ハンバーガーチェーンのモスバーガーが、2026年に売上高で過去最高を記録しました。値上げが相次ぐ時代に、なぜお客さんは増え続けているのでしょうか。この記事では、カンブリア宮殿で語られた「価格のグラデーション化」をはじめとする独自の戦略を、わかりやすく整理してご紹介します。読み終える頃には、モス好調の理由がすっきり腑に落ちるはずです。
モスバーガーの「価格のグラデーション化」戦略とは?売上過去最高の理由
モスバーガーは2026年3月期に、売上高が初めて1000億円を突破し、1027億円という過去最高を更新しました。原材料費の高騰で外食の値上げが続くなか、これは驚くべき数字です。その好調を支える柱が、社長・中村栄輔さんが進める「価格のグラデーション化」戦略です。
これは、500円前後のレギュラー商品から、600〜700円台のプレミアム商品、そして800円以上の超プレミアム商品まで、価格帯を幅広く並べる考え方です。節約したい気分のときも、少し贅沢したい気分のときも、同じお店で選べるようにする。二極化するお客さんの財布事情を、まるごと受け止める仕組みなのです。
個人的におもしろいと感じるのは、これが従来の「松竹梅」とは似て非なる点です。松竹梅は真ん中の「竹」に誘導する仕掛けですが、モスの狙いは違います。同じ人が、給料日前は控えめに、ご褒美の日は奮発する——その「気分の振れ幅」に寄り添っているのです。客層を分けるのではなく、一人のお客さんの中にある複数の場面を取りにいく。ここに、静かな戦略の巧みさを感じます。
うな重バーガーやエビ3種に見る”プチ贅沢”戦略
この戦略を象徴するのが、商品ラインナップの緻密さです。番組で紹介された時期には、エビを使ったバーガーだけで価格の異なる3種類が並んでいました。定番のエビカツバーガー、少し贅沢なエビフライバーガー、そして大ぶりのエビが2尾も乗った海老エビフライバーガー(780円)。同じ食材でも「価格のグラデーション」を作り込んでいるわけです。
そして極めつきが、6000円の「うな重バーガー」です。国産うなぎ1尾分を2個に使った、モス史上最も高額な逸品で、前年にネットでテスト販売したところ、1週間で1000食が完売しました。この反響を受け、翌年は改良を加えて本格的に販売する流れとなっています。
ここで注目したいのは、6000円のバーガーが「たくさん売るための商品」ではないという点です。むしろ話題性そのものが狙いでしょう。ニュースやSNSで取り上げられれば、それは巨額のテレビCMにも匹敵する宣伝効果になります。高額商品を”広告”として機能させる。この発想の柔軟さこそ、モスらしさだと感じます。
モスバーガーが実践する「マーケットイン」戦略と組織改革
モスはもともと、作り手のアイデアを起点にする「プロダクトアウト」の会社でした。日本で初めて売り出したテリヤキバーガーや、1987年発売のライスバーガーは、その象徴です。しかし、それだけではお客さんのニーズを捉えきれなくなっていきました。
そこで中村さんは2019年、独立していた商品開発部門をマーケティング部門に組み込み、お客さんの声を起点にする「マーケットイン」へと舵を切ります。たとえばアボカドを使ったバーガーは、女性客から「量が多すぎる」という声が出たため、翌年に肉を小さくして値下げしたところ、大ヒット商品になりました。声を聞く効果が、数字にはっきり表れたのです。
ところが中村さんは2024年、この開発部門を再び独立させます。市場の声ばかり聞いていると、似たような商品ばかりになってしまうから、というのがその理由でした。「モスって面白いことをやるよね」という期待に応えるには、作り手の個性も必要だと考えたのです。統合と分離を行き来する——この振り子のような柔軟さに、経営の本質が詰まっている気がします。
中村栄輔社長が受け継ぐ「起業家精神」とジャンケン方式
