2026年4月15日放送のNHK「クローズアップ現代」では、がん検診の第一人者である医師・松田一夫さんが、自らがステージ4の肺がんを患っていることを告白されました。本記事では番組で語られたがん検診の意義と課題、そして溝田友里准教授の解説までを丁寧に整理し、私たちが今すぐ取るべき行動が見えてくる内容をお届けします。
クローズアップ現代「がん患者になった医師」松田一夫さんの告白とは
2026年4月15日放送のNHKクローズアップ現代は、「それでも、検診を受けてほしい がん患者になった医師の告白」と題した回でした。
番組の主人公は、長年にわたって国のがん検診政策に関わってきた医師・松田一夫さん。がん検診の受診率向上を訴え続けてきた第一人者自身が、ステージ4の肺がんを患っていることを公表し、その経験から見えてきた検診の限界と、それでもなお検診を勧め続ける理由を語りました。患者となった専門家の言葉には、単なる医療情報を超えた重みが込められていたように感じます。
松田一夫医師がステージ4肺がんに|患者となった専門家の現在
松田一夫医師は、自らの肺がんについて「青天の霹靂でした」「肺がんで言うと、おそらくこれ以上ないというぐらい進んだがんだった」と振り返っています。発見されたのは2025年3月のがん検診時。すでに手術ができないほど進行し、脳や腰にもがんが転移していたステージ4Bの状態でした。
一時は心臓の周りに水がたまるほどの痛みに襲われた松田さんですが、効果のある抗がん剤が見つかったことで肺のがんは縮小し、脳に転移したがんも少なくなっていることが確認されています。番組スタジオでは「治療はとてもよく効いていて、今日の体調も極めて良好です」と語り、現在は闘病を続けながら職場に復帰し、講演会などで受診率向上の発信にも力を入れておられます。
毎年がん検診を受けていたのになぜ見逃された?X線の死角という壁
松田さんは毎年欠かさずがん検診を受けていました。それなのに、なぜステージ4まで進行するまで発見できなかったのでしょうか。その理由は、がんができた「場所」にありました。
松田さんの肺がんは鎖骨の後ろに位置しており、X線ではいわば死角となる部分にできていたのです。検診を担当した田中正樹医師は、「見逃しやすい場所として注意して読影しているが、この時には分からなかった」と明かしています。どれほど熟練した医師でも、検査には物理的な限界があるという現実を突きつけられるエピソードです。松田さん自身も「専門家がこんな状態で見つかるのは驚きだった」と率直な思いを語っており、受診率向上を訴えてきた立場から、表彰の場で自らのがんを公表し謝罪までされています。
見逃しがあってもがん検診の意義は|死亡率を下げる4万人データ
見逃し(偽陰性)があるのなら検診は意味がないのではないか——そう考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、松田さん自身が長年取り組んできた研究が、この疑問に明確な答えを出しています。
松田さんは福井県内の大腸がん検診データ、実に4万2000人以上を一人ひとり追跡してパソコンに入力し続けました。土日もほとんど出かけずに作業し、1週間で2000人分を入力し続けたといいます。その結果、実際にがんだった患者のうち23%が1度目の検診では陰性とされていたものの、翌年検診を受けて発見された人は、前年に見つかった人と生存率が変わらないという事実が分かったのです。つまり「毎年続けて受けること」で見逃しの影響は大きく軽減できます。松田さんの研究は、奇しくも現在の松田さん自身を予言するかのような結果となりました。
日本のがん検診の課題|受診率4割と韓国・欧米との死亡率の差
番組では、日本のがん検診受診率が約4割と、世界的に見ても低水準にとどまっていることが指摘されました。大腸がんに限れば日本の受診率は45.9%で、フィンランドや韓国、アメリカと比べても低いのが現状です。
興味深いのは、大腸がん検診の便潜血検査を開発し、1992年に世界で最も早く検診を始めたのは日本だという事実。日本でも1996年頃から大腸がん死亡率は下がり始めました。しかし日本より12年遅れて検診を開始した韓国は、はるかに高い受診率を背景に、急速に大腸がん死亡率を下げています。「技術があっても、受ける人がいなければ命は救えない」——この現実は、日本の医療政策全体への鋭い問いかけでもあると感じます。
