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社会・暮らしの問題

【クローズアップ現代】中流クライシス「最低生計費340万円」の衝撃

【クローズアップ現代】中流クライシス「最低生計費340万円」の衝撃 kurogen-churyu-crisis-340man
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「ふつうに働いているのに、生活が苦しい」。2026年9月2日放送のクローズアップ現代「中流クライシス 〜“ふつうの暮らし”はどこへ〜」は、平均的な収入を得ている人たちが直面する現実を伝えました。この記事では、番組が示した最低生計費340万円という数字の中身と、その背景にある構造、そして支援をめぐる不公平感までを整理します。読み終えるころには、あの漠然とした息苦しさの正体が見えてくるはずです。

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クローズアップ現代「中流クライシス」とは?ふつうの暮らしが揺らぐ理由

番組が扱った「中流クライシス」とは、いわゆる中流とされる平均的な収入層で、これまで当たり前だった暮らしが維持できなくなっている状況を指す言葉です。

象徴的だったのが、冒頭に登場した都内の公園での無料食料配布の場面でした。番組によれば、参加していた40代の男性は清掃会社の正社員として働きながら、月に2回受け取りに来ているといいます。「家賃の次に大きい」という言葉が、その切実さを物語っていました。

背景にあるのは、物価の高騰と、税・社会保険料の負担増という二重の圧力です。収入が特別低いわけではない。それでも生活が回らない。この「ふつうなのに苦しい」というねじれこそが、番組の出発点でした。

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最低生計費340万円の中身|単身世帯に月約29万円が必要とされる根拠

では、ふつうの暮らしにはいくら必要なのでしょうか。その答えとして番組が示したのが「最低生計費」という指標です。

これは労働団体と研究者が共同で算出しているもので、静岡県立大学短期大学部の中澤秀一准教授が10年以上携わってきました。全国労働組合総連合が2026年7月に公表した最新の試算では、東京都北区で若者が一人で生活するために必要な額は男性で月額288,664円(税・社会保険料込み)とされ、年額に換算すると約340万円になります。

中澤秀一准教授

静岡県立大学短期大学部の中澤秀一准教授               (引用:「東京新聞」より)

興味深いのは、この数字の作り方です。番組によれば、日用品など300品目以上の中から必要なものを聞き取り、7割以上の人が必要と答えたものを必需品としてカウントしていきます。意見が分かれたものは市民との会議で議論するそうで、放送で紹介された回では、男性の半ズボンや都市圏での自転車が必需品に加えられる一方、アイロンやスリッパは不要とされました。

ここまで具体的に積み上げられているからこそ、340万円という数字には重みがあります。中澤さんは番組で、これは贅沢な暮らしではなく、人前に出て恥ずかしくない生活のための基準であり、こうしたものがなければ政策を設計できないと語っていました。

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単身世帯の6割以上が年収340万円未満|数字で見る中流クライシス

問題は、この基準と現実の分布が大きくずれていることです。

番組で示された国の調査によれば、全年齢層を含む単身世帯のうち、少なくとも6割以上が年収340万円を下回っています。つまり、必要とされる水準に届いていない人のほうが多数派だということになります。しかも最低生計費は月額で7年前から4万円ほど増えており、ハードルそのものが上がり続けているのです。

さらに深刻なのが、賃上げの恩恵が均等に行き渡っていない点でした。番組が紹介した専門家の試算では、賃金の上昇率が物価高を上回っている労働者の割合は、金融・保険業や学術研究では7割以上に達する一方、医療・福祉やサービス業などでは3割台にとどまっていました。

同じ「中流」でも、どの業界にいるかで体感がまったく違う。この分断が、中流クライシスを見えにくくしている一因だと感じます。

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月収25万円・週の食費6000円|“選択と集中”で生きる20代の現実

数字を生活の実感に翻訳してくれたのが、番組が密着した20代男性のケースでした。

児童福祉関連の正職員として働くこの男性は、番組によればこの春に基本給が2万円ほど上がり、月収は額面でおよそ25万円。同年代の平均とさほど変わらない水準です。そこから税や社会保険料が約5万円、家賃4万5000円、光熱費1万円などを差し引くと、残るのはおよそ10万円。そのほとんどを貯金に回そうとしていました。

一週間の食費は6000円まで切り詰め、朝食は食べず、昼は自分で握ったおにぎり。夕食は見切り品や特売品を調理する日々です。ちくわを乗せたトーストが主食という食卓の映像は、多くの視聴者の記憶に残ったのではないでしょうか。

印象的だったのは、彼自身の言葉でした。貯蓄の量は安心感の表れであり、それが自信につながって毎日を過ごせるのだ、と。そして生きがいであるダイビングのために他を削っている状態を「選択と集中」と表現していました。

節約を前向きな戦略として語らざるを得ないこと自体が、この問題の根深さを表しているように思います。

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世帯年収410万円でも諦めた|配送ドライバー夫婦が手放した選択肢

