2025年3月17日放送のNHK「クローズアップ現代」では、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手の二刀流復活に向けた挑戦に迫りました。「最後のチャンス」と自ら語る大谷選手の決意と、それを支える球団の戦略について、独自取材を交えて詳しく伝えています。今回はその内容を掘り下げてご紹介します。
大谷翔平が語った「最後のチャンス」の真意と二刀流復活への決意
大谷翔平選手は、NHKのインタビューで二刀流復活について「最後のチャンス」という言葉を使いました。これは2度目の右肘手術と左肩の手術を経験したことを踏まえての発言です。大谷選手は「もう1回手術する機会が訪れた時に、また1年半リハビリをして、やっていくというのはあまり現実的ではない」と、今シーズンが二刀流として勝負する重要な時期であることを明かしました。
メジャーリーグ7年目を迎えた大谷選手ですが、これまで二刀流を全うできたのは2シーズンのみです。度重なる怪我の影響で、特にシーズン後半に故障が相次いでいました。それだけに今シーズンの二刀流挑戦は、彼のキャリアにおいて極めて重要な意味を持っています。
独自取材で明かされたドジャース球団の大谷翔平への戦略と管理方法
「クローズアップ現代」では、大谷選手のリハビリを支えるヘッドアスレチックトレーナーのトーマス・アルバート氏や、球団編成のトップであるアンドリュー・フリードマン本部長に対する独自取材が行われました。
フリードマン本部長は「まずは二刀流としての翔平を知り、怪我からの回復具合を把握すること。話し合いを続けることが大切」と述べ、無理をさせないよう慎重に調整していく方針を示しました。
また、球団ではデータを駆使した選手管理も行われています。ドジャースで20年以上トレーナーを務める中島陽介氏は「選手全部40人枠から全部で65人から70人ぐらいキャンプに来る。あの選手たちの情報を全部把握して、この選手はこの時期に怪我する可能性があるという情報は全部フロントも入っている」と語り、球団の緻密な戦略について説明しました。
二刀流復活のカギを握る新たな投球フォームと齋藤隆の専門的解説
大谷選手は今シーズン、投球フォームに大きな変更を加えました。これまでのエンゼルス時代はランナーがいない場面でもセットポジションで投げていましたが、新たにノーワインドアップの投球フォームに挑戦しています。
元ドジャースの投手で解説者の齋藤隆氏によると、このフォーム変更には「反動を利用して、大きな動作で小さなエネルギーを使いながら、大きな力を生み出す省エネ化」というメリットがあります。一方で「大きな動作が加わることでコントロールの乱れが出てくる懸念もある」というデメリットも指摘しています。
齋藤氏は「通常は年齢が上がるにつれて、スピードが落ちるのでピッチャーはコントロール重視にするために動作を小さくする。むしろノーワインドアップから晩年にセットに変えたりすることがあるが、大谷翔平選手は逆にトライしているので、これも私にとっては大きな驚きの1つ」と語りました。
大谷選手自身は新フォームについて「93とか94マイル(150キロ前後)ぐらいだったら、手術前でも痛みなく投げれる感覚はあった。そこで満足することなく、そのために手術したというところもある」と話し、さらなる高みを目指す姿勢を見せています。
左肩故障からの復帰に向けた攻撃面での変化と新しいスライディング技術
攻撃面でも大谷選手は変化を模索しています。昨年、盗塁で左肩を脱臼した教訓から、左手を地面につけない新たなスライディング技術を練習しています。さらに塁に戻る際のヘッドスライディングも禁止するなど、怪我のリスクを抑えるための取り組みが行われています。
ストレングスコーチのトラビス・スミス氏は「翔平はチームを勝利に導くために、今シーズンも盗塁を狙いたがっている。新しいスライディングのサポートをしていきたい」と語っています。
オープン戦では指名打者として7試合に出場し、打率は3割を超える好調ぶりを見せました。ヘッドアスレチックトレーナーのトーマス・アルバート氏は「私たちのキャンプでの最優先事項は、問題なくスイングできる状態にまで左肩を調整していくこと」と大谷選手の状態管理に細心の注意を払っていることを明かしています。
