ゲリラ豪雨や線状降水帯を、もっと早く正確に察知できないか。2026年9月5日放送のブレイクスルーでは、日本無線の嶋村重治さんが開発する最新の気象レーダーが紹介されました。この記事では「櫛形ビーム」という独自技術の中身から、降水コアを15〜20分前に捉える仕組み、そして線状降水帯予測への挑戦までを整理します。読み終える頃には、天気予報の未来がどう変わるのかが見えてくるはずです。
ブレイクスルーの気象レーダーとは?日本無線・嶋村重治が挑むゲリラ豪雨予測
2026年9月5日放送のテレビ東京系「ブレイクスルー」は、「ゲリラ豪雨を瞬時に発見!? 最新気象レーダー」と題して、日本無線のセンシング技術グループでグループ長を務める嶋村重治さんを取り上げました。取材にあたったのはベストセラー作家の相場英雄さん、進行はテレビ東京の佐々木明子アナウンサーです。
2026年8月には北陸地方に最高レベルの危険度を示す大雨特別警報が発表されるなど、豪雨災害は年々深刻さを増しています。地球温暖化の影響で、こうした災害はさらに増えると見られています。
舞台となったのは富山県。嶋村さんたちが開発しているのは、線状降水帯やゲリラ豪雨を引き起こす積乱雲を「早く」「細かく」捉える、フェーズドアレイ気象レーダーと呼ばれる最新型です。日本無線は2024年8月に無線局免許を取得し、富山県滑川市で試験観測を開始しています。
現地のレーダーは、建物などで電波を遮られないよう高さ17メートルの鉄塔の上に設置されていました。白いドーム状のカバーの中に、電波を送受信するアンテナが収まっています。「ロケット台のよう」と佐々木アナが表現した鉄塔を上りきった先に、日本の防災を変えるかもしれない装置がありました。
パラボラ型とフェーズドアレイの違いは「高さ」だった
私たちがニュースの雨雲の図で目にしているデータは、お椀のような形をしたパラボラ型レーダーによるものです。番組で嶋村さんは、パラボラ型はアンテナの正面方向のごく狭い範囲にしか電波を送受信できないと説明していました。相場さんが思わず「細っ」と声を上げたほど、そのビームは細いのです。
対してフェーズドアレイは平面型で、あらゆる方向の雨を一気に捉えられます。この差は観測データにはっきり表れます。番組で示された比較データでは、同じ雨雲を見ているにもかかわらず、パラボラ型は高さ4,000メートルを超える部分が真っ白で、上空をまったく観測できていませんでした。一方のフェーズドアレイは、上空1万メートルの雨雲まですべて捉えています。
なぜ高さが重要なのか。ゲリラ豪雨をもたらす積乱雲は、上昇気流によって高さ方向にどんどん発達していく性質があり、上空へ伸びるほど激しい雨を降らせる可能性が高まるからです。ところが従来のパラボラ型は電波が細く、角度を何度も変えて観測する必要があるため、刻々と成長する積乱雲の高さを素早く追いかけるのが難しいという弱点を抱えていました。
天気予報の精度は「面」だけでは決まらない。ここが今回の取材で最も腑に落ちた点です。
なお同じブレイクスルーでは、逆に地表付近を数メートル単位で読む微気象という技術も紹介されています。上空の雨雲と地表の暑さ、向かう方向は違っても「気象を細かく見る」という発想は共通しています。
1,024個のアンテナが生む速さ|1分で一周する日本無線の独自技術
カバーを外したアンテナ面は、小さな四角がびっしりと並んだ姿をしていました。この一つひとつが「パッチアンテナ」と呼ばれる独立したアンテナです。番組によれば、縦方向に32個、横方向に32個、合計1,024個が搭載されています。
パラボラ型ではアンテナが実質一つ。それが1,000個以上に増えたわけです。一つひとつのアンテナから出る電波の強さとタイミングを制御することで、正面方向だけでなく斜め方向にも電波を放つことができます。
観測時は40度傾けた状態でアンテナを回転させ、低い位置から真上まで、すべての高さのデータを取得します。所要時間はわずか1分。30秒から1分の間隔で全データが揃うため、番組で嶋村さんが語ったとおり「よりピンポイントに、しかも早く」状況がわかるようになります。将来的には半径400キロもの範囲を観測できるようにする計画だといいます。
なお日本無線が公表している資料によれば、この装置はC帯(5GHz帯)の採用、二重偏波化に加えて、全アンテナ素子が送信も受信もできる点が特徴とされています。従来のフェーズドアレイは一部の素子にしか送信機能を持たせていなかったため、この三つ目こそが同社機ならではの強みということになります。
「櫛形ビーム」とは?国土7割が山地の日本に合わせた工夫
番組で個人的に最も唸らされたのが、この櫛形ビームでした。
相場さんが「山の上に池や湖があるとデータが変わるのでは」と切り込んだ場面で、嶋村さんが明かした独自技術です。山のすぐ上に雨雲がある場合、本来は雨雲だけを見たいのに、電波が山にも当たってしまいます。すると実際にはたいして降っていない場所が、強い雨があるように見えてしまう。これが観測誤差になるのです。
そこで開発されたのが、細いビームを縦方向に複数連ねた送信ビーム、すなわち櫛形ビームです。山を避けながら、地表面のすぐ上にある雨雲だけを正確に捉えられます。
日本は国土のおよそ7割が山地や森林です。そうした場所での大雨は土砂災害を引き起こし、命を脅かします。海外製の技術をそのまま持ってきても、日本の地形では誤差が出てしまう。国産メーカーが自国の地形と向き合って初めて生まれる発想であり、他社が簡単に真似できない部分だと感じました。
