津久井やまゆり園の事件から10年。2026年7月27日放送のNHKクローズアップ現代「職員たちの10年」は、大手メディアが伝えきれない“当時の同僚たちの葛藤”に静かに迫りました。この記事では、施設が向き合ってきた10年と、奥田知志さんがスタジオで語った「者別」「希望のまち」という問いを整理します。読み終えたとき、共生社会を自分ごととして考えるきっかけがきっと見つかります。
津久井やまゆり園「職員たちの10年」──クローズアップ現代が伝えた葛藤
2026年7月27日放送のNHKクローズアップ現代は、相模原市の障害者施設・津久井やまゆり園の事件から10年という節目に、これまで多くを語ってこなかった職員たちの声を伝えました。この回の特徴は、事件そのものの検証ではなく、事件を起こした元同僚と同じ現場に立ち続けてきた職員たちの「葛藤の10年」に光を当てた点にあります。
大手メディアの多くは節目の日に事件を俯瞰で振り返りますが、番組が選んだのは、もっと内側からの視点でした。「自分たちが怪物を生んでしまったのではないか」――その重い問いを抱えながら、それでも支援を続けてきた人々の姿は、事件を過去の出来事として片づけさせない力を持っていたように感じます。
事件から10年、再建された津久井やまゆり園の「今」
番組によれば、2016年7月26日未明、施設に侵入した元職員の植松聖死刑囚が入所者を次々と刃物で襲い、19人が殺害され、26人が重軽傷を負いました。植松死刑囚は2020年に死刑判決を受け、刑が確定しています。
施設はその後再建され、現在は重い知的障害のある58人が暮らしています。番組に登場した入所者の島田昌尚さんは、身ぶりや表情で自分の気持ちを表現しながら、穏やかな日常を送っていました。事件から10年を経て「今」の暮らしを丁寧に映したことは、犠牲になった一人ひとりにも確かな日常があったことを、静かに思い起こさせます。
「怪物を生んだのは自分たち」職員たちが背負い続けた問い
番組で最も胸に迫るのは、職員たちの自問自答でした。植松死刑囚を指導したこともあるという小林智さんは、「最初は普通の青年だった」「自分の支援を見て、彼がそう捉えてしまったのかもしれない」と語ります。入所者を一緒に介助した虫賀信也さんも、自分たちの言葉の端々に障害者を軽んじる見方がなかったか、10年間問い続けてきたと打ち明けました。
もちろん、犯行の責任が職員にあるわけではありません。それでも彼らが自らの支援を厳しく見つめ直してきたのは、二度と同じ思想を生まないための、誠実な向き合い方だったのだと思います。
施設が柱に据えた「意思決定支援」とは
事件後、津久井やまゆり園が支援の柱に据えたのが「意思決定支援」です。番組によれば、これは入所者を管理するのではなく、本人の意思を丁寧に汲み取ってサポートする考え方だとされます。入所者は施設内の鍵を自由に開けて出入りでき、職員は行動を見守りながら、その人にできることを引き出していきます。
かつて居室に鍵をかけて行動を制限されることもあった小林正人さんは、5年で自らゴミの分別や洗濯物干しができるようになったといいます。虫賀さんが「もしかしたら違うフィルターで物を見ているだけかもしれない」と語った言葉は、支援する側の意識が変わることの意味を、鋭く言い当てていました。
グループホームと地域移行に残る課題──共生社会はどこまで進んだか
一方で番組は、理想と現実のギャップも隠しませんでした。国は再発防止策の柱の一つとして共生社会を掲げ、少人数で暮らすグループホームなど地域移行を進めてきました。しかし、グループホームに移った伊藤桂子さんの自由な外出は、付き添いの人手不足から月に一度のみ。新しい店に行こうとしても遠慮を求められることがあるといいます。
施設から地域へ移った人は少しずつ増えているものの、国が目指すペースには達していないとされます。番組が示したのは、住まいを移すだけでは「地域で生きている」とは言えないという厳しい現実でした。
奥田知志さんが問う「者別」という視点
スタジオゲストの奥田知志さん(牧師/NPO法人「抱樸」理事長)が投げかけたのが、「者別(しゃべつ)」という独自の言葉です。福祉の世界では「障害者」「高齢者」「生活困窮者」と“何々者”で人を括りがちですが、実際にはそれぞれ名前のある個人だ、と奥田さんは指摘します。植松死刑囚が使った差別的な造語もまた“者”で括る発想であり、一人ひとりの個人と出会うことこそが、その思想を否定する第一歩だという言葉には強い説得力がありました。
「希望のまち」に見る共生社会のかたち
奥田さんが北九州で進めているのが「希望のまち(希望のまちプロジェクト)」です。番組によれば、暴力団の本部事務所跡地を引き受け、障害の有無や年齢を問わず、いろいろな人が混じり合って暮らせる“まち”をつくる取り組みだとされます。同じような人だけが集まる場所は「施設」だが、多様な人がいる「まち」でこそ人は出会い、考える――その発想は、共生社会を建物や制度ではなく“関係”として捉え直すものでした。「大変だけど不幸じゃない」という奥田さんの言葉は、この回全体を貫くメッセージだったように思います。
まとめ
クローズアップ現代「職員たちの10年」は、事件を検証する番組ではなく、事件と向き合い続けた人々の姿を通して、私たち自身に問いを返す番組でした。津久井やまゆり園の事件から10年、献花台には今月11人目の名前が刻まれたといいます。「者別」ではなく個人として出会うこと、「希望のまち」のように多様な人が混じり合うこと。共生社会は大変だけれど素晴らしい――奥田知志さんのその言葉を、自分ごととして受け止めたい回でした。
※ 本記事は、2026年7月27日放送のNHK「クローズアップ現代」を参照しています。
※ 津久井やまゆり園の公式サイトはこちら。



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