ドジャース編成本部長フリードマン氏が語る二刀流活用とワールドシリーズ連覇への展望
フリードマン本部長は大谷選手の二刀流を、ワールドシリーズ連覇の重要な鍵と位置付けています。「第1の目標は地区優勝して連覇に向けた弾みをつけること。翔平がプレイオフでも二刀流で出場できれば、チームとして層が厚くなるし戦術の幅が広がる」と語っています。
また「長いシーズンを戦い抜くために、二刀流のカードをどう切ったら良いのか考えるのが楽しみだ」と、シーズンを通じて大谷選手の起用法に工夫を凝らす姿勢を示しました。
さらに「我々はどの球団よりも積極的に先発投手を増やしてオフの日を設けてきたがそれは役に立たなかった。だから、ワークロード(仕事量・作業負荷)をより管理していく」と、投手陣全体の管理についても言及しています。
メジャーリーグが注目する大谷翔平効果とアジア市場戦略の実態
メジャーリーグは大谷選手を中心とした日本人選手の活躍を、アジア市場開拓の大きなチャンスと捉えています。MLBコミッショナーのロブ・マンフレッド氏は「昨年、韓国と日本の視聴者は信じられないほど多かった。これはベースボールをアメリカを超えた世界市場へと広げる上で大きな強みになる」と述べています。
昨年のワールドシリーズでは日本を含むアジアの視聴者数が北米の視聴者数と並び、開幕戦のスポンサーは22社に上り、それによる収入も昨年の2.4倍に増加しました。マンフレッド氏は「これほどのスポンサーからの需要を見たことがない。これは特に大谷選手による影響が大きい」と大谷効果を認めています。
日本企業との提携も積極的に進めており、ある飲料メーカー(伊藤園)はリーグ公式のグリーンティーに採用されるなど、日本の文化と結びついたマーケティングも展開されています。
齋藤隆が分析する大谷翔平の挑戦と日本人選手のメジャーリーグでの今後
齋藤隆氏は大谷選手の挑戦について「二刀流というところがあり、サイヤング賞を狙いながらホームラン王も取りたいという、前人未到の域に辿り着こうとするため」の取り組みだと分析しています。
また、メジャーリーグの日本・アジア戦略については「日本はもちろんアジアとして、MLBは大きなマーケットとして見ている」と指摘。「私が2006年にメジャーに行った時は日本人、の日本のスカウトは全球団にはいなかったが、今はもうほぼ30球団、全球団に日本人担当のスカウトがいる」と、大きな変化があったことを述べています。
日本野球界への影響については「今の子供たちがそういうのを目にすることが増えるので、僕も野球やりたいなんて思ってくれる子もいるかもしれない。ただ一方で、日本人野球関係者としては、やっぱり脅威でもある。このアジアンマーケットをごっそり持って行かれる懸念もある」と両面から評価しています。
まとめ:大谷翔平の「最後のチャンス」は二刀流の新たな可能性を切り開くか
大谷翔平選手の「最後のチャンス」という言葉には、彼の二刀流に対する強い覚悟が表れています。投球フォームの変更や攻撃面での新たな取り組みは、単なる怪我からの復帰だけでなく、「前人未到の域」を目指す挑戦でもあります。
ドジャースはデータを駆使した緻密な戦略で大谷選手を管理し、シーズンを通じて二刀流を最大限に活用する方針です。また、メジャーリーグ全体にとっても、大谷選手を中心とした日本人選手の活躍はアジア市場開拓の重要な鍵となっています。
齋藤隆氏が述べたように「怪我なく1年間頑張ってほしい」というのは、日本人全員の願いでしょう。大谷選手の二刀流復活は、彼自身のキャリアだけでなく、メジャーリーグの未来、そして日本野球の発展にも大きな影響を与える可能性を秘めています。大谷選手の新たな挑戦が、野球の新しい可能性を切り開くことを期待しています。
※本記事は、2025年3月17日放送のNHK「クローズアップ現代」を参照しています。
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