「雑草は抜いても抜いても、すぐにまた生えてくる」。そんな庭掃除の悩みを抱えていませんか。2026年6月10日にBSテレ東で放送された『いまからサイエンス』では、雑草研究の第一人者・稲垣栄洋教授が、雑草が抜くほど増える理由と、夏に向けて庭掃除がぐっと楽になる新常識を解説しました。この記事を読めば、雑草の意外な生き残り戦略がわかり、明日からの草取りがきっと変わります。
雑草は「抜けば抜くほど増える」?いまからサイエンスが伝えた庭掃除の新常識
まず、多くの方が驚いたのが「雑草は草むしりすればするほど増える」という話ではないでしょうか。一生懸命抜いたのに、なぜか前より生えてくる。あの徒労感には、きちんとした理由がありました。
ポイントは「光」です。野菜や花の種は土に埋めれば芽を出しますが、雑草の多くは種に光が当たることが発芽のスイッチになっています。つまり、私たちが草むしりをして土をひっくり返すと、土の中に光が差し込み、「周りの植物がいなくなった、今が芽を出すチャンスだ」という合図を雑草の種に送ってしまうのです。稲垣先生いわく、土の中で待っていた種が、その光で一斉に芽を出してくるというわけです。
さらに巧妙なのが「ミチタネツケバナ」という雑草です。草むしりをしようとした人間の勢いを利用して、パチパチと種を弾き飛ばします。種が服につけば、人が動くたびに運ばれていく。つまり、草取りをする人間そのものを「種の運び屋」にしてしまうのです。先生は「抜かれなければ増えない」とまで言い切っていました。良かれと思ってやっていた草取りが、雑草にとっては「思うツボ」だった。敵だと思っていた相手に、こちらの行動を完全に読まれていた――。筆者はここに、雑草という植物の不気味なほどの賢さを感じました。
「雑草魂」の本当の意味とは|稲垣栄洋が明かす“頑張らない”生き残り戦略
番組のもう一つの軸が、「雑草魂」という言葉の誤解です。私たちは「踏まれても踏まれても立ち上がる」を雑草魂だと思い込んできました。MCの加藤浩次さんも「雑草魂で50年ほど頑張ってきた」と語っていましたが、稲垣先生はこれを「当てはまらない」とばっさり否定します。
理由はシンプルです。植物にとって一番大切なのは、花を咲かせて種を残すこと。だとすれば、踏まれるたびに立ち上がるのは、ただのエネルギーの無駄遣いになってしまいます。本当に大事なのは、踏まれながらでも一つでも多く花をつけ、一粒でも多く種を残すこと。先生が考える本当の雑草魂とは、「踏まれても立ち上がる」のではなく「踏まれても花を咲かせ、種を残す」ことなのです。
番組のテーマである「頑張らないから生き残る」という言葉が、ここで効いてきます。がむしゃらに頑張るのではなく、何が一番大事かを見失わない。個人的には、これは私たちの仕事や人生にもそのまま刺さる視点だと感じます。立ち上がること自体が目的になっていないか、と問い直させてくれる言葉でした。
雑草は本当は「弱い植物」だった|競争から逃げた撹乱適応型の戦略
意外なことに、雑草は「強い植物」ではありません。むしろ自然界では競争にとても弱い植物だと稲垣先生は言います。本当に深い森の中には、雑草は入っていけないのです。雑草とは、強い植物たちとの競争から逃げた植物だったのです。
番組では、植物の生き残り戦略が三つに分類されていました。一つ目は、スギなどの巨木に代表される「競合型」。植物は光と水の奪い合いなので、大きく根を張り、上に伸びるほど強くなります。二つ目は、サボテンのような「ストレス耐性型」。雨が降るまでひたすら耐え続ける我慢強さで生き残ります。そして三つ目が、雑草の方向性である「撹乱適応型」。これは、予測不可能な変化を乗り越える力に特化した戦略です。街に暮らす植物は、いつ踏まれるか、いつ草取りされるか分からない。その予測不能な環境にこそ、雑草は適応してきたのです。
雑草の祖先が現れたのは氷河期ごろと言われています。その後、環境を激しく変える生き物が登場します。人類です。森を切り拓き、畑を作り、水を引く。人間が生み出した新しい環境にうまく入り込める性質を「雑草性」と呼び、その性質を持つ植物が雑草とされます。日本には500〜600種類、世界でも3000種類ほどしかないそうです。番組では「ポケモンが1000種類いると言われている」ことと比べ、雑草になれるのは限られた“選ばれた植物”だと表現していました。弱いからこそ、人間の隣という特殊な場所を選んで進化した。この発想の転換が、この回の最大の面白さだと思います。
