「最近、電車の遅れや運休が多い気がする」と感じていませんか。2026年9月28日放送のクローズアップ現代は、相次ぐ鉄道トラブルの背景に、線路を守る保守作業の現場が抱える課題があることを明らかにしました。この記事では、東武日光線事故の検証や78社アンケートの結果、鉄道各社の対策をわかりやすく整理します。読み終えるころには、毎日乗る電車の見え方が少し変わるはずです。
クローズアップ現代が迫った鉄道トラブルの原因は「保守作業」
山手線・京浜東北線、東北新幹線…2026年に相次いだ鉄道トラブル
2026年は、首都圏を中心に大きな鉄道トラブルが目立つ年になっています。1月にはJR山手線と京浜東北線がおよそ8時間にわたって運転を見合わせ、67万人あまりに影響が出ました。9月には東北新幹線が始発から運転を見合わせ、通勤時間帯を直撃しています。
ほかにも、9月1日には横浜市営地下鉄で保守作業中にレールを傷つけるトラブルがあり、およそ1万6000人に影響しました。関西や新潟でも運転見合わせが発生しています。番組の街頭インタビューでも「増えている気がする」という声が聞かれ、多くの人が実感していることがうかがえます。
共通していたのは線路を守る保守作業のミス
番組が注目したのは、これらのトラブルや事故の原因に共通点があったことです。それが、線路や設備を維持管理する「保守作業」でのミスやトラブルでした。
私たちは電車が遅れると、つい運行している鉄道会社そのものに目を向けがちです。しかし実際には、列車が走らない夜間などに線路を点検し、補修している人たちの存在があってこそ、毎日の定時運行が成り立っています。今回の番組は、その「見えない現場」に光を当てた点で、とても意味のある回だったと感じます。
東武日光線事故を検証|保守作業中に何が起きたのか
見張り員の配置前に始まっていた作業
2026年8月20日、栃木県の東武日光線・新鹿沼駅で、線路上で除草作業をしていた53歳から67歳の作業員4人が特急列車にはねられ、亡くなりました。
作業には複数の会社が関わっていました。東武鉄道が東武建設に発注し、そこから建設会社や警備会社へと仕事が流れ、作業指揮者・見張り員・作業員の10人体制で行われていたといいます。
本来の安全の仕組みはこうです。作業現場から300mあまり離れた踏切にいる「中継見張り員」が列車の接近を旗で知らせ、現場からおよそ80mの位置にいる「列車見張り員」が作業員に退避を伝えます。全員の退避を確認して初めて、列車に進入可能の合図を出します。
ところが番組の取材では、中継見張り員はまだ所定の位置に着いていなかったことがわかってきました。所定の位置近くの駐車場に着いた後に踏切が閉まり、特急列車が通過したのです。しかもその駐車場は、線路を挟んだ反対側でした。中継見張り員は「所定の位置に着く前だったので、作業はしていないと思っていた」という趣旨の証言をしています。
東武鉄道の社内基準では、作業指揮者が見張り員の配置と退避合図を確認したうえで作業開始を指示すると定められていました。つまり、ルール上は「始まるはずのない作業」が始まっていたことになります。
ホーム下へ「列車到着の数分前」に入った異例の手順
さらに作業の開始時期にも疑問が残ります。複数の関係者によると、作業員が駅のホーム下の線路に入ったのは列車到着の数分前だったといいます。ホームの下には緊急避難できるスペースがありません。
作業関係者は「普通は列車を1、2本見送り、間合いの長いタイミングで線路に入る」と話しています。作業員はおよそ18Lの除草剤タンクを背負っており、それを背負ったままホームへ退避するのは難しかったと見られています。
東武鉄道は、当日の行動については警察や運輸安全委員会の捜査・調査中のため回答を控えるとしています。
ご遺族が語った弟・利彦さんの姿
