2026年3月31日放送のNHK「クローズアップ現代」では、事実上の封鎖が続くホルムズ海峡の最新情勢と、日本への影響が特集されました。原油やLNGの供給危機、ナフサ不足による化学メーカーの減産、電気料金の値上がり懸念など、私たちの暮らしに直結する問題が山積しています。この記事では、番組の内容をもとに、封鎖の長期化がもたらす影響と今後の見通しをわかりやすくまとめました。
ホルムズ海峡封鎖で日本への影響は?原油・ナフサ・LNGの供給危機

2026年2月28日、アメリカとイスラエルがイランに対して軍事攻撃を開始したことをきっかけに、ホルムズ海峡は事実上の封鎖状態に陥りました。この海峡は世界の海上原油輸送の約20%が通過するエネルギーの大動脈であり、封鎖の影響は一気にグローバルな問題へと拡大しています。
番組では、原油の輸送やエネルギー施設の被害データを独自に収集し、専門家とともに読み解く試みがなされていました。元アメリカ政府高官は「最悪の場合、世界は数年にわたりエネルギーの壊滅的な供給不足に陥る」と警告しており、事態の深刻さがうかがえます。
日本にとって特に打撃が大きいのは、原油輸入の約9割を中東に依存しているという構造的な脆弱性です。加えて、石油化学製品の原料である「ナフサ」、火力発電の燃料である「LNG(液化天然ガス)」も中東への依存度が高く、封鎖の長期化は私たちの暮らしのあらゆる面に波及しかねません。
個人的には、今回の事態で改めて痛感したのは、「エネルギーの安定供給」というのは空気のように当たり前に感じてしまうものだけれど、実は極めて脆い基盤の上に成り立っているということです。
封鎖の現状|タンカー95隻が足止め・日本向け原油7日分が滞留

番組では、船舶の動きと積み荷のデータベースをもとにした独自分析が紹介されました。ペルシャ湾内に取り残された原油タンカーは95隻にのぼり、そのうち日本に向かうはずだったタンカーは確認できただけで6隻。積載している原油の量は合わせて1185万バレルで、通常ホルムズ海峡から運ばれる量の約7日分が滞留している計算です。
中東の産油国はパイプラインを活用し、ホルムズ海峡を迂回する輸出ルートの強化を進めています。番組放送の2日前(3月29日)には、戦闘開始後初めて紅海経由のルートでタンカーが日本に到着。太陽石油の四国事業所長は「無事に原油を受け入れられることに安堵している」と語っていました。
ただし、迂回ルートで日本に向かっている原油は約550万バレル程度にとどまっており、船舶・エネルギーデータ分析企業ケプラーのアナリスト・鳥潟ゆうい氏は「非常に少ない量」と指摘しています。
さらに深刻なのは、イランの支援を受けるイエメンのフーシ派が3月28日に戦闘に参加したことです。バブルマンデブ海峡を経由するサウジアラビアの迂回ルートにもリスクが及んでおり、田中浩一郎教授(慶應義塾大学大学院)は「飛車角両方に対する睨みを利かせている状態だ」と表現していました。この将棋の比喩は、まさに今のイランの戦略的ポジションを的確に言い当てていると感じます。
一方で注目すべきは、イランが一部の船舶にはホルムズ海峡の通過を認めているという事実です。通過したタンカーは中国やインドなどに向かっており、イランの原油輸出量は戦闘開始後も減っていないどころか、過去最高値に近い水準で推移しているとのこと。つまりイランは「全面封鎖」ではなく、「選択的な封鎖」によって外交カードを使い分けているわけです。
ナフサ不足で化学メーカーが減産へ|プラスチック製品4割値上げも