エノコログサ・オナモミに学ぶ雑草の生存戦略|種に隠された工夫
雑草の生き残り戦略は、種一つひとつにまで仕込まれています。番組で紹介された具体例は、どれも舌を巻くものでした。
たとえば、猫じゃらしの名で親しまれる「エノコログサ」。その種は、お風呂の床のような撥水構造を持ち、雨が降ってもすぐには濡れません。さらに「お風呂の栓」のような構造があり、これが抜けると水が入り込んで芽を出します。育った環境によって種の濡れ具合が違うため、栓が外れる時期もバラバラになり、結果として発芽のタイミングがランダムにずれていく。一斉に芽を出して全滅するのを避ける、見事な“時間差攻撃”です。
ひっつき虫として知られる「オナモミ」も独特です。一つの実の中に、早く芽を出す種とゆっくり芽を出す種の二種類が入っています。早い種が失敗しても、遅い種が控えている。よくくっつく「コセンダングサ」も、長い種と短い種の二種類を持っています。稲垣先生の言葉を借りれば、「戦う場所や得意は絞り込むけれど、戦うオプションは減らさない」。タンポポの綿毛が高速道路や線路沿いで風を利用して広がること、地下茎を伸ばす雑草がアスファルトを破って出てくることも紹介されました。弱さを補うための引き出しの多さに、ただ感心するばかりです。
夏の庭掃除が楽になる!雑草を「抜かない」新常識と踏圧ロボット
ここからは実践編です。雑草を「抜かない」とは、具体的にどうすればよいのでしょうか。
稲垣先生が以前から提案しているのが、根こそぎ取らずに「少し高めに刈る」方法です。最近の草刈り機は根元の土まで削るように刈れますが、これは雑草の反発が強くなるそう。少し残してやると、草刈りに弱い雑草も生き残り、お互いが干渉し合って比較的伸びにくくなるのです。根から抜くと土に光が当たり、土の中で眠っていた種を起こしてしまう。だからこそ「寝た子を起こさない」ように、上だけそっと払うのがコツだといいます。
そして番組後半の目玉が、企業と共同開発した「踏圧ロボット」です。これは草を抜くのでも刈るのでもなく、前についたブレードで上に伸びる草を踏みつけるという新発想のロボット。踏まれ続けるとクローバーのように横へ伸びる雑草が優勢になり、厄介な伸びる草が減っていきます。すでに飛行場で稼働しているそうで、草を刈ると刈った草が舞い、虫が出て鳥が集まりバードストライクの原因になる、という問題を踏むことで回避できるとのこと。果樹園や太陽光パネルの下(コードをカッターで切らずに済む)でも活用が研究され、さらなる小型化・軽量化も進めているそうです。雑草を完全になくすのではなく、悪い雑草を減らして“管理(マネジメント)”するという発想は、夏の庭仕事に追われる私たちにこそ響くのではないでしょうか。
雑草戦略は人生・ビジネスにも効く?先が見えない時代の生き残り戦略
雑草の戦略は、植物の話にとどまりません。番組では、加藤さんが自動車産業の話を持ち出しました。今は同じ車種でも、ガソリン、ディーゼル、ハイブリッド、EVと複数のバージョンを用意し、トヨタに至っては水素まで備えている。どれが生き残るかを見極めるその姿勢は、二種類の種を残すオナモミとそっくりだと稲垣先生も同意します。
先生いわく、「答えがあるなら答えをやればいい。けれど雑草は答えのない環境にいるので、自分ではどれがいいと決めず、全部の選択肢を持っておく」。今これがいいと思っても、明日には変わってしまうかもしれない。だからこそ「先が見えない時代の戦略は雑草戦略」なのです。
さらに先生は、雑草から学んだ教訓として「タイミングとスピード」を挙げます。種の中でじっと待ち、その時が来たら一気に花を咲かせる。そして、土の中の種や地下茎のように「見えない部分での成長」を大切にする。大きなリスクを背負わず、小さなチャレンジを繰り返す。これらは、不確実性が増す今の時代を生きる私たちにとって、そのまま実践的なヒントになります。筆者は、派手にアピールするより見えないところで根を張る、という先生の言葉に、静かな説得力を感じました。
稲垣栄洋とはどんな研究者?経歴と雑草研究に進んだきっかけ
ここで、稲垣栄洋先生の経歴にも触れておきましょう。先生は1968年に静岡市で生まれ、農学博士として雑草生態学を専門にしています。雑草に関する著書は150冊以上にのぼり、その一冊は中学入試の国語で出題数ナンバーワンになったほど、今最も注目される研究者の一人です。