亡くなった渡邉利彦さん(65歳)は、体調を崩して仕事を失った兄の保彦さんを支えるために働いていたそうです。利彦さんが倒れていたのはホームの上で、兄の保彦さんは「一生懸命逃げたけれど間に合わなかった」と悔しさをにじませていました。
東武鉄道からは直接の謝罪や説明はないとのことで、同社は東武建設を窓口に、東武グループとして誠意を持って対応するとしています。一人の作業員の後ろに、支え合って暮らす家族がいる。数字だけでは見えない事故の重さを改めて感じる場面でした。
吉田裕教授が指摘する保守作業の「マネジメント」の問題
5社・10人体制、「その日が初対面」も珍しくない現場
スタジオで解説した関西大学の吉田裕教授は、見張り員ばかりが注目されがちだが、見張り体制が取られていないのに作業が行われたことこそが主な原因だと指摘しました。そのうえで、これは個人の問題ではなく、現場のマネジメント体制や組織の問題ではないかと述べています。
今回の作業では、10人の作業員の所属が5つの会社に分かれていました。吉田教授によると、人手不足のためこうした編成は決して珍しくなく、作業員が日ごとに入れ替わり、その日に初めて顔を合わせることも少なくないそうです。
安全は「伝わること」が前提です。初対面同士で、しかも所属が違えば、遠慮や思い込みが生まれやすくなります。現場では作業前のミーティングで責任者が明確に指示を出したり、次の列車の時刻を一人に任せず相互に確認したりする工夫が行われていますが、仕組みがあっても使われなければ意味がありません。今回の事故は、その重い教訓を突きつけていると思います。
吉田裕教授(関西大学)のプロフィール
なお、吉田裕さんは吉本新喜劇の芸人さんと同姓同名ですが、別人です。1995年に東京理科大学理工学部土木工学科を卒業してJR西日本に入社し、2006年から安全研究所の研究員を務め、2023年4月に関西大学社会安全学部の教授に就任しました。入社後は保線の現業職場や軌道材料の技術開発を経験しており、自ら列車見張り員を担当した経験もあります。現場を知る研究者の言葉だからこそ、説得力がありました。
78社アンケートで判明|鉄道トラブルを招く保守作業の人手不足
事故につながりかねないケースは少なくとも42件
番組では、全国78の鉄道会社に緊急アンケートを実施しました。その結果、線路などでの作業中に事故につながりかねないケースが少なくとも42件あったといいます。
具体例としては、退避合図が遅れて列車が緊急停止したケースや、草刈り機の音で見張りの合図が聞こえず退避が遅れたケースが挙がっていました。今回の東武日光線事故は、決して特別な現場で起きたことではないと言えそうです。
人材不足・高齢化・技術継承、2028年度には約2万人不足
課題を尋ねた質問では、人材不足をおよそ8割、作業員の高齢化をおよそ7割、技術継承をおよそ9割の会社が挙げました。JR東日本は、2035年の鉄道工事従事員が2024年に比べておよそ2割減少すると想定しています。国も、2028年度には鉄道業界でおよそ2万人が不足すると推計しています。
吉田教授は、線路内の作業は危険を伴い夜間作業も多いため、安全志向でワークライフバランスを重視する若い世代に敬遠されがちではないかと分析しました。加えて、高度成長期に造られた構造物が50〜60年を経て老朽化しており、「直すべきものは増えるのに、直す人は減る」という厳しい状況が浮かび上がります。
保守作業の人手不足に挑む鉄道会社の取り組み
富山地方鉄道|18人で90km、ヘルメットを叩いて知らせる装置
年間およそ500万人が利用する富山地方鉄道では、保守作業の人員がこの10年で3割減少し、およそ90kmの線路を18人で維持管理しています。同社では2023年4月に19歳の作業員が電車に接触して亡くなる事故が起きており、2026年3月には富山地裁が当時の現場責任者に有罪判決を言い渡しています。番組によると、見張り員が見張りを行わずに作業に加わったことなどが原因とされています。