制度の分断が生む見逃し|会社・自治体・人間ドックの落とし穴
日本のがん検診は自治体・会社・人間ドックの3つに主体が分かれており、その分断が深刻な課題を生んでいます。
番組で紹介された浅見正博さんは、大手金融機関で検診を「業務の一部」のように受けていましたが、60歳の定年退職を機に検診から遠のき、8年後に大腸がんが発覚。大腸の一部と肛門を切除せざるを得ず、人工肛門となってしまいました。「予約の面倒くささ」「まあいいか」という気持ちに押し流されてしまったと振り返っています。
もう一つのケースは60代女性です。会社の検診でエコー検査を受け続けていましたが、シャワー中に「ゆで卵が入っているような感触」を左胸に感じ、ステージ2でリンパ節にまで転移した乳がんが判明しました。国が40歳以上の女性に推奨するのは、死亡率を下げる科学的根拠があるマンモグラフィーです。しかし会社や人間ドックには国の指針が適用されず、検診方法がバラバラなのです。どの検診を受けるかで命の行方が変わり得るという事実は、もっと広く知られるべきだと感じます。
溝田友里准教授が解説|がん検診を受けない4つの理由と誤解
番組に出演した静岡社会健康医学大学院大学の溝田友里准教授は、内閣府調査に基づく「がん検診を受けない理由」上位4つを解説されました。①いつでも病院にかかれる、②経済的負担、③時間がない、④検査内容や苦痛がわからず不安、というものです。
これらの多くは「誤解」だと溝田さんは指摘します。そもそもがん検診は症状が出ないうちに早期発見することが目的であり、症状を自覚してからでは手遅れになることも少なくありません。費用面では公費補助や自治体の無料制度が整っていますし、検査自体も大きく改善されています。たとえば胃がん検診のバリウムは、かつて500mlだったものが今は130〜150ml程度と約1/3に減り、味も飲みやすく改良されているのです。乳がん検診も生理前後を外せば痛みが軽減されることがあり、不安を事前に伝えれば配慮してもらえます。「知ること」自体が検診のハードルを下げる第一歩だと気づかされます。
解決策「組織型検診」とは|松田一夫医師が目指すがん検診の未来
松田一夫医師が日本の目指すべき姿として提案したのが、「組織型検診」です。これはイギリスや北欧で行われている仕組みで、①検診の方法・間隔・対象年齢を国が決める、②名簿管理で誰が受けたか受けていないかを把握する、③未受診者や精密検査未受診者にきちんと案内を送る、という体制を指します。
厚生労働省も番組の取材に対し、「将来的には本人の同意を得ながらデジタル基盤を活用して組織型検診の仕組みを検討していく」と回答しています。さらに2026年4月からは、市町村が住民に調査票などを送ってがん検診の受診状況を把握する取り組みが始まっています。分断された制度から「見える化」された制度へ——日本のがん検診は大きな転換点を迎えていると言えるでしょう。
まとめ|クローズアップ現代が伝えたがん検診の意義と私たちの行動
今や女性の2人に1人、男性の3人に2人ががんになる時代です。そして早期に発見できれば9割以上が助かるとも言われています。今回のクローズアップ現代は、がん検診の第一人者が患者となったからこそ語れる、検診の限界と、それでも検診を勧める強い意志を伝える内容でした。
松田一夫医師の訴えは一貫しています。「正しいがん検診を全ての人に」。死亡率減少という科学的根拠のある検診を、時間がない人も、経済的に不安がある人も、退職した人も、誰もが受けられる社会にすること。そして溝田友里准教授が呼びかけた「検診を受けるのが当たり前の空気を作る」ことも、私たち一人ひとりの行動から始まります。「このままでは死ねない」と語った松田さんの言葉を、自分と大切な人の命を守る一歩に変えたい——そんな気持ちにさせられる30分間でした。
※ 本記事は、2026年4月15日放送のNHK「クローズアップ現代」を参照しています。



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