意外なのは、その異色の経歴です。先生はかつて農林水産省の官僚でした。しかし1993年の記録的な冷害、いわゆる「平成の米騒動」の際、霞が関にいても全ての情報が入ってくるのに、休みを取って訪れた田んぼの惨状を自分は知らなかった。「現場が見られない」という思いが、退職の一つのきっかけになったといいます。その後1995年に静岡県へ入り、静岡県農林技術研究所などを経て、2013年から静岡大学大学院の教授になりました。
雑草研究の出発点も印象的です。大学時代、畳表の原料である「イグサ」を研究していた先生は、ポットの横に見慣れない草が生えているのに気づきます。指導教授に尋ねると「花が咲いたら図鑑で調べられるから、咲くまで置いておきなさい」と言われ、毎日世話をするうちに、答えの分かっているイグサより、この“スピンオフ”の草に夢中になってしまったそうです。その草は「コウガイゼキショウ」というイグサの仲間の雑草でした。一つの偶然の出会いが、一人の研究者の人生を決めたのです。
人間と雑草の「共存」|茶草場農法と“人間が滅べば雑草も滅ぶ”説
雑草と人間は、敵同士でありながら奇妙な共存関係にあります。番組では、その象徴として「茶草場農法(ちゃぐさばのうほう)」が紹介されました。
これは、茶園周辺の里山に生えるススキやササなどの草を刈り、茶園に敷く静岡県の伝統的な農法です。草を敷くとお茶の味が良くなる。農家の方は自然を守ろうとしたわけではなく、ただ美味しいお茶を作りたい一心で続けてきました。ところが、その営みが結果的に里山の生物多様性を守っていたのです。この価値が稲垣先生をきっかけに世界へ知られ、2013年に「静岡の茶草場農法」として世界農業遺産に認定されました。番組で登場した、掛川市の山の斜面に「茶」の字をかたどった「茶文字饅頭」も、この研究と深く結びついたお菓子です。
そして、最も考えさせられたのが「人間が滅んだら、雑草も滅ぶ」という先生の見立てでした。雑草は人間が作り出した環境に適応して進化した植物なので、人間がいなくなれば、多くは他の植物に負けて滅んでしまうだろうというのです。海外では雑草は完全な“悪者”ですが、日本人は雑草を駆除すべき敵としながらも、「雑草魂」と呼んでその強さに敬意を払う。そもそも「雑草」とは雑誌や雑学と同じ「その他大勢の草」という意味で、悪い意味は一切ありません。このライバルへの独特な距離感こそ、日本人と雑草の素敵な関係だと先生は語っていました。
いまからサイエンス「雑草」回への視聴者の声と考察|Xの反応
最後に、視聴者の反応についても触れておきます。今回の放送回に特化したSNSの大きな話題は現時点では限定的ですが、稲垣先生が一貫して発信してきた「雑草は本当は弱い」「抜くほど増える」という主張に対しては、これまでも「半信半疑だったが目からウロコ」「庭の手入れが本当に楽になった」といった声が繰り返し寄せられてきました。
検索する人が抱きそうな疑問としては、「本当に全ての雑草が抜くほど増えるのか」という点が挙げられます。番組の内容を踏まえると、これは光で発芽する種子型の雑草に当てはまる話で、地下茎で広がるタイプはまた別の強さを持つため、一律ではない点に注意が必要です。また「踏圧ロボットは一般販売されるのか」という関心も高そうですが、現状は小型化・軽量化を研究している段階です。筆者としては、この回の本当の価値は「雑草対策のテクニック」よりも、「弱さを戦略に変える」という、ものの見方そのものの転換にあったと感じています。
まとめ
2026年6月10日放送の『いまからサイエンス』は、私たちの雑草観をくつがえす回でした。雑草は強いのではなく、弱いからこそ戦略的である。草むしりは抜くより管理する。雑草魂とは、踏まれても立ち上がることではなく、踏まれても花を咲かせ種を残すこと。そして、先の見えない時代を生きるヒントは、選択肢を残し、タイミングとスピードを大切にする雑草の生き方にありました。
稲垣先生は番組の最後に「サイエンスとは冒険である」と語りました。道端の雑草でさえ、まだ分からないことだらけ。身近な足元にこそ、面白い謎が眠っているのかもしれません。この夏の庭掃除では、ぜひ一度、雑草の生き残り戦略に思いを馳せてみてください。
※ 本記事は、2026年6月10日放送(BSテレ東)の人気番組『いまからサイエンス』を参照しています。





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