2026年6月1日放送のNHK「クローズアップ現代」では、コリアンタウン・新大久保で加速する“ガチグルメ”の多国籍化が特集されました。ネパールやベトナムの本場の味が次々と生まれる一方、外国人政策の変化で店主たちには動揺も広がっています。この記事を読めば、街の魅力と課題、そして私たちの暮らしにつながる「共生」の今がはっきりと見えてきます。
新大久保のガチグルメとは?多国籍化が進む街をクローズアップ現代が特集
「ガチグルメ」とは、現地の味をそのまま再現した“本場ガチ勢”の料理のことです。今回のクローズアップ現代が舞台に選んだのは、韓国カルチャーの発信地として知られる東京・新大久保。番組によると、新大久保駅周辺の外国人比率は40%近くに迫っており、駅の東側に広がるコリアンタウンに対して、西側エリアではここ数年でネパール・ベトナム・中国などの店が急増し、地域一帯でその数は145店舗に上っているといいます。
注目したいのは、これが「観光客向けにアレンジされた味」ではなく、現地の家庭料理そのものだという点です。番組では、2年前にネパールから来日したキム・グルンさんが、わずか1坪ほどの厨房でヤギの干し肉を使った「スクティ」や蒸し餃子「モモ」を作る様子が紹介されました。日本人客が「非日常を求めに来ている」と語っていたのが象徴的で、ガチグルメの人気は、味の珍しさだけでなく“本物に触れる体験”そのものへの欲求に支えられていると感じます。
ネパール・ベトナムのガチグルメが続々!新大久保で話題の本場料理
新大久保のガチグルメを語るうえで欠かせないのが、ネパールの定食「ダルバート」です。豆を3時間ほど煮込んだスープ「ダル」をご飯にかけて食べる家庭の味で、開業当初から店を支えてきたディリラム・シワコティさんは、留学生の生活を助けようと当初1食500円・おかわり自由で提供を始めたといいます。米や鶏肉の価格高騰を受けても、現在は600円という良心的な価格を維持しているそうです。物価高の時代に、ここまで踏ん張る姿勢には頭が下がります。
一方、ベトナム勢の勢いも見逃せません。ベトナムの伝統サンドイッチ「バインミー」の専門店を立ち上げたブイ・タン・ユイさんは、三重県の四日市大学で経済を学んだ後、自分の蓄えと親族からのカンパで500万円を調達し、10年前に開業。今では東京・名古屋・大阪など全国24店舗を展開し、将来は50〜100店舗を目指すと語っています。さらに4月にオープンしたベトナム人スタッフによるネイルサロンなど、ガチグルメから派生したビジネスも広がっており、新大久保が“起業の街”へと姿を変えつつあることがうかがえます。
なぜ新大久保は多国籍化したのか?留学生30万人計画とネパール料理店急増の背景
「そもそも、なぜ新大久保にネパール料理店がこれほど多いのか」――この疑問の答えは、国の政策にあります。2008年、福田康夫内閣が掲げた「留学生30万人計画」によって外国人留学生の受け入れが大きく拡大し、多くの日本語学校が積極的に学生を募った国のひとつがネパールでした。番組によれば、ネパール人留学生は2014年に1万人程度だったものが、今では10万人を超えています。
この数字は決して誇張ではありません。日本学生支援機構の調査でも、2025年5月時点でネパール人留学生は約10万人(前年比54.7%増)に達し、外国人留学生全体は過去最多の約40万人を記録しています。留学生が集住する街で、母国の味を安く提供する店が生まれ、それが同郷のコミュニティを支え、やがて日本人客をも惹きつける――新大久保の多国籍化は、こうした「人の流れ」が積み重なった必然の結果だったといえるでしょう。
「インネパ」と「ガチネパ」の違いとは?室橋裕和が読み解く多国籍化の本質
番組にジャーナリストとして出演した室橋裕和さんは、新大久保に実際に移り住んで取材を続けてきた“街の生き字引”のような存在です。室橋さんが多国籍化を読み解く鍵として示したのが、「インネパ」と「ガチネパ」の対比でした。
「インネパ」とは、ネパール人が日本人向けに味付けして提供するインド料理(バターチキンカレーなど)のこと。室橋さんは、ネパール人が本場のガチネパを出しても日本人に受けにくいと考え、その国の味覚に合わせて柔軟に商売をしてきた“したたかさ・しなやかさ”の表れだと解説しました。ここに私は、移民ビジネスの本質を感じます。彼らはまず相手に合わせて溶け込み、信頼を得てから本来の文化を出していくのです。
そして今、その「ガチネパ」=ダルバートが少しずつ日本人に受け入れられ始めているという指摘は、極めて示唆的です。これは単なる流行ではなく、日本人の側の味覚と受容度が成熟し、文化が表面的な同化を越えて“相互に馴染んできた”象徴ではないでしょうか。多国籍化は、一方通行ではなく双方向に進んでいるのです。