事故後は、規定どおりに作業を進めているか抜き打ちチェックを実施。さらに、見張りがボタンを押すと金具がヘルメットを叩いて退避を知らせる機器も導入しました。草刈り機の音で合図が聞こえなかったというアンケートの事例を思い出すと、「音ではなく体に伝える」という発想はとても理にかなっています。吉田教授も斬新なアイデアだと評価していました。
弘南鉄道|夜間作業をやめ、日中に運休して枕木交換
青森県弘前市などを走る弘南鉄道では、保守作業を担うのは6人です。これまで夜間に行っていた枕木交換は作業員の負担が大きく、離職が相次いでいました。
そこで、通勤・通学の時間帯が過ぎた平日の朝9時から一部区間を運休にし、日中に作業を行う形に切り替えました。取材の日は5時間かけて5本の枕木を交換し、雪が降る前にあと70本を交換する予定だそうです。利用者からも「直って長く運行できるならありがたい」という声が聞かれました。
東急電鉄など35事業者|AIで線路の異常を検知
都市部では、東急電鉄など35の鉄道事業者と商社などが共同で、AIを使った線路点検システムの開発を進めています。運転席に設置したカメラで線路を撮影し、その映像をAIが解析して異常を検知する仕組みです。番組では、レールを枕木に固定する部材のボルトが脱落しているのをAIが見つける様子が紹介されました。
東急電鉄の担当者は「AIで100点は難しい」としたうえで、人間の技術とデジタルを組み合わせて安全を守りたいと話していました。吉田教授は、列車本数が多い都市部では昼間に線路へ立ち入るのが難しいため、カメラによる点検で線路内立ち入りの機会そのものを減らせる点に期待を寄せています。
鉄道トラブルを減らすために利用者ができること
「計画運休」のように保守作業の時間を受け入れる社会へ
吉田教授は、「これさえやれば絶対に事故は起きない」という100点満点の対策はないと述べ、一つでも多くの安全対策を重ねて100点に近づける努力が必要だと強調しました。
そして利用者に向けては、日本では定時運行が当たり前だと思われているが、それは鉄道員の日々の努力の賜物であり、決して当たり前ではないと語りました。そのうえで、昼間に列車を止めて行う集中作業や、終電を繰り上げて行う夜間作業を社会が受け入れることが重要だと提言しています。台風接近時の計画運休が、時間をかけてようやく社会に受け入れられたのと同じように、ということです。
正直なところ、朝の数分の遅れにイライラしてしまうのは私も同じです。ただ、その数分の裏で、安全を最優先にした判断が行われているのかもしれません。「少しくらい遅れても安全が大事」と利用者側が思えることが、結果的に現場の無理を減らし、事故を防ぐことにつながるのではないでしょうか。
まとめ
2026年9月28日放送のクローズアップ現代は、相次ぐ鉄道トラブルの背景に、保守作業の現場が抱える深刻な課題があることを伝えました。ポイントを整理します。
- 山手線・京浜東北線など2026年の鉄道トラブルには、保守作業でのミスという共通点があった
- 東武日光線事故では、見張り員の配置前に作業が始まり、通常と異なる手順で線路に入った疑いがある
- 吉田裕教授は、個人ではなく組織やマネジメントの問題だと指摘した
- 78社アンケートでは、人材不足・高齢化・技術継承が共通の課題として浮かび上がった
- 富山地方鉄道・弘南鉄道・東急電鉄などが、独自の工夫やAIで対策を進めている
保守作業の人手不足は、鉄道会社だけで解決できる問題ではありません。日中の運休や終電の繰り上げといった変化を、私たち利用者がどこまで受け入れられるか。安全な鉄道を未来に残すための答えは、社会全体に委ねられているのだと感じました。
※ 本記事は、2026年9月28日放送のNHK「クローズアップ現代」を参照しています。


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