こうした挑戦を支える精神的な軸が、創業者・櫻田慧さんから受け継いだ「起業家精神(アントレプレナーシップ)」です。中央大学法学部を卒業後、1988年にモスフードサービスへ入社した中村さんは、管理職として初めて出た会議で、この言葉に深く感銘を受けたと語っています。自分自身でリスクを負って仕事をする——その姿勢が、後の改革の原動力になりました。
その精神を社内に広げるユニークな工夫が「ジャンケン方式」です。デザインなどを決める会議で、「最初はグー、ジャンケンポン!」の掛け声に合わせ、全員が一斉に自分の推す案に手を挙げる。実際にジャンケンで勝敗を決めるわけではなく、掛け声はきっかけにすぎません。
なぜこんな方法をとるのか。理由は「忖度」をなくすためです。上司の顔色をうかがうと、結論はいつも上役の推す案に落ち着いてしまう。中村さん自身、社長就任時に会長の意向に合わせてしまった経験があるといいます。全員が同時に手を挙げれば、周りの様子を見て意見を変える余地がありません。手を挙げるという小さな行動こそが起業家精神そのもの、という中村さんの言葉には、深くうなずかされます。
人手不足対策「モスレコーズ」——働く場所を夢を叶える場所へ
外食業界が深刻な人手不足に悩むなか、モスは人材確保のためのユニークな取り組みを始めました。それが2024年4月にスタートした音楽レーベル「MOS RECORDS(モスレコーズ)」です。全国のモスで働くスタッフを対象にオーディションを行い、最優秀者をプロデビューさせて、その後の活動も後押しします。
第1回のオーディションには100名を超える応募が集まりました。番組に登場したアルバイトの星野美月さんも、このオーディションに参加するためにモスで働き始め、グランプリを獲得してデビューを果たした一人です。実際、この取り組みを始めてからアルバイトの応募が増えたといいます。
「働く場所」を「夢を叶える場所」に変える。この発想は、単なる福利厚生の枠を超えています。時給の高さだけで人を奪い合う採用競争から一歩抜け出し、「ここで働けば夢に近づける」という物語で人を惹きつける。ブランドの世界観と採用戦略を一本の線でつなぐやり方は、他の外食チェーンにはなかなか真似できないでしょう。
新業態「玄米食堂あえん」で客層を広げる戦略
モスの挑戦は、ハンバーガーの枠にとどまりません。その一つが、和定食の店「玄米食堂あえん」です。看板は、千葉県産コシヒカリの玄米をベースに白米を2割ブレンドした「二八玄米」。健康を気づかう世代に支持され、すでに3店舗を展開し、来年度中に10店舗以上を目指しています。
興味深いのは、この店がモスを名乗りすぎない点です。運営元がモスだと知らずに通うお客さんも多く、実際、番組では「モスバーガーはあまり行かなくなったけれど、こちらのほうがいい」と話す常連客の姿も紹介されました。つまり、バーガーから離れてしまったお客さんを、別の業態でそっと取り込んでいるのです。
さらに東京・銀座では、昼はハンバーガー店、夜はお酒も楽しめるバルという「二毛作」の店も動き出しています。一つの店舗で昼と夜、両方の売上を狙う発想です。過去には撤退した業態もあるそうですが、中村さんは失敗もまた学びだと前向きに捉えています。とにかく動いて挑戦する——その姿勢が、モスの新しい客層を切り開いているのだと感じます。
まとめ
モスバーガーが売上過去最高を達成した背景には、「価格のグラデーション化」で幅広い客層を受け止め、「マーケットイン」と作り手の個性を行き来し、モスレコーズや玄米食堂あえんといった枠を超えた挑戦を重ねる姿がありました。その根っこにあるのは、創業者から受け継いだ「リスクを恐れず挑戦する起業家精神」です。次にモスを訪れるときは、その一皿の裏にある戦略に、少し思いをめぐらせてみると面白いかもしれませんね。
※ 本記事は、2026年7月2日放送(テレビ東京系)の人気番組「カンブリア宮殿」を参照しています。
※ モスバーガー公式サイトはこちら。




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