外国人政策の変化が直撃|経営管理ビザ「資本金3000万円」と特定技能・外食業の停止
ここまで魅力を語ってきましたが、いま新大久保のガチグルメは、外国人政策の変化という大きな逆風にさらされています。論点は二つです。
ひとつは「特定技能1号(外食業)」の一時停止。受け入れ上限の5万人に迫った(2026年2月末で約4万6000人)として、2026年4月13日から新規受け入れが原則停止されました。番組では、卒業後に飲食店で働くつもりだった留学生が「びっくりした」「ダメになった」と肩を落とす姿が映され、進路の選択肢が一気に狭まった現実が伝えられました。
もうひとつが「経営・管理」の在留資格の要件厳格化です。事業に用いる財産の総額(資本金等)が、従来の500万円から3000万円へと一気に6倍に引き上げられました。出入国在留管理庁は、許可基準が諸外国に比べて緩く、移住目的の手段として悪用されているとの指摘に対処するためと説明しています。制度の悪用を防ぐ趣旨は理解できますが、問題はその“刃”が、納税も接客もまっとうに続けてきた小さな店にまで一律に向かってしまう点にあると私は考えます。
「夢が消えた」ガチグルメ店の苦悩|新大久保の多国籍化に広がる動揺

この政策変更を、最も痛切に受け止めているのが店主たちです。番組に登場したサムザナ・ブダトキさんは、2026年1月に店舗の契約や内装工事に約800万円を投じてネパール料理店を開いた直後、経営・管理の要件変更を知りました。あと2年ほどで新要件を満たす必要があり、「3000万だけはちょっと考えられない金額」「自分が夢がなくなった」と語る姿は、見ていて胸が締めつけられました。ネパールに残してきた娘を10年ぶりに呼び寄せたばかりで、店を辞めれば娘も帰国せざるを得ないといいます。
外国人のビザ取得を支援してきた行政書士の古市信宏さんによれば、2025年10月のルール変更以降、新規で事業を始める外国人は事実上ゼロになったとのこと。「小さい資本でなんとか回していた人は、ほぼ辞めざるを得ない」という言葉は重く響きます。経過措置は2028年10月16日まで設けられていますが、零細の店主にとって2年あまりという時間がいかに短いかは、想像に難くありません。
X(SNS)の反応は?多国籍化と外国人政策の変化に集まる声【考察】
このテーマは、放送前からネット上でも大きな関心を集めてきました。実際、経営・管理ビザの厳格化をめぐっては、事業実態のある既存の店を一律基準で排除しないよう国に求める署名活動が起こり、賛同はこれまでに1万2000筆を超えるまで広がりました。「本場の料理を手軽に選べる楽しさが減るのは寂しい」「小さな店が潰れ、大きなチェーン店しか残らなくなる」という危惧の声が目立ちます。
一方で、「許可基準が緩すぎたのは事実で、悪用対策としては妥当」「全ての外国人飲食店が消えるわけではなく、永住者や定住者など別の在留資格で続けられるケースも多い」「経過措置もある」という冷静な指摘も少なくありません。
私の考えを述べれば、この問題の核心は“ルールの是非”そのものより、「悪質なペーパーカンパニーをふるい落とす網が、まっとうな個人事業主まで一緒にすくい上げてしまう」という制度設計の粗さにあります。入管庁自身も「一律に不許可とはせず、個別の状況を踏まえ丁寧に審査する」と回答しています。ならば、資本金という単一の数字ではなく、納税実績や地域への貢献といった“事業の実体”をどこまで丁寧に見るかが、街の未来を分ける分岐点になるはずです。
まとめ|クローズアップ現代が問う新大久保ガチグルメと共生のこれから
今回のクローズアップ現代は、新大久保のガチグルメと多国籍化を入り口に、「日本は外国人とどう共に生きるのか」という根源的な問いを突きつけました。
興味深いのは、国が「秩序ある共生」を掲げる一方で、街にはすでに具体的な共生の知恵が育っている点です。新大久保で生まれ育った益田佳代子さんは、騒音やゴミといった文化の違いによるトラブルを、対話を重ねて乗り越えてきました。「話せば必ず通じる。相手の文化を知り、自分の文化も知ってもらい、共に生きることが大切」という言葉こそ、トップダウンの制度より先を行く“現場の共生”の答えだと感じます。
留学生として招き入れ、人手不足の現場を彼らに支えてもらいながら、その入り口を急に狭める――この政策の矛盾に、私たちはもっと自覚的であるべきでしょう。ガチグルメの一皿の裏にある相互理解の積み重ねを、街の活気ごと失わないために何ができるのか。新大久保は、その問いを映す日本の縮図なのです。
※ 本記事は、2026年6月1日放送のNHK「クローズアップ現代」を参照しています。


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