、ついに世界初の培養に成功したのです。
この培養成功によって明らかになったのが、ビゲロイが「窒素固定」を行っているという事実。窒素固定とは、大気中の窒素を取り込んで利用すること。従来、この能力は一部の原核生物(バクテリア)だけが持つとされていたため、真核生物でこの能力が確認されたのは世界初の大発見でした。
この成果は2024年にScience誌に掲載され、その年の「科学10大ニュース(ブレイクスルー・オブ・ザ・イヤー)」の一つに選出。しかも表紙を飾るという快挙を成し遂げました。
驚くべきは、恭子さんの研究の多くが自宅の一室に設けられた「自宅ラボ」で行われていたということ。顕微鏡やクリーンルーム、培養装置など、車が2台買えるほどの設備を私費で整えたそうです。培養という性質上、いつでも作業できる環境が必要だったためですが、研究への情熱がなければ到底できない決断でしょう。
ご夫婦の関係性も素敵でした。富岡先生は「同じ研究者なので考えるところは共通で、愚痴も言える。でも分野が近すぎないから変なライバル心がない」と語っていました。お互いの専門が違うからこそ、素直に相手の成功を喜べる。「分野が違うとアラも目立たない」という一言には、研究者夫婦ならではのユーモアを感じました。
ちなみに、お二人の出会いは北海道大学の博士課程時代。恭子さんは高知大学出身で、博士課程で北大に進学した際に出会い、博士号取得後すぐに結婚されたそうです。その後、夫婦でアリゾナ州立大への短期留学も経験されています。まさに二人三脚で歩んできた研究人生ですね。
まとめ
今回の「いまからサイエンス」は、隕石というたった一つのテーマから、恐竜絶滅の謎、地球の水の起源、新鉱物の発見、そして生命の進化に関わる大発見まで、実に多彩な科学の世界が広がる回でした。
富岡尚敬先生が番組の最後に語った「サイエンスとはジャングルである」という金言が印象的です。道なき道を経験と嗅覚を頼りにさまよい歩く。迷いながらも、道々で珍しい発見にニコッとする。しかしジャングルの向こうには大きな道が控えていて、それを目指して進んでいく。研究者の日常を、これほど鮮やかに表現した言葉はなかなかないのではないでしょうか。
もともと天文学者を目指しながら数学と物理で留年した経験、恩師・藤野清志先生との出会い、そして「顕微鏡でできる天文学」として隕石研究に辿り着いた半生もまた、ジャングルを歩くような道のりだったのだと思います。
隕石は、宇宙から届いた46億年分の手紙のようなもの。その手紙を一通一通丁寧に読み解いていく富岡先生ご夫妻の研究に、これからも注目していきたいですね。
※ 本記事は、2026年3月25日放送(2025年2月5日初回放送の再放送)のBSテレ東「いまからサイエンス」を参照しています。
※ JAMSTEC(海洋研究開発機構)の公式サイトはこちら



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