番組が取り上げたもう一つの大きなテーマが、ナフサ不足の問題です。ナフサとは原油から精製される液体で、ガソリンと似た成分を持っています。そしてこのナフサこそが、プラスチック、化学繊維、紙おむつ、医療機器、自動車部品など、私たちの身の回りのあらゆる製品の原料になっているのです。
大手化学メーカーの三井化学は、ナフサからプラスチックの原料となるエチレンを製造していますが、3月にはエチレンの減産に踏み切りました。原料のナフサのおよそ4割を中東から輸入しており、供給が滞ることを見越した先手の措置です。実際、日経新聞などの報道によると、三菱ケミカルグループも茨城の生産設備で減産を開始しており、出光興産も停止の可能性を取引先に通知しています。
番組に出演した三井化学市原工場の阿部真二工場長は、ナフサについて「自動車のガソリンと同じような成分で、無色透明の液体」と説明。装置を一度止めてしまうと再稼働に2週間かかるため、早い段階での稼働調整が将来的な安定供給につながるという判断です。
影響はすでに川下の企業にも及んでいます。食品や化粧品のプラスチック容器を製造するマサキ工業の金井俊助社長によれば、ナフサ由来のポリエチレンの仕入れ価格が4月からおよそ4割値上げされると仕入れ先から連絡があったとのこと。現在1キロ250円で仕入れているポリエチレンが大幅に上がれば、製品1個あたり2~3円のコスト増になります。確保できている在庫は5月分まで。さらに供給量自体を制限する可能性も示唆されており、「最悪の場合は全然入ってこない事態も考えられる」と危機感をあらわにしていました。
正直なところ、ナフサという言葉自体、多くの方にとって馴染みが薄いのではないでしょうか。しかし、食品の包装フィルム、シャンプーのボトル、子どものおむつ——こうした日用品のほぼすべてがナフサを起点としたサプライチェーンの上に成り立っています。ナフサの供給が滞れば、ガソリン価格以上に幅広い値上げの波が押し寄せることになるのです。
LNG高騰で電気料金にも影響|JERAは石炭使用拡大の構え

封鎖の影響は、電気料金にも及びつつあります。日本の火力発電で最も多く使われている燃料がLNG(液化天然ガス)ですが、カタールにある世界最大規模のLNG生産施設がイランの攻撃を受け、操業が一部停止しています。
エネルギー経済社会研究所の松尾豪代表は、衛星画像を分析した結果、施設の主熱交換器付近に攻撃が命中した可能性を指摘し、「全損に近い被害を被っていると思う」と述べていました。
日本最大の発電事業者JERAは、供給する電力のおよそ7割をLNGに依存しています。ホルムズ海峡経由で輸入しているLNGは日本全体で約6%にすぎませんが、問題はそこではありません。田中浩一郎教授が指摘したように、カタールとUAEが世界市場に供給しているLNGは約20%を占めており、両国からの供給が欠けた今、世界中でLNGの争奪戦が起きているのです。
JERAの燃料供給統括部・中村玲子統括部長は、スポット市場でのLNG価格が20ドル台前後まで高騰していることを明かし、「価格の高騰がタイムラグを経て電気料金に影響する」と語っていました。
注目すべきは、JERAの奥田久栄社長が「LNGより調達コストの低い石炭の使用を増やす必要がある」と明言したことです。脱炭素に逆行する判断ではありますが、「安定供給は社会のシステムを守り、皆さんの命を守る上で一番大事」という言葉には、電力インフラを預かる経営者としての覚悟が感じられました。実際、日本政府も3月27日に非効率石炭火力の稼働率引き上げを4月から1年間容認する方針を示しており、国としても「背に腹は代えられない」状況になっています。
エネルギーの安全保障と脱炭素の両立——この難題が、今まさに現実の選択として突きつけられているわけです。
封鎖はいつまで続く?田中浩一郎教授が長期化の見通しを解説
番組では、イラン情勢とエネルギー安全保障に詳しい田中浩一郎教授(慶應義塾大学大学院)が、今後の見通しについて解説しました。
まず軍事面について。トランプ大統領は軍事作戦の期間を「4~6週間」としていますが、同時にカーグ島の制圧も示唆しています。田中教授は、海兵隊を乗せた強襲揚陸艦「トリポリ」がすでに中東軍の作戦領域に到着している事実を踏まえ、ホルムズ海峡近辺のラーラク島やケシュム島への攻略作戦は「確実にある」と断言していました。
一方でイラン側は、アメリカの一方的な要求を「白旗をあげて降参しろと言ってきているようなもの」として受け入れる姿勢を見せていません。さらにアメリカとイスラエルの思惑が異なるという複雑な構図もあり、仮に米イラン間で合意があったとしても、イスラエルが攻撃をやめない懸念をイランは抱いていると田中教授は分析していました。
エネルギー供給への影響について、ケプラーの鳥潟ゆうい氏は「仮に明日ホルムズ海峡が通れるようになったとしても、少なくとも3か月から6か月は影響が続く」と指摘。生産能力を元に戻すまでの時間を考慮すると、半年から1年近くは甚大な影響が続くとの見方を示しました。
田中教授も、原油備蓄の取り崩しを始めた段階で節約や節電を打ち出すべきだったのではないかと提言。さらに「日本がどうしようとも、他国でのサプライチェーンが崩れれば、付き合わざるを得なくなる」と、グローバル経済の中での日本の立場を冷静に分析していたのが印象的でした。
日本のエネルギー対策と各国の動き|省エネ・節電は必要か