もうひとつのケースは、都内で配送ドライバーとして働く小川さんです。

番組によれば、小川さんは2年前に介護職から転職し、個人事業主として再スタートを切りました。平日は薬の配送、合間と土日はフードデリバリー、さらにこの春からは買い物代行も始めています。売り上げは年間400万円ほどありますが、車の燃料費などの経費を差し引くと、手元に残るのは180万円ほどの見込みだといいます。

個人事業主特有のこの落差は見落とされがちです。売上400万円という数字だけを見れば中流に映りますが、実態はまったく違います。

パートで働く妻の年収がおよそ230万円で、二人合わせて年間410万円前後。共通の趣味である旅行は年に1回行ければいい方で、外食やデートの頻度も減ったと語っていました。そして小川さんは、以前は子どもを持ちたいと考えていたものの、今はその選択肢を考えなくなったといいます。

生活が苦しいという状態は、我慢の積み重ねにとどまりません。人生設計そのものを縮小させていく。ここに中流クライシスのもっとも重い側面があります。

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駒村康平教授が指摘する三重苦|賃金・消費・投資で置き去りにされる中流

スタジオでは、慶應義塾大学の駒村康平教授が構造を解説しました。

駒村康平

慶応義塾大学の駒村康平教授                   (引用:「毎日新聞」より)

駒村教授によれば、日本ではデフレが30年ほど続き、賃金が十分に上がらなくても衣食住はなんとか維持できていました。しかし2022年のウクライナ侵攻を機に一気にインフレが進み、状況が変わったといいます。教授自身の試算では、フルタイム労働者の半分近くで賃金上昇が物価上昇に追いついていないとのことでした。

さらに指摘されたのが、中流層が三方向から圧迫されているという構図です。まず消費面では、食費・住居費・エネルギー費といった値上がりの大きい費目が支出に占める割合が高い。次に投資面では、高所得層が外貨や株でインフレに対応できるのに対し、中所得層以下にはその余裕がない。そして賃金も追いつかない。この三つが重なっているという分析です。

駒村教授は、社会保障を検討する国民会議の委員を務めていた13年ほど前から中間層を手厚く支える政策の必要性を指摘してきたものの、それが十分に打たれてこなかったと振り返っていました。教授には2015年刊行の『中間層消滅』(角川新書)という著書もあり、長年の警告が現実になったかたちです。

放置すればどうなるか。社会の中核を担う層が沈むことで社会経済全体の活力が失われ、少子化や消費低迷が進むとの見通しが示されました。

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支援バッシングと不公平感|「見えにくい困窮」が生む犯人探し

番組後半は、生活不安が別の問題を生んでいる現状に踏み込みました。

子育て世帯を支援する認定NPO法人キッズドアの現場では、年収400万円台で小学生2人を育てる40代の女性が、周囲に助けを求めづらいと語っていました。離婚したのは自己責任だと言われるのではないか、というネガティブな気持ちがあるためです。渡辺由美子理事長は、助けを求めると責められる経験が、人から助けを求めること自体をやめさせてしまうと話していました。

なぜ支援を必要とする人が批判の対象になるのか。成蹊大学の伊藤昌亮教授は、一部の人が優遇されていると感じる人が増えていることが根底にあると指摘します。自分の苦しさや生きづらさについて、単純な犯人探しができてしまう構造だという分析でした。番組で紹介された投稿分析でも、お金に関する話題は関心が高く、拡散されやすい傾向が示されていました。

駒村教授はこれを「見えにくい困窮」と「見えやすい困窮」の対立として整理しました。物価上昇はみんなが受けている分だけ具体化しづらい困窮である一方、給付の対象は輪郭がはっきりしている。その結果、前者を抱える人が後者に批判的になってしまうという説明です。

苦しい人同士が対立させられている。この構図に気づけるかどうかが、分岐点になるのだと思います。

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まとめ|中流クライシスに必要な政策と私たちにできること

最後に、番組で示された処方箋を整理しておきます。

駒村教授が挙げたのは、まず最低賃金の引き上げです。ただしそのためには中小企業が対応できることが前提であり、生産性や付加価値を上げるための規制緩和や下請け企業への支援といった、地道な中小企業支援策が必要だと述べていました。

もう一つが給付付き税額控除です。見えにくいインフレによる困窮に対応でき、現役世代にも有効な手段になるとされました。この制度については、2026年8月5日に政府が制度導入の基本方針を閣議決定し、令和11年度(2029年度)の本格導入という骨格が示されています。ただし給付額や対象となる所得水準などは今後の検討事項とされており、詳細はまだ固まっていません。

そして駒村教授が視聴者に向けて残したのは、政策を吟味してほしいというメッセージでした。生活不安から分かりやすい政策を求めたくなるけれど、そんなに都合のいい政策があるのだろうかという違和感を大事にしてほしい、と。

一人ひとりの節約や貯蓄では対応しきれない問題だからこそ、どんな社会を目指すのかという議論から目を離さないこと。それが中流クライシスに向き合う出発点になりそうです。

※ 本記事は、2026年9月2日放送のNHK「クローズアップ現代」を参照しています。

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