降水コアの卵を15〜20分前に捉える|嶋村重治が見せた3D解析データ
もう一つの肝が、発生時刻をどれだけ早く読めるかです。
番組で示されたのは、富山市内に豪雨をもたらした事例のデータでした。断面図の縦軸は高度、横軸はレーダーからの距離。赤黒く表示された非常に強い雨の領域は、なんと高度15キロ付近まで達していたといいます。
これを3D動画にすると、変化がさらに明快でした。上空に黒い塊ができてから10〜15分ほどで、その黒が地上付近まで降りてくる様子が見て取れるのです。嶋村さんはこれを、後から落ちてくる降水コアの卵と表現していました。地上に強い雨が降るおよそ15分から20分前に、上空でその予兆をキャッチできているわけです。
防災上の意味は小さくありません。10分から20分前に情報が取れれば、あらかじめ避難のアラートを出すことも、河川の水門を事前に制御して氾濫に備えることもできます。番組で嶋村さんが「5分でも10分でも早くアラートが出せれば、命を救える可能性が出てくる」と語っていたのは、こうした裏づけがあってのことでした。
相場さんが「AIに学習させれば精度は上がるか」と問うと、嶋村さんは可能性は大いにあると答えています。時間的にも空間的にも高密度なデータが取れることこそ、この装置の資産なのでしょう。
嶋村重治の原点|大阪大学から日本無線へ、7年がかりの開発
嶋村重治さんは、幼い頃からレーダーに憧れていたわけではないそうです。ただ、よく空を見上げて雲を眺めていた記憶があると振り返っていました。
進学したのは大阪大学の工学部で、専攻は情報通信。その学科の中に気象レーダーを扱う研究室があり、人と違うことをやるのが好きだった嶋村さんは、光ファイバーのようなありふれた分野より「よくわからないけれど面白そうな」道を選びます。この一歩が現在につながりました。
博士課程を修了後に入社したのが、日本初の気象観測レーダーを開発し世界へ展開してきた日本無線です。そこで任されたのが、大型台風やゲリラ豪雨をいち早く察知する新型レーダーの開発でした。
2017年頃にフェーズドアレイの開発に着手。2019年に大型台風で千曲川が氾濫したことを受け、長野県で豪雨観測の検証を開始します。そして開発を加速させ、年間を通じて積乱雲が発生する富山県滑川市に、2024年夏、実験機を設置しました。着手から約7年。今も現地で陣頭指揮を執っています。
線状降水帯の予測へ|横に漏れる電波と富山湾のドライアイス実験
嶋村さんの前に立ちはだかる次の壁が、線状降水帯です。
ゲリラ豪雨が局地的な積乱雲によるものであるのに対し、線状降水帯はいくつもの積乱雲が帯状に連なり、同じ地域に長時間の大雨をもたらします。従来のレーダーでは積乱雲の広がりを読むことが難しく、番組によれば直前予測の的中率は3割程度にとどまるといいます。
ここで嶋村さんが着目したのが、電波の「横漏れ」でした。積乱雲に見立てたアルミホイルにビームを当てる実験では、電波がレーダー方向に返るだけでなく、横方向にも反射していることが確認できます。そこで受信専用のフェーズドアレイを別に設置し、この横へ漏れた電波を捉えて新たなデータを得ようという発想です。実証実験は今年秋、大阪大学と共同でスタートする予定とされています。
課題は同期です。電波は秒速30万キロメートル。送信側と受信側で1,000分の1秒ずれるだけで、150キロも場所がずれてしまいます。時計をきっちり合わせることが前提条件になるわけです。
さらに番組では、2026年1月に富山湾で行われた気象制御の実験も紹介されました。飛行機から海上の雲にドライアイスを撒いて氷の粒をつくり、陸に降るはずだった雪や雨を海側で降らせて被害を減らそうという試みです。これは富山大学や千葉大学などの研究チームが進めているもので、豪雨を防ぐ目的の人工降雨実験としては世界初と報じられました。散布後に現象がどう変化したかを把握し、次を撒くべきか止めるべきかを判断する。そこでもフェーズドアレイのデータが力を発揮すると嶋村さんは見ています。
日本無線は東南アジアなど世界各国に気象レーダーを納めてきました。それらをフェーズドアレイに置き換えていけば、世界一の防災システムを輸出できる。それは国力の強化にもつながる、というのが嶋村さんの構想です。
まとめ
ブレイクスルーで紹介された日本無線・嶋村重治さんの気象レーダーについて、要点を整理します。
- フェーズドアレイ気象レーダーは平面型で、パラボラ型が捉えられない上空1万メートルの雨雲まで観測できる
- 1,024個のパッチアンテナを制御し、1分で一周。30秒〜1分間隔でデータを取得する
- 独自の「櫛形ビーム」により、山にビームが当たる誤差を避けて地表面直上の雨雲だけを正確に捉える
- 地上に強い雨が降る15〜20分前に、上空の「降水コアの卵」をキャッチできる
- 次の挑戦は線状降水帯の予測。横に漏れる電波を受信専用アンテナで捉える実験が今秋始まる
レーダーは見えないものを見えるようにする装置である。番組の最後で嶋村さんが語ったこの言葉が、すべてを言い表しているように思います。気象災害がゼロになることは未来永劫ないだろう。それでもゼロという理想を目指して性能を上げ続ける。その積み重ねが、いつか誰かの命を救うのだと思わされる30分でした。
※ 本記事は、2026年9月5日放送(テレビ東京系)の人気番組「ブレイクスルー」を参照しています。
※ 日本無線の公式サイトはこちら。



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