封鎖の長期化を受け、各国はすでに具体的な行動に出ています。フィリピンは国家非常事態宣言を発令。韓国は全国的な省エネキャンペーンとして「充電は日中に」「シャワーの時間を短縮して」と国民に呼びかけています。エジプトは街灯を制限し、夜9時以降の閉店を義務付けるなど、踏み込んだ措置を取っています。
一方、日本はどうでしょうか。赤沢経済産業大臣は3月31日の放送当日、「経済に大きく支障が出ない形での需要対策も検討している」と明らかにしました。しかし田中教授は、すでに節電や省エネを打ち出すべき段階に来ていると指摘。「確実にやってくるのに、ビジネス・アズ・ユージュアルでは済まない」という言葉は重く響きます。
大手化学メーカーの幹部(勤続40年)も、「まさかこういうことが起きるとは全然思っていなかった」と率直に語っており、日本の産業界にとっても想定外の事態であることがわかります。中東以外からのナフサ調達には、物流の混乱や品質の問題、タイミングの遅れなど多くの課題があり、すぐに切り替えられるものではありません。
率直に言って、日本の対応は各国と比べるとやや慎重すぎる印象を受けます。もちろん経済へのブレーキを避けたいという判断は理解できますが、田中教授が指摘するように、グローバルなサプライチェーンが崩れれば、日本一国の努力だけでは対応しきれない事態に陥ります。1973年のオイルショック時の教訓を踏まえれば、早めに国民への情報提供と協力の呼びかけを行うことが、パニック的な混乱を防ぐ最善策ではないでしょうか。
まとめ
2026年3月31日放送のクローズアップ現代では、ホルムズ海峡封鎖の長期化が日本の暮らしや経済にどのような影響を及ぼすのかが、データと専門家の分析をもとに多角的に掘り下げられました。
ペルシャ湾内に滞留するタンカー95隻、日本向け原油7日分の停滞、ナフサ不足による化学メーカーの減産、プラスチック製品の4割値上げ、LNG高騰による電気料金への波及——どれも私たちの日常に直結する深刻な問題ばかりです。
田中浩一郎教授が「ビジネス・アズ・ユージュアルでは済まない」と語ったように、この危機はもはや「中東の問題」ではなく、私たち一人ひとりの暮らしの問題です。まずはこの現状を正しく知ること、そしてエネルギーの使い方を見直すこと。今できる一歩を踏み出すきっかけとして、番組の内容をぜひ参考にしていただければと思います。
※ 本記事は、2026年3月31日放送の人気番組、NHK「クローズアップ現代」を参照しています。


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